後編


「「―――ハイ、じゃあこれより“青い空 白い雲 そして広がる大海原・・・さァこの大一番を制するのは一体誰だ!? 第1回 ビーチフラッグ大会”を開催いたしまーっす!」」

スクール水着着用の山崎と、Tシャツに短パン姿の新八の司会の下「青い空 白い雲 そして広がる大海原・・・さァこの大一番を制するのは一体誰だ!? 第1回 ビーチフラッグ大会」は始められた。
突然一体なんなんだ、と思われた方も多数存在するとは思われるが、彼らの時間軸では決して突然なことではない。 万事屋と真撰組がばったり出くわして一悶着あった後、を取り合って起こるベタな戦いに終止符を打つべく、「青い空 白い雲 そして広がる大海原・・・さァこの大一番を制するのは一体誰だ!? 第1回 ビーチフラッグ大会」が発案される―――というゴタゴタは、それを活字で表現する上ですでに5000字を超えてしまった筆者が「このままいくと、番外編みたいな扱いできなくなる・・・ってゆーか終わりが見えない!」と恐怖した結果、割愛されてしまっただけの話である。だから決して、突然の話ではない。

「ルールは簡単! 20m先のこのフラッグを一番最初に掴んで、“獲ったどー!!”といった人の優勝となり、その人には丸一日のオフが与えられます!」

おぉお!、と隊士たちがどよめく隣で、銀時と神楽の二人が不満そうな表情をあらわにする。

「俺らが優勝したらどーなんだよ?」
「そうアル! ワタシたちなんて、年がら年中オフと大差ないネ!」
「万事屋サイドが優勝した場合には、さんにオフが与えられます! これじゃだめですか?」
「のった」「のったアル」
「そして、大きな声では言えませんが、これに優勝した方にはさんを丸一日独占する権利が与えられます!

元々この大会が開かれることになったのはを取り合っての結果であるから、彼女自身が裏賞品とされるのは当然である。 そしてこの発言がされたとき、は都合よく定春と遊んでいて聞いていない。

「じゃあ、参加する人はこの線を足が越えないよう、頭を反対側にしてうつ伏せになってください」

参加者は海に近いほう・・・大会の本部席に一番遠い人から土方・銀時・沖田・神楽の順である。
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バチバチと火花を散らす参加者たちと、まさか自分が賞品になっているなどとは足の小指の爪ほども思っていない。 圧倒的な温度差が1mmたりとも埋まらないまま・・・・開始のホイッスルが鳴り響く!

素晴らしい反射神経で、4人は同時に砂浜の上に起き上がりそして走り出す。 最初にリードをとったのは流石というべきか、神楽である。

「このまま逃げ切ってやるネ!」

頭一つ分飛び出した神楽がフラッグを見据えた瞬間、「そうはさせませんぜ」という声が彼女の耳に届き、そして続くはバズーカの発射音。 ドォン、という腹に響く音が当たりに響き渡る。 しかし唖然とする観客の耳にはすぐさま、マシンガンのような連続する発射音が―――

「チッ、やっぱあの程度じゃダメかィ」
「当たり前ネ! あんなものでワタシがやられるわけないアル!」

巻き起こる粉塵。 それを隠れ蓑に、今のうちに一気に勝負を決めようと一歩を踏み込んだ銀時だが、右隣から発せられる殺気に対して反射的に木刀を構える。 ガキィン・・! と尾を引く音が耳をつんざく。

「ちょっとちょっと多串くーん、邪魔しないでくれるー?」
「うっせぇ、テメェが俺の邪魔してんだろーが。引っ込んでろ白髪ヤロー」
「多串くんがケガしないよーに、俺としちゃあ気ィ使ったつもりなんだけど?」
「余計なお世話だ。その台詞そっくりそのまま、お前に返してやらァ」
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それぞれの死闘を実況するのは筆者の義務であり責任だが、終わりが見えないのではやりここでは割愛する。 そんなこんなで、銀時は食い下がる土方を振り切り、フラッグの下へと猛ダッシュをかける。 このとき最早フラッグのことなど頭の中からすっかり抜け落ちている沖田と神楽が、フラッグまであと2mと迫った銀時にようやく気が付いたときには時既に遅し。 銀時は滑り込むように、強く砂浜を蹴った!

