Gundam Meisters
SS
※ ガンダム00 2nd season 第8話の冒頭部分に武力介入していますので、ご注意ください。
「
――・・そうそう、それからもうひとつ」
まるで今思い出したとでもいうように、その男
――自分とほとんど変わらない容姿をした、リジェネ・レジェッタと名乗る彼は、呆然と立ちすくむティエリアを振り返った。眉根をきつく寄せ、形のいいくちびるをわななかせているティエリア、その小さく震える背中にリジェネが浮かべるのは優越、蔑み、そしてどこか親愛にも似た微笑。ティエリアはきゅっと口元を引き結ぶ。以前は、ヴェーダへのアクセス権を持っていたころは自分と他人のあいだに情報差があるのは当たり前だった・・・・向こうが知っているものをこちらが知らない、その屈辱をまたここで味わう羽目になろうとは!
「今日は、君に会わせたい人間を連れてきたよ」
その静かな声に導かれるようにティエリアはゆるゆるとリジェネを振り返り・・・・・世界は瞬間、凍りつく。
「
―――・・、彼女と会うのは四年ぶりかい?」
・・死んだものだと、思っていた。最終決戦の後、プトレマイオスによって救助されたティエリアが意識を取り戻したとき、そこに自分以外のマイスターは、の姿は影も形もなかった。広い宇宙をそれこそ血眼になって探した結果見つかったのは、大破した彼女のゆりかごのみ。がただひとつ必要としたガンダム、その損傷具合やコックピット内に残されていた大量の血液から下された判断・・・それを覆す漆黒が、リジェネの影に添うように佇んでいる。
「・・・・・そんな・・っ、生きて・・!」
「その様子だと、勝手に殺されちゃってたみたいだね・・・・可哀想な」
まるで言い含めるような声音で言葉を紡ぎながら、リジェネの指先が顔の輪郭をつぅとなぞる。ふっつりと閉じられたまぶたはぴくりとも動かない、短く切り揃えられた夜色の髪に触れられても表情一つ動かさないそれは、不出来な人形を思わせた。脳裏に閃いた最悪のシナリオが、ティエリアの血を沸騰させる。
「貴様、まさか・・・!」
「やだなぁ、下世話な想像はやめてくれる? ほら、ティエリアだよ・・覚えてるかい?」
「・・・・・・・・ティエ、リア・・」
どういう意味だ、と投げつけようとした言葉を封じるかすかな声。記憶にある最後のそれより、やわらかく湿り気を帯びた声色がティエリアの耳朶を打つ。やがてふるりと震えるまぶた、のぞく瞳の色は今まさに沈もうとしている月のような灰白色
――茫洋として交わらない視線にはカケラの感情も浮かんでいない。・・否、その瞳はティエリアの姿、わずかな光すら映していなかった。
「・・・ティエリア、どこ・・?」
リジェネの手を離れ、はゆるゆると両手を持ち上げながら一歩を踏み出す。あまりに頼りなく、覚束無いその足取りはまるで彷徨う幽鬼のようで。よろよろと、ふらふらと。恐る恐る踏み出される一歩は地面から離れるのを嫌がり、靴底がじゃりじゃりと音を立てている。
―――思わず目を逸らしたくなるような、光景。けれど縫いとめられたようにそれから視線が外れない、思わず息を止めていたことに気付くのは脳が苦しいと叫んだ後だ。
「どこだよ、返事くらい・・・・・・ってうわ!」
「!」
小さな石につまずいてバランスを崩したそれを咄嗟に抱きとめ、ティエリアはぎり、と奥歯を噛み締める。色違いのパイロットスーツに身を包んでいた四年前よりも体の輪郭が丸くなった、同じ量の筋力トレーニングをこなしていた、こなせていた頃とは違う ぐにゃり とした柔らかさが気持ち悪い。男も女も関係なかった、あれは何よりも先ず “ガンダムマイスター” で、それ以上でもそれ以下でもなく、ただそれだけだった。
「ティエリア・・?」
「・・・・なんだ、」
見当違いな方向に顔を上げたは、自分の体を支える腕にぺたりと触れた。
「おお、ほんとにティエリアだ」
大きくないてのひらが、ティエリアの腕から肩、首筋をぺたぺたと無遠慮に辿る。不快ではない、といえば嘘になる。嘘になるがティエリアは、その手を振り払えなかった。あご先に触れた指が小刻みに震えている、もうティエリアの頭の位置を確認しているだろうに決してこちらに顔を向けようとしない態度に息が詰まった。短く切り揃えられた髪を風が撫で、その隙間から頼りないうなじがのぞく。
