Coupling Parody

:fairy story (4-2)



「クッキー焼けたよー、ふたりとも」
「っ、今行く!」
「ちょ、お前少しは片していけっつーの」

床の上に転がったままのコントローラー、両腕を使って○×△□ボタンとスティックを器用に操っていたは、キッチンからアレルヤの声が届くや否や、今の今までがっついていたそれを簡単に放り出した。部屋中に満ちている香ばしい甘さに、自然の頬は緩む。キッチンに近づくにつれて甘い匂いがむせ返るほどに強くなり、それに比例するように彼女の漆黒がきらきらと輝きを放つ。

お皿の上に並べられた、まだほかほかと湯気を上げるあたたかなクッキー。プレーン、ココア、チョコチップ、アーモンド、くまやうさぎの型にくりぬかれたクッキーにアイスボックスクッキー、湯気と共に匂いたつ甘さを全身で受け止めた妖精が皿の上でふわふわと舞う。そうしてチラとキッチンの様子を窺い、紅茶やコーヒーの用意を始めたらしい彼らに対する苛立ちを声にした。

「そんなのもうどーでもいいからさ、はやく食べよーよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめん今のウソですどうでもいいとか全然思ってないよティエリア!・・ただ、ただちょーっとお腹すいたなぁって、」
「ふふっ、わかったよ。

何もかもを見透かしたようなアレルヤの銀目に微笑まれて、はぐっと言葉を飲む。今さら繕う体面などアレルヤの前にありはしないがそれでも、これはあまりに気恥ずかしい。下唇をわずかに噛んでしずかにテーブルの上に降り立った妖精はお皿のふちに両腕を乗せ、そこにあごを埋めた。きゅう、と口をつぐんで “待て” の姿勢をとる。

じいっとクッキーの山を見つめていたが、フッと顔に落ちた影に気付いたのはいつもよりもワンテンポ遅いタイミングだった。はっとしたように視線を持ち上げても時すでに遅し、眼前に迫った巨大な人差し指がの額を襲う。でこぴん、というわけではない、しかしその衝撃を真正面から受け止める羽目になった妖精の小さな体は、でんぐり返しを逆再生しているかのようにもんどりうってテーブルを転がった。・・・・・・あ、あまりの痛さに声も出ない。自分だって妖精のクセに、人間サイズになれるからといって加減を忘れるとはなんたることか! 痛みと衝撃で思わず漏れそうになった声を根性で押し殺し、代わりにギロリと睨みつけた先では人間サイズのハレルヤがにやにやとこちらを見下ろしている。

「・・・っにすんだよ、ハゲルヤ!」
「べっつにー? ただ、ずいぶん時間がかかったなと思っただけだ」

いざ噛み付かんと牙を剥いた妖精は、自分だけに聞こえる程度まで低く落とされた声にきゅっとくちびるを引き結んだ。腹の底から湧いてくる罵詈雑言が、舌の上で散り散りになって消えていく。表情をこれ以上ないまでに歪め、口の中でもごもごと紡がれる言葉はハレルヤにとって意味を成さない。くつりと口の端を持ち上げ、愉快そうに細められる金目。

「・・ま、そのくらいしても構わねェと思うぜ? 俺は」
「・・・・・ハレルヤはだって、遠慮って言葉を知らないじゃん」
「人ン家で散々ゲームしといて、片付けもしねェ誰かさんにだけは言われたくねェセリフだな」

人差し指の腹であごを掬い上げるように持ち上げられたはくちびるをへの字にひん曲げ、伏せたまぶたの隙間から獰猛な金色を睨みつける。あぐらをかいて座っている現状を維持しようとする妖精と、その人間の指が二本あればぽきりと壊れてしまいそうな小さなあごを掬い上げる人間の力はしばらく拮抗状態のまま。けれど妖精の視界にキッチンから出てきた紫苑の影がちらついて崩れた均衡は、妖精をごろんと仰向けに転がした。後ろ頭をしたたかにうちつけた鈍い音が、痛みに呻くをパートナーの目に晒させる。

「・・・・・・・・・お前は、本当に・・」
「言い訳ぐらい聞いてくれてもいいと思うよ!?」

ふらふらと浮かび上がり、ティエリアの肩に降り立った妖精は右の手でしっかりと紫苑を握った。ずずっと小さく鼻を啜る音がティエリアの耳に聞こえる、眇められた深紅の先には “お手上げ” と言わんばかりの表情で両手を掲げるハレルヤ。

――じゃあ食べようか。たくさん食べていいからね、
「っ、うん!」

その小さな顔一面に、ぱっと弾けるような笑みをこぼした妖精はしばらく、クッキーの山の上でふわふわ眼下を見下ろしていた。やがてぺろりとくちびるを舌でなぞり、クッキーの山に突撃をかける。

積み重なった様々な種類のクッキーに、は目もくれなかった。両手を使って自分の顔よりも、自分の半身よりも大きなクッキーを掻き分け掻き分け、彼女はまるで大海を割ったモーセのようにクッキーの山を切り崩していく。“何してんだ、” という呆れた表情を隠そうともしないハレルヤと、妖精の意図を理解したかのようににっこり笑うアレルヤ、妖精の行動にぱちぱち瞬きを繰り返すばかりのティエリアを放り出して、はひたすら自分の行く手を遮るクッキーを掻き分け続ける。

「・・・・・・・・・、見っけ」

クッキーの山の中央部、切り崩されたそれは既に山の形をしていなかったがその中心部。こんがりとちょうどいいきつね色に焼けたクッキーたちのなかで、“それら” はひどく浮いていた。きつね色というよりはたぬき色、ちょっとというよりはだいぶ焼けすぎて、香ばしいというか焦げ臭い匂いを発しているプレーンクッキー。かぷり。引きずり出した一枚に歯を立て、両脇にそれぞれ一枚ずつ焦げたクッキーを抱えたは意気揚々と着た道を戻り、皿の縁に足をぶらぶらさせながら座り込んだ。

「いっただっきまーす」

さくりと口の中で軽快な音を立てて崩れるクッキーはやはり見かけどおりほろ苦く、けれどはそれを口いっぱいに頬張ってふわふわ笑う。――・・ああ、なんておかしくてたまらないんだろう。今でさえ妙に硬かったりべしょべしょに水っぽかったりするご飯をこしらえるティエリアが、はじめてのお菓子作りにいきなり成功するはずがないのだ。アレルヤに面倒を見てもらいながら作ってどうしてこんな焦げ焦げのクッキーに仕上がるのか正直理解できないが(アレルヤの料理の腕、特にお菓子作りに関するそれはプロ級だ)、それはそれ、これはこれ。もきゅもきゅと咀嚼しながら見上げた先で、紫苑は口を開かない。

「・・・・うん、まぁまぁってとこかな」

ひとつ瞬きをした深紅、呆れたように短く吐き出される息。けれどその口の端がわずかに緩んでいることに気がつかない妖精ではない。ス、と伸びてきた女のそれのように細くて長い指が、身一つで特攻をしかけていた妖精の髪やらについたクッキーのかすを取り払う。くすぐったそうに身を捩りながら、けれど両手で抱えたクッキーをそのままに。


スウィート
ブランケット


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スウィート・ブランケット ... ジャベリン
writing date  08.02.09    up date  08.02.14
どうやら妖精パロの基本精神は ツンデレ にあるらしく。