「もらったァアアア!」

銀時の手がフラッグに触れたその時。

「うわ・・・ッ!!」
「!? さん・・・ッ!!」

突然の叫び声に視線をつられた多くの人の目にはいったのは、桟橋から綺麗な弧の形を描いて海へと落ちていくの姿だった。


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がその小さな悲鳴に気が付いたのはちょうど、「青い空 白い雲 そして広がる大海原・・・さァこの大一番を制するのは誰だ!? 第1回ビーチフラッグ大会」の参加者たちが互いに激しい火花を散らしながら砂浜の上にうつ伏せたときだった。

「ちょっとやめてくださいっ! 本当に困ります!」
「いーじゃーん、どーせ女の子3人だけなんだろ? 俺らも3人だしさァ・・・一緒に楽しもーよ」

ベタベタである。明らかにガラも頭の中身も悪そうな男3人が、突如はじまったビーチフラッグ大会を見ようと集まった女の子のグループにかなり無理やりなナンパをしかけている。男たちの方は昼間だというのに酒が入っているらしく、へらへらとタダでさえしまりのない面を更にだらしなくしている。 猥褻物陳列罪でしょっぴいてやろうかとは本気で考えつつ、けれど今は桟橋に追い詰められて背後を海に囲まれてしまった女の子たちに救いの手を差し伸べようと腰を上げた。

「なァ、いーじゃんかよー。俺らと一緒に遊ぼーぜ」
「オニーサンたち、どーせなら俺と遊ぼうよ」

がそう気だるげに声をかけたとき、背後で高らかなホイッスルの音が響いた。ビーチフラッグ対決の火蓋が切って落とされたらしい。 ちょっと見たかったのに、とは表情を不満気にゆがめる。

「ぁあ? なんだテメーはよ」
「嫌がってんじゃん。鏡見てから出直せよ」
「んだとテメェ・・ケンカ売ってんのか!?」
「そのつもりだけど?」

挑発的にが嗤う。 ただでさえ切れやすそうな青筋を浮き上がらせた不良Aはに拳を振り下ろした。 が、それをすいと避けたは、間髪いれずその腕を背中に背負い込み、まるでお手本のような背負い投げを決めた。 ここが柔道場でしかもちゃんと受身を取ればなんともないだろうが、ここはコンクリートで固められた桟橋。しかも自分よりはるかに小柄な少年に背負い投げを決められるなんて予想だにしていなかったのだろう、不良Aはコンクリの上に叩きつけられ苦悶の呻きを漏らす。

「・・・まだまだこれからだろ。かかってこいよ」

それから始まるのは不良ABC 対 という頭数の揃わないケンカである。 はるかにがたいのいい男3人が、たった1人の少年にいいようにもてあそばれている、なんとも絵にならないケンカ。 しかもそのケンカの主導権を握って放さない少年は、実際のところ少女であるのだから情けない。不良Cの鳩尾に膝蹴りをかましたの耳に飛び込んでくるのはバズーカやマシンガンの発射音。実に向こうは楽しそうである。 「いいなー、楽しそうだなー、俺も参加すればよかったかなー」などと不良Bの向こう脛を力いっぱい蹴り飛ばしながらは思うが、裏賞品である彼女に参加資格はない。 山崎と新八に力いっぱい止められること間違いなしだ。

「て、てめぇそれ以上動くな・・・! 動けばこいつらに傷つけるぞ!?」
「あーもー次はなんだよ・・・」

声の主、不良Aはいったいどこから取り出したのやら、女の子たちにナイフを突きつけている。 不快そうに眉をひそめ、男たちを睨みつける視線は鋭くなったものの、動きが止まった。 そしては不良Bによる突進をもろに受け―――ドンッ、と肺の空気が無理やり押し出される感覚に呼吸を忘れ、の体が引力から自由になったその次の瞬間。
は背中から海に飲み込まれた。

