カノ猫。 4−3


第3話


「捨ててきなさい、って言われるだろうと思って隠そうとしてたのにさー。意外とあっさりなんだもん」

誰とでもすぐに親しくなれるし、愛想のよさはガイといい勝負なだけれど、彼女には無意識的に他人との距離をとろうとするクセがある。いや、誰とでもすぐ打ち解けるという能力はむしろ、他人との距離を測る術が的確だからなのかもしれない。踏み込まず、踏み込ませない―――あまりに徹底された線引きは、の周囲にそびえたつ壁と称しても過言ではないような気がして、ガイはそれを哀しく思ったりもするが彼はのそれを壊せないことも知っている。ガイもまた己の周囲に壁を持っているから。彼らは互いが壁を持っていることを知っていて、けれど越えようとはしない。これまでの付き合いの中で壁の中に持ち込んでいるものを知り、ほとんど透明な壁だとしても。

「まぁいいじゃないか。いいって言ってくれたんだろ?」
「まぁねー」

今日一日行動して分かったことだが、ルークにはどうやらその壁がないらしい。そんなルークとが仲良くどつきあっているのはガイの目に新鮮だったけれど、だからこそなるほどと思ったことは彼女に告げない。ルークならの壁を真正面からぶっ壊すことが出来るかもしれなくて、あの保護者はそれを予想したのかもしれない。たとえそれが無自覚だったとしても、ジェイドは結局のところに甘いのだ。

「やばいなー。俺もしかしてブラコン?」
「ははっ、そうかもな」
「ガイ、お前女嫌いだからって、うちのルークに手ェ出すなよ」
「誤解を招く言い方はよせっていつも言ってるだろ!?」
「俺やだからな、ガイが義弟になるの」
「気色悪いこと言うな!」
「それは何、俺の弟になるのが嫌なわけ? それともルークの奥さ・・旦那かな、まぁどっちでもいいや、になるのが嫌なわけ?」
「どっちもだ!」
「うん、俺もいや」

ラジオから流れてくるのは耳馴染みのある洋楽。穏やかなアコースティックギターのメロディーを鼻歌でなぞる。夕焼けに染まった車内に漂う静かな安らぎ。群青色に侵食され始める東の空。

「あー、明日学校行くのすげーダリィ」
「おいおい、そろそろ物理化学の確認テストがあるとかなんとか言ってなかったか?」
「はっはっは・・・・・明日だっつーの」

おま、とそこまで言ってガイは言葉を飲み込んだけれど、ルームミラー越しに注がれる視線がを攻め立てる。哀しいことに、には今それに対抗できる術がない。

「だってガイお前、あんな楽しそうにしてるルークに明日テストあるから遊園地延期、だなんて言えるか!? 無理だね、俺には絶対出来ない」

ちなみに付け加えるなら文句タラタラ抜かすルークの相手をするのも、結局我慢してテンションだだ下がりだったり、無理やりテンション上げちゃったりしたルーク見るのも、俺は嫌。


ジェイドの旦那、旦那の子育ては脈々とに受け継がれつつあるぞ。
ガイは表情にはおくびにも出さず、あの白皙に向かって手を合わせる。目下のところ、彼の最大の敵はルークに違いない。

「今夜、俺がちょっと無理すりゃいいだけの話だし。大丈夫、きっと何とか、なる、と、思・・・う」
「寝ろ。ちゃんと送ってやるから、寝ろ

そんな会話を最後に、しばらくしてガイがルームミラーに目をやったときも寝息を立てていた。とルーク、互いに頭を預けあい、ちょっとやそっとの揺れでは物ともせずにただ昏々と。確かに寝ろと言ったのはガイだけれど、彼も今日一日中連れまわされ、疲れた体に鞭打って運転中なのだ。「疲れてたんだろうなぁ」なんて微笑みかけるのは流石にちょっと難しい。不満の芽がむくむくと伸びる。けれど、とルークの姿がどの兄弟よりも兄弟らしくて、ガイはフッと表情を和らげる。コイツら相手に不満を表したところで自分が可哀想になるだけだし、微笑ましいと思った時点でこちらの負けだ。

「ったく、仕方ないな」

結局最後にはこうなるから、「ガイこそ、に甘いですけどね」というジェイドの嫌味に反論できないのだとガイは苦く笑う。ただそれもちょっと癪に障ったから、今この姿を写メしてジェイドに送りつけてやろう。さぁ、魔王の怒りをかうのはどっちだ?

Tales-novel


後書き。

ジェイドは主人公に甘く、主人公はルークに甘い、ひたすらルークが苛められそうな関係性が明らかになりました。だからといってでろでろに甘やかされてきたわけじゃない、ということが伝えられれば嬉しいです。ジェイドお父さんは優しく厳しく甘やかします・・・・そんな、願望の詰まったカノ猫第4節でした。カノ猫ではガイとの会話もその一例ですが、主人公の新しい面を発掘できて私がとても楽しいです。みなさまにも、楽しんでいただければ幸いです。

writing date  07.09.17 ~ 07.09.18    up date  07.09.24 ~ 07.10.06