第3話


依頼人のおばあちゃんの家まで荷物を運び、万事屋へ帰ってきた面々は少しばかり遅くなった昼食を食べて、まったりと時を過ごしている。 この前は8歳児が2人と6歳児という面子だったため、ヒマと見ればすぐに「遊ぼーぜ、!」と纏わり付いたものだが、13歳と10歳ではそうはならないようだ。 なんともなしに点いていたテレビは過去のドラマの再放送で、土方はぼんやりと肘を付いて見ている。銀時と総悟は、二人してジャンプを読み返していた。 大人の銀時が寝室に溜め込んであったのを掘り返してきたのだが、食い入るように読み込んでいるおかげで、とても静かな万事屋である。

「(・・あー、やばい。これ眠い・・・・)」

瞼におもりでもついているんじゃないかと疑うほど眠い。一定の速度でページを繰る音と、テレビの声がまるで子守唄のようだ。 彼らの面倒をみる、というのを引き受けた自分が居眠りなんて許されないだろうと残りわずかな理性が叫ぶが、睡魔がそれをかき消してしまう。 そんな争いが繰り広げられる中、だんだんとの思考は闇に落ちていき―――・・・。



「なァ、これの続きって・・・・」

最新号のジャンプから目を上げ、振り返った銀時の目に映るのはコクリコクリとゆっくり舟をこぐの姿。 息を殺して覗き込むと、の大きな目はぴたりと閉じられ、深く静かな呼吸が銀時の耳に届く。

「・・・、寝てんのか?」

テレビのボリュームを絞りながら問う土方に、銀時はうなずくことで返事をした。 途端、パッと表情を明るくした沖田が、大袈裟な抜き足差し足でに歩み寄り、銀時の次にその顔を覗き込む。

「起こすんじゃねーぞ」
「わかってらァ」

ス、と伸ばされた沖田の手が、の頭をそっと撫でる。 最初は恐る恐る、ただその輪郭を縁取るようにあてられた沖田の手も、どうやら思った以上に深く寝入っているらしいに後押しされて、彼女の髪をゆっくりと梳かしていく。 まるで自分がそうされているときのように、沖田は満足げな笑みを浮かべてを撫で続ける。 その様子を見ながら、銀時は不意にぼそりと呟いた。

「・・・ってさ、スゲー美人だよな」
「突然何言ってんだお前。ついに頭沸いたか」
「なんで確定してんだコルァ。・・・つかじゃあ、多串くんは美人だと思わないんだ?」
「・・・・だれもそうとは言ってねェだろ」

奇妙な沈黙が降りる。すうすうという静かな寝息だけが聞こえる。

「・・・・・彼氏とか、いんのかな」

沖田のその呟きに、銀時と土方の動きが止まる。

「ぃ・・・イヤイヤイヤ、ないでしょ。それはないって!」
「こんな、男みてーな格好してるし・・・ねェだろそれは」
「でも、美人なのには間違いないだろィ?」
「まぁ・・・いたって全然おかしかねぇし、むしろこの顔でいねぇほうがおかしいけどよ」
「じゃあ、てめぇはコイツに男いると思うのかよ?」
「・・・・思わん、つか思いたくねぇ」

そして再び万事屋を包む奇妙な沈黙。それを破るのはやはり、一番年下の彼である。

「じゃあ、の周りの男に見る目がねェってこと?」
「いやもしかして、が片っ端から“お断り”してんのかもわかんねーぞ」
「でもコイツ、男云々より先に色恋に興味なさそうだと思うがな、俺ァ」
「・・まともなことも言えるんだな土方コノヤロー」
「総悟、テメェぶっとばすぞ」

ソファの背もたれにもたれて天井を仰ぎながら、銀時がぼそりと呟いた。

「あーあ・・・俺がもうちょっと早く生まれてりゃ、放っとかねェのによォ」
「ハッ、よく言うぜ。はテメェみてーな天パになんざ、見向きもしねぇだろーよ」
「天パ馬鹿にすんじゃねーよ、マヨラー」
「そーだそーだ、死ね土方」


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ハッと銀時は目を覚ました。 自分が13歳くらいのガキに戻るという悪夢を、しかもやたらとリアルな夢を見てしまったと自己嫌悪に駆られながら周囲を見渡し、それが夢でなかった現実を知る。 向かいのソファには通常サイズの土方と沖田の二人が背もたれに寄りかかって眠りこけていて、は銀時の隣で静かな寝息を立てている。 この面子が万事屋で、そろいも揃ってお昼寝だなんてただそれだけで悪夢のような光景だが、こうなるまでの過程は13歳の自分が眠ってしまうより以前にわけがあることを、銀時はようやく現実として受け入れた。 なにせもうこれで2回目なのだ。都合のいいタイミングでおこる幼児化には慣れつつある。

「あーあ・・・俺がもうちょっと早く生まれてりゃ、放っとかねェのによォ」

脳裏に聞こえる幼い自分の声に銀時は苦く笑う。 そして13歳にしてなかなかに女を見る目があった自分を褒めてやりたくなった。 どうやらどんな年齢でに出会っていても、自分はに惚れるほかないらしい。
ああ、なんて罪作りな女。 もしもこれが意識してやっていることだとしたら・・・、そう考えて銀時は自分のアホらしい考えを一笑に付す。 もしもそうだとしたら大した悪女だが、もはや銀時には関係ない。当の昔に惚れてしまったのだから。大した奴だ、引っ掛かっちまったじゃねーかコノヤロー、と頭を掻く以外にできることはないのだ。

「(ま、無意識に決まってんだろーけどな)」

無防備極まりなく寝息を立てるを見遣り、銀時は密やかに笑う。顔にかかった前髪をそっと手で払ってやる。 あらわになった寝顔はあどけなさすら残しているようで、けれど今こうしてに手を触れさせながらその寝顔を拝見できるほどには信用されている自分が誇らしい。

・・・・・誇らしい、確かに誇らしいのだけれど―――なんなのだろう、この敗北感。
この敗北感を拭い去るにはきっと、眠っているこのお姫サマに口付けの一つでも落とせば十分なのだろうが・・・頭ではそう思うものの、動かない手足がいっそ恨めしい。 無防備という名の信頼は時として、最強の防備になるのだと銀時はから学んだ。
ため息混じりに笑みを漏らし、不意に銀時はの耳に口元を寄せて。

「・・・今のうちだけだからな」

そう、一言だけ低く囁いた。


さぁ今、13歳の自分に誓おう。
もう少し早く生まれて、手に入れたいとあれで結構本気で願った自分に、早く生まれた今の俺ができるのは。
たった一つのことだけだ。


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Pro_25000Hits!   post script

25000Hitありがとうございましたー! ここまでやってくることができ、こんなダメダメ管理人の後押しをしてくださった皆様には感謝の言葉もございません。 10000Hit企画でさせていただいた幼児化に予想以上の反響を頂き、調子に乗った管理人がまたやらかしました。 幼児化の年齢を少し変えたところ、“可愛さ”が減少したのではと危惧しておりますが・・いかがでしたでしょうか。 「西の東雲」はこんな調子で彼らと共に、のらりくらりとやっていきます。これからも是非、変わらぬご愛顧とご贔屓の程をよろしくお願い申しつつ、見捨てずに見守ってくださる皆様に管理人から最大の感謝と敬愛を込めて。

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writing date   07.06.24 ~ 07.06.29     up date  07.06.30 ~ 07.07.07