第8話
「・・・、顔あげろコラ」
うずくまるの前に銀時自身も座り、ぽん、と頭に手を置く――-・・と、それまで頑なだった彼女が動いた。
「・・銀ちゃん?」
「おー、お前酔うと俺のこと"銀ちゃん"って呼んでくれんのな」
柔らかく苦笑した銀時が、袖でごしごしとの涙をぬぐう。
「ったく・・・世話が焼ける酔っ払いだなァ、オイ」
涙やらなんやらで顔をくしゃくしゃにしたが、銀時の腕のなかに倒れこむように崩れた。
着流しの袷をぎゅうと握りしめ、顔をうずめて体を震わせる。
そんなを包むように抱きとめた銀時は、2,3度頭に手を置いて彼女の背中に回した腕に力をこめた。
「・・・・っ、ちちうえ・・っ」
それはかすかな呟きだった。
かみ殺すように、奥の歯で呟かれた言葉は、銀時とすぐそばで様子を窺っている土方、そして沖田にしか届いていない。
けれどその声音は、はっきりと脳みそに焼き付いて。
「大丈夫だっつの。俺がこんな近くにいて、何を怖がってんのかねーは。あ、多串くんか」
よっこいしょ、とじじ臭い台詞を吐きながら、を抱えて銀時が立ち上がる。
ぴくんとの体がはねたが、おとなしく銀時の腕に抱かれたままだ。
「ちょっと悪ぃけど、コイツ悪酔いしちまったみてぇで吐きそうだとか抜かしやがるんで、俺らはお先に失礼しまーす」
「え!?ちゃん具合悪いのか!?」
「あー心配ねぇ心配ねぇ。明日になりゃけろっとしてんだろ。つーことで、新八、神楽お前らはまだ帰んなくていいから。この先1週間分くらい食って来い」
「え? でも銀さ「んじゃーまたご贔屓にー」
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有無を言わせず、銀時は屯所を後にした。
夜のかぶき町ともなれば灯りなんて必要ない。
けれど、だからこそそんなネオンに照らされた道ををおんぶした状態で歩くのはためらわれて、かなりの遠回りだけれど人通りの少ない道へ迂回した。
道端に灯りは少ない。
けれど、運よく今宵はぽってりとした満月で、真ん丸で大きな月が歩くのに困らない分ぐらいの光は与えてくれている。
「今日は満月かァ」
そういえば、が自分たちの目の前に現れたのも満月の日だった。
月明かりに照らされた彼女の姿は、月の魔魅さながらだったことを思い出す。
あの日を境に月はまた徐々に光を欠いて、そして今度は光に満ちて。
「お前が来てから1ヶ月たったんだなァ」
――――・・"もう"なのか"まだ"なのか区別がつかない。
けれど、もしも。
もしもがもといた世界に戻る日が訪れたとしたら、俺は。
手放せるのだろうか。背中に眠る、彼女を。
「・・・ぁれ・・・?銀さん?」
「よぉ、お目覚めですかー」
すとん、と地面に降り立ったはあたりを見回し、銀時を見返して言った。
「あれ?宴会もう終わった?」
「・・・ってお前、なんも覚えてないわけ?」
何のことだよ、と首をひねるに、銀時は盛大なため息を吐き出す。
こんなオチじゃないかとはうすうす感じていたが、ものの見事に的中するとは。
「ぅー・・頭痛い。俺もしかして酒飲んだ?」
「・・・ばっちし」
「うっわぁああ・・やっちまった」
どーしよ、俺明日から真撰組の奴らに会わす顔ないよ、やっべー・・はその場にうずくまって頭を抱える。酔ったときの記憶はないが、自分が酔ったらどうなるかは聞かされて知っているのだ。
「ホラ、けーるぞ」
目の前に差し出された手をうらむようにひと睨みした後、はその手を取ってたちあがる。
できることなら逃げたいが、避けられぬ――――明日は、弁解の一日だ。
novel
第4章「酒は飲んでも呑まれるな」完結です。定番のネタですがお楽しみいただけましたでしょうか。
やたらと男前なヒロインですが、お酒には弱いという弱点がようやく見つかりました。
これからも可愛がってあげてください。
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07.03.30 第4章 一部改訂