第5話


はこの世界―――若だんなの生きる世界とは違う世界で、その生を受けた。 彼女の生まれた世界・・元いた世界には不思議な力を宿す宝珠が存在する。 既に肉体を持たず、思念だけの存在となった意思のような類のものの結晶、それが宝珠である。 宝珠の護り人はその思念を具現化してそれぞれの宝珠が宿す力を行使することができる――つまり、護り人の力として召喚することができる。 そして、当代の宝珠の護り人ははいわば巫女のような存在であり、宝珠を守護し、またその力を行使することができるのはただ1人だ。

そして、が若だんなのいるこの世界に訪れたのも、その宝珠に故がある。 何らかの理由により、の手元にあった宝珠は時空をこえ、世界を飛び越えてこの世界に飛び散ったのである。 存在する宝珠は全部で4つ。それぞれが異なった力を宿し、の手元に残ったたった一つを除いて方々に散っていた。

「じゃあは、その宝珠・・とやらを探すためにこの世界に留まっているの?」
「ん、そーなる」

出された練りきりを口に運び、もごもごしながらは答える。 どうやらこれは三春屋のものではないらしい(餡が違う!)が、これはこれでかなり美味しい。 舌触りのなめらかなこし餡はしつこくない甘さで、口の中でほっこりとほどける。

「・・この世界の人間じゃない、というのはわかったが・・・じゃあ今はどこに住んでるんで?」
「え、信じてくれんの?」

若だんなの隣で、彼に群がる鳴家を一匹ずつ引き剥がしている佐助の言葉に、は目を丸くする。

「は? 今の話は嘘なんですかぃ?」
「ぃ、いや・・違うよ。本当なんだけど・・・」

そんな、にわかには信じられない話だろうと自身が思うのだけれど。 口ごもるに、佐助はワケがわからないというように不審の目を向ける。

「まぁ信じがたい話ではあるけれど・・、私は信じるよ」

苦笑を滲ませて、若だんなは言葉を続ける。

「なんとなく、感じてはいたんだ。がどこか私とも、妖とも少し違うような気はね。だから、その説明を聞いてむしろ喉のつっかえが下りたようだよ」
「・・・ほんと?」
「ああ、本当だよ。話してくれてありがとう」

にっこりと微笑む若だんなに、もはにかんだ笑顔を向けた。 その笑顔は紛れもなく女の子の笑顔で、若だんなはを男と勘違いしたことを不思議にすら思う。 微笑み一つで空気がパッと色づき、自身の心にもほんわかとした温もりが根を下ろす。 その温もりはじんわりと体中に隅々まで行きわたり、きっと胸の奥底に巣食う暗く、どろりと濁った気持ちですら溶かしてしまうだろう。


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遠くのほうから、ラッパの間延びした音がこの離れにも届いた。 ふと耳を澄ませば、豆腐ー、豆腐はいらんかねー、という声がわずかながらに聞こえてくる。気が付けば、空は朱色に染め上げられていた。

「ヤバ、そろそろ帰んないと怒られるっ」
「もうこんな時間になっていたんだ・・、すまなかったね、引き止めてしまって」
「そんな、お邪魔したのは俺だし・・。あ、練りきり美味しかった。ありがと」

下駄を履き、庭に立ったは振り返って言った。若だんなも笑顔を返しながら、不意に思いついた疑問を口に乗せる。

「そういえば、今はどこに住んでいるの? この近くかい?」
「・・万事屋銀ちゃん、って若だんな知ってる?」

左右に首を振る若だんなに代わって、仁吉が答える。

「ああ、聞いたことがあるね。頼まれたらなんでもやる何でも屋、とかなんとか」
「うん。あ、これ名刺」

は前に持たされていた名刺を一枚、若だんなに差し出した。迷子になったらこれを見せて、案内してもらえと渡されたものだ。

「"万事屋 坂田銀時"・・・?」
「それが店主・・・・・・・・・・だと思う、きっと

どこか煮え切らない返事に若だんなは首を傾げるが、あんま気にしないで、というの言葉にしぶしぶうなずく。 が銀時を店主だと言い切れないのは、彼の人となりを近くで見てきたせいであるからだが、 それをこの十八年間、蝶よ花よと大事に育てられてきた若だんなに説明するのはなんだか、よろしくない気がする。

「俺、そこに居候してるんだ。真撰組に勤めたり、万事屋の手伝いしながら情報集めてんの」
「ふうん・・・忙しそうだね」
「まね。あ、若だんなもなんか依頼があったら連絡してよ。何でもやるからさ」

じゃあねー、と手を振って若だんなと別れ、は万事屋への帰路を急ぐ。 西の空はだんだん夜に侵食されつつある。きらりと空に瞬いた星は、おそらく一番星だ。こんな時間に帰ればきっと、新八や神楽に説教を食らうだろう。 そんな説教には加わらないながらもきっと不機嫌になっているだろう銀時に、どう言い訳したものか。 そうしては、三春屋の大福を買い込んでおいてよかったと思うのである。


novel

chapter01  post script

しゃばけ連載、始めてしまいました・・・。まさかの展開に自分でもビックリです。 しかも銀魂とコラボさせてしまうというメチャクチャぶり―――銀魂をご存じない方に申し訳ないです。管理人の趣味趣向としかいいようがありません。 銀魂をご存じないかたにもお楽しみいただきたいです。しゃばけをご存じないかたにも、勿論。二つの作品の橋渡しなんかができたら感無量です。 ・・・・・・おそらく、こちらの更新はゆっくりになると思います。感想やこんなの読みたいー、というご希望を送ってくださると、書いちゃいますので是非。 実は大江戸のらくら記のほうに、幾度か三春屋は登場しています。さりげなーくリンクする二つの作品、どうぞ末永くよろしくお願いいたします。

07.03.30  1.きっかけは大福 一部改訂