そうして、氷よりも冷たいてのひらがティエリアの頬に触れた。そっと這わせられた指が閉じたまぶたの上を撫で、鼻先に触れ、くちびるをなぞる。
「・・・・うん、ほんとにティエリアだ」
泣きそうな顔で笑ったのひたいが肩口にそっと預けられる。・・どうやらこの馬鹿は、標準装備の図々しさを四年前に置き忘れてきたらしい。まるで羽根のような軽さで、おずおずと預けられたそれに感じたもどかしさはティエリアの苛立ちに直結する、の背中に回した手を後ろ頭に添えて力を込めた。
「・・ティエリア、顔ほんとに変わってないのな」
「よく言われる」
「・・・おかげで、すぐわかったけど」
ふっと緩められた口元、本心を言葉や態度に滲ませないこれの本音を映す鏡は、闇のような漆黒だったはずだ。すべてを吸い込む底の見えない湖のように、濃い霧で覆い隠され、水底に沈められたそれを暴けたのはティエリアただひとりだったはずだ。外から入ってくる光をただ反射するだけのガラス玉が、表情をゆがめた彼を映し出す。
「ティエリア、顔こわい」
「・・!」
「・・・あのな、見えなくてもわかるっての」
の指がまぶたの上を辿って眉間に触れる、「皺、ひどすぎ」 と笑みを零して。
「
―――・・てっきり、戦死したものだと思っていた」
「あー、なんかちょっと色々・・立て込んでて」
「・・・・・そのようだな」
さも愉しげに口の端を吊り上げるリジェネ、同じ色をした視線を先に逸らしたのはティエリアだった。ティエリアに向けられている灰白色の瞳はまっすぐ彼の姿を映しているが、決して焦点が合うことはない。自分を通り過ぎ、その背後の虚空を見上げているような。
「・・もう何も、見えないのか」
ぱちり。ティエリアの言葉におおきく瞬きをしたは、四年前と同じ顔でへにゃりと笑った。
「明るいか暗いか程度のことならなんとなくわかるけど・・・・、うん、もうなんも見えない」
「・・再生治療は、」
「やってみて これ だからなぁ・・・・・むしろ良くなったほうだって言われたし」
「そう、か」
「うん」
それでも、生きていてよかった。
――ティエリアは言葉を奥歯で噛み締める、あれの失ったものが、あれにとってどれだけ必要なものだったか知っているだけに告げることができなかった。刹那のようにガンダムを求めたわけではなく、求められたがゆえに離れることのできなくなった “哀れな子ども”。四年前のティエリアの依り代がヴェーダだったとしたら、のそれはガンダムそのもの・・・失ったものの大きさなど、当人にしか分からない。
「刹那とかは・・この四年で、結構変わったんだろうねぇ。あとフェルトも」
「・・ああ。アレルヤ・ハプティズムはさほど変わっていなかったが」
「そりゃ、あれ以上おっきくなられても困るし」
「
―――君は、変わったな」
「・・・・・そう? 自分じゃ、もうよくわかんないや」
あの漆黒が、嫌いだった。深く果てしない宇宙の闇を封じ込めたような漆黒の瞳、どんなときでものらりくらりと振る舞うくせに、常闇の中で密やかな炎を揺らめかせて。いつかきっと、それが計画を妨げる 何か になるだろうと思っていた、だから存在を嫌悪した。・・あのときの予感は確かに正しかった、これは光を失うことでガンダムマイスターという役割を、
――計画の一部を破綻に導いたのだ。
「・・・、そろそろ時間だよ」
声の方向にふっと首を傾けたは、それまでティエリアの頬に触れていた手を自身の背後に伸ばし、リジェネの手がそれを捕らえる。ごくごく当たり前のように離れていくやわらかな重さ、誰にも懐こうとせず、誰にも手を伸ばそうとしなかった猫の首にはいまや、銀の鈴がついた首輪が存在感を放っている。朝日が作り出した、影の中に黒猫が溶けようとする。
「・・戻るつもりはないのか」
「もうわたしは、たたかえないから。・・これ以上 “ないものねだり” なんて、したくない」
喪失
レゾンデートル
022:喪失レゾンデートル(レゾンデートル=存在意義) ... 鴉の鉤爪 / ざっくばらんで雑多なお題(カナ交じり編)
writing date 08.12.08 up date 08.12.12
2nd 第8話より。・・この先のことなんてろくすっぽ考えてない気配が濃厚です。