第3話
「ふむ・・・なるほど。じゃあ貴方は満月が昇った深夜0時から、その日の24時まで人の姿でいられるのですね?」
したり顔でうなずくジェイドの代わりに、どういうことか説明しようと思う。
例えば今日が13月1日だとする。今日は満月で、月が地平線から顔を出す時刻はPM 18:00。
ルークはまだ赤い毛色の猫の姿だ。そしてしばらく時が経ち、満月は東の空を通過して南の空に昇る。
そして日付は13月1日をまわって2日のAM 0:00となり、そこでルークは人の姿をかたどる。
満月が沈み太陽が昇り、太陽が沈んで満月ではないがほとんどそれに近い月が現れて時が過ぎ、時刻は2日のPM 23:59。
ルークはまだ人の姿だ。そして、PM 24:00―――ルークは猫の姿へ戻る。
「他にも、・・・・あーなんだっけなアレ、ほら・・月の出ない夜のこと」
「朔の日・・新月のことですか?」
「そう、それそれ! その日も満月の日と同じで人間になれるんだなーコレが」
いや、エッヘンと威張られても。
もしもこの話を人の口から聞いただけなら、到底信じることなど出来なかっただろうが、その常識外れは現に今目の前にいる。
信じるも信じないも関係なく、存在するのだからどうしようもない。
「・・一体どういう原理なんでしょうねぇ・・・・」
ぼそりと呟かれたジェイドのそのセリフは、彼の口から出なければ別に何の変哲もない一言だ。
しかし、大きな問題は“ジェイドの口から零れた”というところにある。
彼は今でこそマルクトファンドという投資会社の最高技術責任者という肩書きを背負い、主にデスクワークをこなしているが、博士号を取得するほど筋金入りの研究者。
未知のものに対する知識欲は、今なお決して衰えてはいない。
「・・・ジェイド、解剖とか解剖とか解剖とか、しようなんて考えてないよな?」
「そんなまさか、これっぽっちも考えてませんよ。・・・・・・たった一つしかない被験体なんですからね」
「ッ!?」
「大丈夫ルーク、俺がさせない」
「・・っ「貴重な実験体を独り占めするつもりですか、」
「悪いかよ」
「ッ!?」
ルークは己を巡って繰り広げられる浅ましいまでの会話に涙を浮かべ、ずるずると床を這って部屋の隅に小さくなった。
四隅に膝を抱えて体育座りする少年の姿は、少しばかりタカが外れたにも悲哀を感じさせる。
ずーん・・・、と効果音が付随してきそうな空気を、ルークは背負っていた。
「じょ、冗談だってルーク。本気にすんなよなお前!」
「その割に目がマジでしたけど?」
「ジェイドの気のせいだろ。てゆーか何、その右手に持った注射器」
「いえ、解剖は流石にここではアレですから・・・せめて採血だけでも、と思いまして」
「ッ!?」
「ちょ、もうルーク泣きそうになってるから! なんかもう今にも泣きそうだから、この辺でやめとこ!?」
「ふむ・・・・仕方ありませんねぇ」
じゃあ是非次の機会に、という言葉を空気の中に聞いた気がした。
ごそごそと注射器をしまうジェイドを尻目には膝を抱えるルークの元へ歩む。
目の前にしゃがみ、床に伏されたままの翡翠を覗き込むようにすると、ふいっとまるで逃げるように視線を逸らされた。
なんというか・・・・こう、折角懐いたノラ猫の尻尾を過って踏んでしまい、また一からその関係を築きなおさなければならなくなったようで、面白くない。
「じょーだんだよ。俺もジェイドも、そんなことするつもりないって・・・・・・・多分」
「た、多分ってなんだよ!」
「いや、俺はないよ? ルークをそんなことに使うつもりなんて全然ないよ? けどその・・・、な!」
「、言いたいことあるならはっきりどうぞ?」
「ホラ、ジェイドもそんなつもりないって!」
苦しい、我ながら苦しい。けれど効果はあったらしい。
ゆるゆると視線を上げたルークが、翡翠の瞳で「本当に?」と訴えてくる。
「本当に。んなことしないよ」
そう言って、は彼の髪に手を伸ばす。
くしゃりと指に絡むその赤の髪は、最近になってがよく手にする感触と同じだ。
ああ、やっぱりこの『ルーク』は、あの『ルーク』なんだ。目にするよりも話を聞くよりも、こうやって彼に触れてみて、は現実を認識する。
「・・・ガキ扱いすんなよッ」
「してませんー。俺がしたいからしてるだけですぅー」
不満そうに唇を尖らせ、けれど手を振り払おうとしないあたりがルークである。
きっと、最近になってよく耳にする「ツンデレ」とやらは、ルークにばっちりぴったり当てはまる言葉なのだろうと思う。
けれど口に出して伝えようものなら「ふざけんな!」と唐突に頭に血を上らせて、しばらくその赤毛に指を絡めるのを許してくれなさそうで、それは―――どこか面白くない。
初めてここに来たときのあの警戒心はどこへやら、2日目には「ーヒマぁ。俺ちょーヒマなんだけど・・なァってばー!」との服に爪を立てて怒鳴られて。
叱りつけられて反省するどころか拗ねモードに突入したルークだが、ものの30分で我慢できなくなったらしく、有機化学の教科書を広げるの膝に丸くなって。
プライドが高くてわがままな、けれど実を言えばただ遊んでもらいたがりの気分屋。
「・・・・俺、痛いのやだからなッ」
「わぁかってるって。しないって言ってるだろー?」
我が飼い猫との心温まる交流の時間。―――それをブチ壊したのは勿論、例の悪魔である。
「・・・、ルーク? そのそこはかとなく甘い空気・・いい加減にしないと、瞬迅槍かましますよ?」
「だから、そういうのはなしの方向でいこうって言って「下がってろ! 双牙斬食らわせてやる!」
「ちょっとルーク!? やめとけ、まだ死にたくないだろ!?」
「ほう、私に楯突くというのですか・・・・いいでしょう、その心意気だけは認めて差し上げます」
「認めなくていい、まだ認めなくていいと思うよジェイド! そのイベントまだしばらく先の話だと思う!」
「つーか大体、アンタ35なんだろ!? 犯罪じゃねーか!」
「愛に年齢は関係ありません。というか、貴方だって猫でしょう。種族越えはご法度なのでは?」
「知らねーから俺には関係ねーし!」
「おやおや、そんな調子じゃいつ愛想尽かされてもおかしくなさそうですねぇ」
「・・・・・・いや、アンタら一体何の話してるわけ」
Tales-novel
ハチャメチャやりたい放題し放題アビス現代パロ「カノ猫。」ルークのあまりにも都合のいい萌えポイントがあらわになりました。
35歳のジェイドが繰り出す笑顔で下ネタ。
ボケ倒すキャラのせいで、主人公がツッコミに徹するしかなくなっています・・・新八って、偉大だなァ。今更その重要性を痛感しています。
やたらの会話文が多いのはきっと、フェイスチャットのせいだと。メンバーの一人になった気分で、お楽しみいただけると嬉しいです。
Take it easy この作品はワンドリサァチ!さまのランキングに参加しています。面白いと思われましたら一押しぽちりとお願いします。
writing date 07.07.27 up date 07.07.28 ~ 07.08.05