第5話
未だ腹の虫が収まらないのか、新八と神楽、そして定春の2人と1匹はずんずん前に歩いていく。
その後ろをとぼかすかに殴られ、蹴られ、咬まれて傷だらけの銀時がとぼとぼとついていく。
「俺ぁよ、帰りの遅いお前らを心配して迎えにいってやったんだぜぇ?なんでその銀さんがこんな目に遭っちゃうのよ・・」
ぽつりと銀時が言葉をこぼす。
彼の羽織っている着流しがところどころ赤く汚れているのはの見間違いではないだろう。
「なんか悪かったな、銀時さん」
「いやぁ、悪いのはチャンじゃなくてあのツッコミ専の眼鏡と、脳みそ胃袋のチャイナ娘な「「なんか言った (アル) か、天パ野郎」」
「スンマセン」
ぎろり、という擬音ピッタリに振り返る二人に、銀時はただ謝るしかしらない。
はそんな3人の様子に思わず小さな笑みをこぼした。
「なぁに笑ってくれちゃってんのよ、チャン」
の笑顔に多少どきりとしながらも、それをさも見咎めたように銀時が言う。
恨みがましく見上げれば、笑顔を苦笑に変えたと目が合って。
「いや、仲いいなぁと思ってさ。銀時さんと新八と神楽」
「・・・銀ちゃん」
「は?」
表情を消して自分の名をつぶやく大の男は多少気持ちわるい(しかもチャン付け)。
けれどその目はきらりと輝きを放った気がして。
「俺のことは銀ちゃんって呼びなさい」「・・・・・銀さん」「銀ちゃん」「銀さん」
しばしの沈黙。視線だけで無言の攻防が数秒間行われたのち、
重いため息を吐いたのは銀時。
「わぁったよ。銀さんで手を打ってやるよぉ。銀ちゃんがよかったなー」
ぼそっとした呟きは聞こえなかったことにして、は銀時を見上げた。
「これからよろしく、銀さん」
「おォよ。任せとけー」
+ + + + + + + + + +
その日、4人での夕食は決して豪華ではなく。
しかしいつもより一品おかずの多い夕飯に、銀時と神楽は目を輝かせて。
万事屋の新メンバーとなったを中心にしていつもよりも更にテンションの高い夕食となった。
夕食の後片付けを終えても、話の花がしおれることはなく。
一体どこから持ち出してきたのやら、銀時が秘蔵のお酒を振舞ったものだから、むしろ盛り上がるというか騒がしくなる一方である。
少しだけ、ほんの2,3口を含んだ新八と神楽は、狂ったように笑い転げたりいきなり泣き出したり、
挙句の果てに怒り出したかと思えば寝てしまった。
「あーあー、まったくこのガキ共はぐっすり寝ちまいやがってよぉ」
床の上で涎を垂らしいびきをかいて眠る新八を足で転がして、銀時は更に一口酒を含む。
「止めろよ、新八起きちまうだろー?」
は苦笑しながらその様子を眺める。
その馴染み方は今日はじめて出会った人間とは思えない。
「ってか、おめーちゃんと飲んでんのかぁ?」
「俺酒はダメなんだよ。一口は貰ったけど」
そういえば、の頬にはうっすら赤みが差している気がする。対する銀時は真っ赤になっているのだが。
しっかりした足取りではベランダへと向かう。
あー、夜風が気持ちいー、という声が夜の闇にしっとりと消えていく。
「あ、そーいやぁお前幾つだよ?」
「言ってなかったか?今年で19」
「・・・・・ぁ?」
「いーよ。16,7かと思ってたんだろ、どーせッ!」
ぷいっと銀時から顔を背けて、は唇を尖らせる。
あわわ・・ときょどる銀時で一つ笑った後、再び彼女は笑みを戻した。
「いいんだ、慣れてる。童顔ってよく言われるし・・男顔だともな」
横目で銀時を見てニッと笑う。
銀時の頬の赤みが増したのは酒のせいだけではないだろう。
「んなこたねぇよぉ。チャンはめっさカワイイぞぉお?」
「はは、ありがと」
「そーだぞぉ。チャンは銀さんのもろタイ「あぁ、はいはい」
「えッ!?いま銀さん完全に流されたっ?」
満天の空に広がる漆黒に、丸い月だけがぽかんと浮いている。
完全に光に満ちた月は他の星をその青白い光で隠してしまっていて。
「・・・・この世界でも、月はおんなじ顔をしてるんだな」
「あ?」
静かで愁いを帯びた声に、銀時は視線を動かす。
視線の先の少女(というには実年齢が高すぎるような気がするが)は月に魅入って・・・いや、月に魅入られているかのようで。
「俺の世界の月も、おんなじ顔だ。・・いや、ちょっとぼやけてるか――あぁそうか、こっちの夜のが明るいからか」
ぽつりぽつり、と温度を感じさせない口調。の口から思うより先に言葉がこぼれだしているようで―――
瞬きをするその一瞬の間に、彼女の姿は掻き消えてしまうような儚さ。
「の世界にも、月はあるのか」
「うん」
「星も?」
「あぁ、太陽もある」
「そっか」
お猪口の底に少し残った酒を飲み干す。のどを通るその液体は、カッとするような熱さを伴って。
「・・・やべ、どーしよ。銀さん久しぶりに酔っちゃったかも」
「ぇええ?まじ?」
まじまじ、大マジ、と軽口をたたいた銀時は、
ふらりとした覚束無い足取りで手すりに寄りかかっていた身体を起こす。と、そのとき。
「うわ、お前もうふらふらじゃん。どれくらい飲んだら酔うかとか把握しとけよな」
ぐらりと銀時の身体がバランスを崩した。
あれ、と酩酊する頭で追いかけ気味に考えていると、横から伸びてきた腕に支えられる。
細い、しなやかな腕に。
「・・・酒臭ぇ」
「そー言わないでよ、チャーン」
「ったく・・・歩けんのか?」
「・・・・・」
はぁ、というため息が横から漏れる。
さすがにまずったかなぁ、と銀時が考えた矢先、はそのため息を苦笑に変えた。
「俺の仕事は、むこうでもこっちでも同じ、か」
なんとなく。なんとなくもう、は大丈夫な気がして。銀時はこっそりと笑みを深める。
novel
大江戸のらくら記第1章、読んでくださりまことにありがとうございます。
とりあえず、紹介の話とさせていただきました。
これから、真撰組にも絡んでいきますのでどうぞご愛顧を。
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また、blogにて制作に関する裏話などをさせていただいています。興味が湧かれましたらご一読くださると嬉しいです。
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07.03.30 第1章 一部改訂