第11話


「・・・、どうしたアルか?なんだか元気ないネ」

はぁ、とため息を吐いたの肩にとまった神楽は、心配そうに見上げながら言いました。

「いつもなら、この程度じゃ、全然疲れないアルよ」
「・・・だよなァ」

そう言って再びため息を零すの周囲には、彼女に打ちのめされた兵士たちが死屍累々と横たわっています。 ある者は地面と熱烈なキスを交わし、ある者は取り込んだばかりの洗濯物のように折り重なって倒れており、 はその積み重ねられた山の上に胡坐をかいてぼんやりと雲なんかを眺めていました。

「ダンパに行ってから、おかしいアル。何かあったんなら、ワタシに話すヨロシ」

その言葉に触発されて思い出す、あの人。 別れ際に背中で聞いた彼の声はのなかに未だ鮮明に残っていて、耳の奥のほうで彼はまだの名を呼んでいました。

「・・・っ、なんでもないよ」

す、と神楽から顔を背けたのは、自身が自分の顔に宿った熱を自覚したからでした。

ー、ちょっとこっち来てくだせぇ」
「あ、はーい!スグ行くーっ!ゴメンな、神楽。また後で話そ?」
「・・・うん」

総悟母さんの声に呼ばれたの背中を中空で見つめながら、神楽はなんとなく。 ―――なんとなく、別離のときが迫っていることを感じとっていました。


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総悟母さんのところへ行くと、なぜだか妙に着飾った姉たちが役人らしき人たちに詰め寄っていました。 なんのことだかサッパリわからないながらも、は役人たちに深く同情してしまいます。

「総悟母さん、どうしたの?」
「ああ、この前のダンパで天パ王子と踊った美女を探してるそうで」

――――ドクンッ

の喉は一瞬で干からびてしまいました。 周りの人にも聞こえているのではないかと思うほど大きな鼓動が、のなかで木霊しています。

「・・・なんで・・」
「なんでも、鐘の音がなるや否や逃げちまったらしいや。で、未練タラタラの王子は、その女捜してるってわけですぜィ」

全身がカッと熱くなります。探しているというのは間違いなく・・・・・。

「逃げるときに落としたらしいガラスの靴が唯一の手がかりなんでさァ。それで、国中の女どもに履かせて回ってるんだと。ったく、ヒマな奴らだぜィ」
「お・・・俺は別にいいだろ。行ってないんだし・・第一美女じゃないし」

覚束無い足取りで一歩下がったでしたが、今の今まで二人の姉たちにボコボコにされていた役人が顔を上げました。 眼鏡はフレームが曲がり、そのズレかたといったらリアクション芸人も真っ青です。

「いえ、国中の女性に履かせるようにってのが王子の命ですので・・・アナタも、お願いします」
「・・・でもっ「いーから、さっさとやりなせぇ」

差し出されたガラスの靴。 それは逃げるように帰ってきたあの時、姿の見えなくなっていたガラスの靴に間違いありませんでした。この場から逃げ出してしまうことも出来ないわけではありませんが、それが解決になるはずがないとわかっていました。
それに―――また会えるかもしれないと期待している自分に、は気付いてしまったのです。

「・・・・・・わかった」

ゆっくりと、ガラスの靴に足を差し入れます。 一点のくもりもなく、輝きを放つガラスの靴はの足に触れた瞬間、その光を増しました。 いっぺんの無駄もなく、の足はすっぽりと包まれます。

「――――・・あなたなんですね?」
「・・・・はい」

唖然とする総悟母さんと姉たちの前で、は新八の言葉にしっかりとうなずきました。

「・・探しちまったじゃねーかコノヤロー。かくれんぼなら負けねーぞ」

ハッとしたが、声の方向に顔を向けると。



「・・・来いよ、




その優しい囁きに満面の笑みを浮かべたは、声のほうに駆け出します。 そんなを抱きとめ、強く強く腕の中に閉じ込めて視線を交わし―――そして・・・「起きろよコラ」


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「・・・・・・・んーッ、ちゅぁああん
キモ

触れたのは、の柔らかい唇―――ではなく、なにコレ・・・・足の裏?

「ってオイィイ!おま、何踏んでんの!?そこ床じゃなくて顔!銀さんの顔!!」

目を開けて一番最初に見たのが他人の足の裏というかなり過酷な目覚め方をした銀時は、開け放たれたカーテンから入ってくる朝日に目を背けた。

「起きろっての。早くしないと朝ごはんなくなるぞ」
「んー・・・わかった」

しょーがないな、というように一つ吐息をもらしたの足音が遠ざかっていく。 布団の中で丸くなり、飛び込んでくる光に目を慣らしていくうちに・・・銀時はこれでもかと思うようなため息を吐き出した。

「・・・なにアレ・・夢?夢オチですかコノヤロー・・・」

枕に言葉が埋もれていく。 妙に現実味があって、また完全に現実離れした夢を見たものだと半ば自分でも呆れてしまう。 というか、ここまではっきりした夢を創り出した己の妄想に、天晴れをやりたいぐらいだ。

「あー・・でもめっさかわいかったなー・・・」

あのくらいコッチでも素直だったらいいのによー・・という銀時の願望はおそらく、叶わないだろう。


novel

chapter05 postscript

第5章、シンデレラ編完結です。
完全にお遊びの気分で書かせていただいたからでしょうか、私にしては甘いのが書けたのではないかと・・・あ、まだまだだめっスか? オチはありきたりに夢オチです。定番のネタってやっぱりいいですね。 ・・・・・土方さんに見せ場がなかったなァとちょっと後悔。

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07.03.30  第5章 一部改訂