「うし、買い物完了!」「終わりか?終わりなのか?終わっていいんだな?」
大江戸マートから出てくると銀時。銀時の腕にはいくつかの紙袋が抱えられており、その中はどれもいっぱいだ。
対するは両手をぶらぶらとさせながら、銀時に対する配慮の欠片も見せずにどんどん進む。
昨日、久しぶりの仕事でまとまったお金が入り、おかげで底を尽きつつあった食料品から日用品の補充ができた。おかげで万事屋銀ちゃんの面々は路頭に迷わずにすんだのだが、店主はどうやら納得いかないらしい。
「ったくよぉ、昨日の稼ぎが全部メシやらなんやらに消えるのは一体どーゆーわけだよ。普通ならここでパフェとかパフェとかパフェとかに使えるんじゃねーの?」
「仕方ないだろ。パフェがなくても俺らは死なないけど、米がなかったら死ぬもん」
「パフェなかったら俺は死ぬよ?銀さんは死んじゃ「いいんじゃね?死んでみせろよ」
くるっと振り返ったが、満面の笑みで言い切った。
表情のにこやかさといっそ晴れやかな発言は、言葉の辛辣さとはと富士山の高さを軽く超える断絶の差がある。
恐い。
そう、恐い顔をして脅迫するのより、笑顔で脅迫したほうが効果ははるかに高く、しかもそれをが使うと効力は絶大だ。
ちなみにこのワザを、は妙と沖田から学び取った。
「・・・・・銀さん、アレなに?」
「あ?」
ふと立ち止まったの視線の先にあるもの。
それは大々的に広告に使われ、しかも年々巨大化と出現の早期化をすすめている、鍋と並ぶ冬のシンボル。
「なに、お前クリスマスツリー知らねぇの?」
「・・・くりすますつりー?」
きょとん、とするのことだからおそらく、クリスマスもサンタクロースも知らないのだろう
(鍋は知っている。野菜だらけで肉のほとんどない貧乏鍋は彼らの心強い味方だ)。
こういうとき、が異世界の人間であることを思い出す。普段、彼女は万事屋にも真撰組の面々にも馴染みまくっているから忘れがちだけれど、違う世界の文化・習慣の中に生きていたのだ。
「えーとな、サンタクロースとかいう白髪でヒゲぼーぼーのおっさんがなんかしにくるのが12月24日の夜で、25日はアレだ・・・ぁー忘れたけど、とりあえずなんかめでたい日で、そのめでてぇクリスマスに飾るのがクリスマスツリーってわけだよ」
「ふぅん・・・(あとで新八に聞こう)」
道端に置かれた巨大クリスマスツリー。
偽物のもみの木には色とりどりの飾りがつけられ、きらきらと輝いている。
クリスマスツリーというものが一体なんなのか、結局よくわからないままのだけれど、それは十分綺麗で。
昼間の今でこれだけ綺麗なのだから、きっと夜になればもっと綺麗なのだろうと考えて、の頬には笑みが浮かぶ。
飾り付けられたツリーの前で二人、携帯の写メを取ってきゃあきゃあと声を上げる年若い恋人たちは普段の銀時からしてみたら舌打ちの対象でしかない。
しかし、銀時の隣でツリーを見上げるがいる今年は多少話が違う。
とだったら、あんなふうにきゃいきゃい騒げる気がする―――いや、あんなふうにきゃいきゃい騒ぐは想像つかないけれど。
「な、なァ!」
最初の「な」の声がひっくり返ったことはとりあえず置いておく。
「・・・・・銀さん、いま声ひっくり返った?」
「気にするな!」
「・・・・・。まぁいいや、なに?」
「あーその、なんだ・・・クリスマスは、一緒に、祝おうな(え、何?なんでこんな恥ずかしいワケ?別に普通のこと言っただけじゃねーか俺! 居候してるんだから必然的にクリスマスは一緒にいるんだし、となりゃ祝うのは当然の流れだっつーのに・・・・ なんだコレ、ひとり羞恥プレイ?)」
「・・うん。楽しみにしてる」
ひとり悶々としていた銀時だが、そう言ったの笑顔を見て思考は停止する。
こういう笑顔はの専売特許で、彼女が気を許した人間には結構お目にかかる機会の多いものだけれど、それでも。
いや、だからこそ自分ひとりに向けられるキラキラした笑顔は希少価値が高い。
―――そう。希少価値が高いからだ。だから急に心拍数が増えたりするのだ。
「新八とか神楽とか、すっげー好きそうだもんな」
「・・・・・あ?」
「え、だってなんかみんなでわいわいやるんだろ?神楽とか、飾りつけするのも好きそうだし」
―――増えた心拍数が一気に下がったなんて、そんなの気のせいだ・・・っ!
「だ、だなー。みんなでクリスマス・・・楽しーだろーなー・・・(虚しい・・・)」
「どーせならさ、真撰組のみんなも呼ぶ?」
「それは勘弁しください、まじで」
Web拍手の小ネタ。一部改訂、追加のち掲載。
07.03.31 一部改訂