第9話
お風呂から上がり、濡れた髪をタオルでがしがしと乱雑に乾かしながら、が事務所兼居間にもどる。
たいがい、銀時と神楽の二人がテレビを見ながら寛いでいるのだけれど、今日は違った。
「あ、れ。神楽、銀さんはー?」
「・・・ん、知らないアル」
ソファの上で体育座りをしながら、神楽が一歩遅れて答えた。
声のトーンは低く、ゆったりとしている。瞼はいかにも重そうで、同じスピードでゆっくりと首がもたげる。
「神楽ぁ。お前もう眠いんだろー?」
「・・違うもん」
「・・実は俺もう眠くてさー。神楽はまだ寝ない?」
くあぁ、とが大口開けて欠伸をした。そして、眠たそうに目を擦る。
「・・しょうがないアルね。が眠いなら私も寝るアル」
「そっか。付き添うよ」
神楽はゆっくりした、大きな動作で立ち上がる。夢の中に片足の膝くらいまで突っ込んでいるようだ。
寝床となっている押入れの襖を開けて慣れた手つきでよじ登る。
自身の形に窪んだ布団に横になった神楽は、うっすらと開けた目での姿を追った。
「今日はゴメンな、心配かけて」
「気にして、ないアル。何にもなかったなら、それで・・・」
色素の薄い彼女の髪を手で梳いてやると、神楽はすぅ・・と瞼を閉じた。
だんだんと言葉が空気の中に紛れていった後、規則正しい寝息が耳に届く。
「おやすみ、神楽」
襖を静かに閉める。彼女の夢がシアワセなものであることを胸の中で願いつつ。
居間では浴衣に着替えた銀時が、今しがた買ってきたのだろうか、プリンの封とコンビニの袋とをくしゃっと丸めてテーブルの上に放り出していた。
「銀さんコンビニ行ってたんだ」
「ん?いやーなんか急にプリン食いたくなっちまってよぉ。いてもたってもいられなくなっちまったんでな。食う?」
「もらう」
銀時がコンビニの袋の中から、もう1つごそごそと取り出したのを受け取る。
銀時が自分の分以外にも買ってきていたことに、は多少驚く。
もちろん、その驚きの意図が伝われば銀時は差し出したプリンを即回収するだろうから、ばれないように胸のうちでだけ。
「神楽の奴、もう寝たのか」
「あぁ、ついさっき。俺が風呂からあがったときにはうとうとしてた」
「・・新八と二人して騒いでたからなぁ。疲れたんだろ」
「あー・・・ゴメン」
「俺に謝ってどーするよ」
銀時が柔らかく苦笑する。この男がこうして時折見せる表情は、どこか人を惹きつける。
「ま、かくゆう銀さんも心配したんだけど」
「ご、ごめんって!」
「――――・・とにかく無理しねぇよーにな」
「ん・・・ありがと」
言葉は少ないし、目は死んだままだし、態度は無関心っぽいし。
それでも銀時が心配してくれているのも、気遣ってくれているのもにしんと沁みる。
この一見冷めた男の懐は、実は相当に深く、広く、そして温かい。
「まじめに言っとくけどな、」
「?」
「真撰組のやつらには、気をつけろよ。男なんざ、所詮オオカミなんだからな」
「銀さん、鏡見てきたら?多分目の前にオオカミ映ってる」
novel
のらくら記第2章はこれにて終了です。第3章にバトンタッチと相成ります。
真撰組に絡みました。これからももちろん絡んでいきます。
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07.03.30 第2章 一部改訂