その光景に驚愕したのはのんきにビーチフラッグ大会を楽しんでいた面々である。 裏とはいえ賞品であるが大会本部席にいないことにも驚きだが、どうして彼女があんなことになるのか。

・・・ッ!」

一目散に海へと駆け出したのは、海により近かった銀時と土方。 が沈んですぐに海に入ったといえどそこそこの距離がある。 それこそが海面に浮上してくるだけの時間はあっただろうに、彼女の姿が見えなくなったポイントにその様子はない。 もしかして、という嫌な予感が銀時と土方の頭をほぼ同時に駆け抜ける。だとしたら、時間がこれ以上経つのはまずい。息が続かなくなることもそうだが、水を飲み込んでどんどん沈んでいかれたら追いつけなくなる。 一瞬見交わした二人の目は、同じことを語っていた。

「チッ・・遅れんじゃねーぞ」
「テメェもな」

明るい夏の海でよかった。 強い太陽の日差しのおかげで海の中は大層明るく、これならの姿を見つけることもそう難しくはないはずだ。 あとはただ、時間との勝負である。

「「(―――・・ッ、いた!)」」

目を閉じているにそのつもりはないのだろうが、まるで助けを求めるように差し出された手を銀時と土方はほぼ同時に捉えた。 ぐい、と引き上げた彼女は海に弄ばれる海藻のようにぐったりと力がない。 どうしてが、と逸る気持ちを押さえて二人は海中でもう一度目を見交わし、空を目指す。


「銀さん! さんは・・?」
「・・問題ねぇ、大丈夫だよ。ただ今はちょっと眠っちまってるけど」
「山崎、あいつら・・・あの桟橋に一緒にいたやつら、どうした?」
「それなら、沖田隊長と神楽ちゃんが半殺しにしてます」

けほ・・・ッ、と横たえられた砂浜の上でが咳き込む。 心配そうに見つめる4対の視線の中心で、はぼうっとした目を彼らに向けた。

「・・・あれ、俺・・・?」
「大丈夫か、。なんか苦しい感じとか、痛いとことかねェか?」
「あ、うん・・大丈夫。なんかちょっと気持ち悪ぃけど」
「・・そっか、よかった・・・・・」

頬に触れてきた銀時の手がやけに熱い気がして、は首を傾げる。 心配を通り越して、痛みすら感じさせる銀時の目にはどうしてだかひどく安堵した。 今頬に触れている手をそのままに眠れたらきっと、最高の夢を見るに違いない。と、くしゃりと髪に絡められた手には視線を上げる。
土方は何も言わない。けれど触れている手が、注がれる視線がどれだけ自分を心配していたかを切々と語る。

「・・あの、俺・・ゴメン・・・」
「ナニ、謝らなきゃならねェよーなことしたの? お前」
「心配、させたから」
「違ェだろ、そういうときに言うのは」
「・・・ありがとう」

のその言葉にニッと二人が笑う。も銀時と土方を見返して、はにかんだように笑った。 自分のことを心配してくれる人がいる。それはまるで心に灯がともったように暖かい。

「(・・オーイオイオイ、ちょ・・今の笑顔は反則だろォ。やーべー、めっさ可愛い。ツボはいったー!)」
「(うお・・ッ! 無意識か? コイツまた無意識でそーゆーことしてんのか!? まったくコイツはほんと・・)」

銀時と土方の心の叫びなどが知るはずもない。 遠くから呼びかけられる声にが振り返ったとき、わずかに浴びた返り血をそのままにした妖怪祭囃子が激走してくる。 そんなはずはないのに、反射的には命の危険すら考えてしまう。

