第9話
「うー、さむさむ」
原チャリのヘルメットを外し、肩をすぼめて銀時が呟く。
欠けつつあるとはいえ、夜空に浮かぶ月はまだ丸に近い。それは空の一番高い山をちょうど越えたくらいで、ふわりと光を放っている。
頃合いとしては12時を回って少ししたくらいだろうか。
「まっさかこの俺がジャンプ買い忘れるなんてよぉ」
銀時の着物の袷にねじ込まれているのは少年週刊ジャンプ。
月曜の深夜というべきなのだろうが、日付で言えば今は確かに火曜だ。
20代も半ばに差し掛かっているというのに、毎週こまめに買い続けていたジャンプを。
ライフワークといっても過言ではないジャンプを買い忘れる日が来ようとは。
今日の昼間には全然思いつかなかった。まるっきり忘れていたと言っていい。
が風呂へと消え、シャワーの音が届いてようやく
(別にシャワーの音に聞き耳を立てていたわけではない、断じて!)(・・・・スンマセン、ほんとはかなり注意して聞いてました)
ジャンプをまだ買ってないことに気がついたのである。
「(ま、かなりいっぱいいっぱいだったしなァ・・・仕方ねぇか)」
かんかんかん、と階段を昇る音が響く。冴えた空気に、音はすっきりと拡散しないで通る。
「たっだいまー・・・ってヤベ、神楽もう寝ちまってるか」
そろそろと戸を閉めて。なるべく音を立てないようにゆっくり廊下を歩いて、事務所へ進むと。
「・・・?」
彼女は、ソファの上に丸くなってすやすやと寝息を立てていた。足を折りたたんで腕で抱えて、まるで猫のように。
「おいおい、ンなとこで寝たら風邪引くっつーの」
そう言いながらも、銀時は彼女を起こそうとしない。買ってきたジャンプを机の上に放り出し、ソファの前に座り込む。
横を向いて眠る彼女の寝顔が、最高のアングルで見られる位置を確保して。
「・・・ったく、無防備に寝ちまいやがってコノヤロー。襲われてもしらねーぞ」
す、と銀時の手がの頬にのびた。
台詞のオオカミさとは裏腹に、彼の指先は優しく動く。
ふっくらと、焼きたてのパンのような頬に、産毛を撫でる慎重さで触れて。その輪郭にそっと手を添わせる。
「・・他に、お前一体なに抱え込んでんだよ」 「・・・・っ、ちちうえ・・っ」
そのくちびるをゆびでなぞる。
「・・・悪ぃ、・・・・、俺やっぱり我慢できねーわ」
の視界を覆い隠すようにソファに手をついて。健やかな寝顔を晒すを見下ろして。
「(恨むなら俺じゃなくて、無防備な自分を恨みやがれコノヤロー・・・っ)」
ごくり、と生唾を飲み込んで、銀時は目をつぶる。
「・・・・・・ぁれ? 銀さん?」
「お、おぉぉおおおはよう!」
このとき、彼は少なくとも3メートルは跳んだ。
「(あ、あと3センチだったってのに・・・・っ、いや待て。この場合未遂で済んでよかったのか? やっちゃったら絶対止まんなかっただろーし・・・ってそしたら俺婦女暴行!?
いやいやいや、さすがにそれはまずいでしょ・・でもこんなチャンス次いつくるかわかったもんじゃねーし・・!)」
「俺寝ちゃってたのか・・・ありがとな、起こしてくれて」
「ぃ、いいいや気にすんな!」
感謝されたら銀時の立つ瀬がない。すでに爪先立ちなのに、それすら出来なくなってしまう。
「さ、さぁて! 俺も寝るかなーっと。今日はいろいろ疲れたしな! お前も早く寝ろよ!」
「ぇ、あ、うん。おやすみ」
「おう」
寝室の襖を閉めて。銀時は頭を抱える。
「(これから俺にどーしろっつーのよ、これ・・・)」
novel
ようやく第6章完結にございます。のらくら記初と言っても過言ではないシリアス編でしたが・・・いかがでしたでしょうか。
最後の最後でやらかしてくれそうでやらかさなかった銀さんに、慰めのお言葉を。
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07.03.22~07.04.08