ーッ! 大丈夫アルか!? おかしいところとかないアルか!?」
「ん、もう大丈夫」
「本当ですかィ? 顔色、悪くありやせんか?」

突然、フッとの視界が暗くなった。「あれ、」と思うより早く、額に感じるコツンという衝撃。 ぼけーっとした頭では、今の状態を認識するのがなぜだか酷く遅い。 ただわかるのはの視界は今、沖田に埋め尽くされていて、鼻の頭がごっつんこするくらい近くて―――そしてそれが、全然嫌ではないということ。

「・・熱は別に、ねェみたいですがねィ」
「熱なんかないって。全然問題ないよ」
「それならいいけどねィ・・・油断しちゃ、ダメだろィ? 一瞬、肝が冷えやしたぜ」
「・・・・ごめん、ありがと」
「わかってるんなら、いいでさァ」

ぽんぽん、と軽く頭を叩かれながら。は沖田と笑みを交わす。

「ちょーどいいんで、このままちゅーしちまいや「はーいはいはい、もう離れてくれる!? 熱がねぇことはわかったんだろーが!」

二人の間に手のひらを差し込み、沖田の頭を掴んで力任せに後ろに放ったのは銀時。 ごろごろと沖田が砂浜の上を転がる。

「なにすんですかィ、旦那。俺ァただ人工呼吸しようとしただけですぜ?」
「普通に息できてる人間に人工呼吸なんて必要あるかァアアア! 大体、お前もとっとと離れなさい! 額と額をくっつけたまま普通に会話してんじゃねーよ!」
「え、うん?」
「やめとけ、お前マジで。うつるから、Sがうつるから総悟とだけは絶対やめとけ」
「死んでくんねーかな、頼むから土方死んでくんねーかな」

はふと空に目をやり、そして不意に口を閉ざした。
突然押し黙ってしまったを訝った彼らが、つられるように空に目を移すと―――それはまるで、誰かがペンキをこぼしたかのように鮮やかなオレンジ色。 いろんな色を空からこぼして、何度も何度も重ねて色をつけて、そうして最後にオレンジ色を流したような――なんとも複雑で、けれど目を奪われずにはいられない色。

「・・もう夕方になっちゃいましたね」
「ほんとアルなー。思ったより遊んでないアル」
「・・てかさ、銀さんたちはバイトしにきたんじゃねーの?」
「細かいこと気にしてんじゃねーよ、
「・・山崎、近藤さんどこ行った?」
「局長なら沖に遠泳に出てまだ戻ってきてません」
「・・・・・帰るか」
「あれ、日帰りなの? 一泊二日なんじゃなかったっけ?」
「ページの都合上仕方ねぇんでさァ」

こうしての初めての海は終わりを告げる。
一日中バイトをさぼっていた万事屋3人が即クビをくらったり、疲れ果てたが帰りのマイクロバスの中、土方の肩にもたれかかって熟睡してしまったり、やっぱりひどい日焼けをした沖田は次の日背中を真っ赤に腫らしていたりしたけれど、とても楽しい旅行になりました。(あれ、作文?)

chapter??   post script


―――やっと、終わった・・・! 「どーにかなるんじゃない?」と見切り発車で執筆開始した結果、纏められずにここまで長く・・! 第1章よりも長くなってしまったのに、皆様からいただいたネタを書ききれていないという事実。拾いきれなかったネタをここで公表しようかとも思いましたが・・・のらくら記の中でいつか絶対登場させてやりたいと思います。 この作品は6/1に行われたチャット会で、参加していただいた皆様とネタを出し合い、私がそれを(出来るだけ)まとめて一本の作品としてアップしてみよう、という構想の下に書き上げたものです。
この作品に参加してくださった多くの皆様に多大な感謝を申し上げます。 期待に沿えるようなものになったか、正直ビクビクしていますが楽しんでいただけたら何よりです。これからも「西の東雲」と管理人 彩斗を温かく見守ってやってください。

writing date  07.06.02 ~ 07.06.04   up date  07.06.04