「あけましておめでとうアル、!」
普段なら考えられないことだけれど、はお昼近くになってようやく布団の中で目を覚ました。
昨晩はいつも仕事でいないはずの妙ねえ(はお妙のことを妙姉ちゃんの略で妙ねえと呼ぶ)も、
これからが仕事だと俄然張り切るお登勢さんとキャサリンも、決して広くはない万事屋銀ちゃんのリビング(本当は事務所)に集まり、みんなで鍋を囲んで。
しかもその鍋は、どこにそんな余裕があったのかちょっと豪華で(あ、お登勢さんがいろいろ持ってきてくれたのかも)。
延々と歌番組(えぇと、紅白歌合戦とか言うんだったかな)を流すテレビそっちのけで、
お肉を派手に奪い合い、お酒を酌み交わし、たくさんおしゃべりして、ちょっとケンカして、
いっぱい、いっぱい笑った。
寒いからいやだ、と言い張る銀時の首を縄でつないで(妙ねえがしたから、銀さん白目剥いてた)(見ないフリ)、
みんなして人のごった返す神社に出向いて、鐘の音をたくさん聞いて、12時をまわると同時に打ち上げられた冬の花火の綺麗さに目を奪われて、妙ねえの言うように幾ばくかの小銭を箱みたいなのに投げ入れて、両手を合わせてお願いをして、途中でお蕎麦屋さんに立ち寄って年越しそば?を食べて、新八と神楽と手を繋いで帰って。
あ、でも実はコレ、本当は年が明ける前に食べないと金運が下がっていけないらしい。
でも年明け前はお店が混むし、下がるほどの金運も持ち合わせちゃいないから、別に問題ないって妙ねえが言ってた(なんだかムナシイ)。
何もかもが初めてだった。
時計を見て、指し示す時間にびっくりして完全に覚醒しただが、外気の冷たさに起き上がる気力を奪われてしまう。
窓の外から明るい日差しが延びてきている。いつもと変わらない朝・・・というかお昼。
今日に限って雀鴻(召喚獣)はどうしたのかと考えると、昨夜の酒が彼らにもきいてぼけーっとしているらしかった。
こんなことでいいのかオマエら、とは思うが人のことは言えない。
「・・起きなきゃかァ」
ぼそりと布団の中で呟いて、それでもあと一歩が踏み出せないでいたに突然投げかけられたのが、神楽の声だった。
「あけましておめでとうアル、!」
「・・・おはよ、神楽」
がまだ横になっている布団のそばに駆け寄ってきた神楽は、それはそれは嬉しそうな満面の笑みを披露している。
「違うヨ、。こーゆー時は、あけましておめでとうって言うアル!」
「・・・あけまして、おめでとう・・・・?」
「そ!よく言えたアルねー」
しゃがみこんで、よしよしと頭を撫でる神楽をそのままに、は首を傾げる。
「あ、さん起きたんですね。あけましておめでとうございます」
「なぁ、新八。ソレ・・・あけましておめでとう、っての、何?」
がそう聞いてくることは、彼にとっては予想の範囲内のことだったらしい。
今日、1月1日は一年の始まりの日で「元旦」ということ。
3日ぐらいまでを「お正月」といって、今年の神様・・・・年神さまに「よろしく」という意味をこめたお祝いをする時期であること。
そして、それくらいの間には知人はもちろん、知らない人にも「あけましておめでとう」と挨拶することを教えてくれた。
「そっか、なるほど。じゃあ、改めて『あけましておめでとうございます』」
そう言ったときの、新八と神楽の笑顔がには嬉しい。
「んで?銀さんには言ってくれないの?」
銀時が襖を開け、ぼりぼりと頭をかきながら入ってきた。
大きな欠伸を漏らしつつ、彼の赤くなった目が昨日の飲みすぎであることを告げている。
「あぁ、銀さん。あけましておめでとうございます」
「ん、おめでとさん」
にっこり、という擬音がピッタリの笑みを浮かべたの頭をくしゃりと撫でる銀時の手。
大きくて温かいその手に触れられるのが、は好きだ。
+ + + + + + + + + +
その後。妙ねえが持ってきてくれた大きなお弁当箱(重箱っていうらしい)の黒い物体を銀さんのおなかの中に処分して(銀さんの脈が弱くなってた)、お登勢さんが持ってきてくれた本当のおせち料理ってやつをみんなで食べた。
そのときには白くて、火であぶるとぷくーって膨れてよくのびるの・・・・アレだ、お餅!を、砂糖醤油とかきな粉とか海苔を巻いて醤油で食べたりした(俺は砂糖醤油がお気に入り!)お昼だってのに、やっぱりお酒が出て、いつもならたしなめる妙ねえも少しだけ飲みなさい、って神楽にも飲ませてて。
わけを聞いたら、そのお酒は「お神酒」っていうらしい。お祝いだし、風習みたいなものなんだって教えてもらったけれど・・・・・銀さんにはお神酒もビールも関係ないのだろうと思う。
むしろ、昼間から飲めて喜んでいるのかもしれない。
「っはー、今日はたくさん食べたー」
はベランダに出た。いつの間にか太陽は西の空に眠って、尖った月が天を支配している。
ひんやりと、どころでなくキンと冷えた夜風が身体の熱を奪っていく。
けれど、冷えて澄み渡った空にはいつもよりも多くの星が瞬いているような気がして。
「・・・きれー・・・・・」
吐いた息が白く輝く。すぐにそれは夜気の中に霧散して、なんだか無性に儚い。
「んなとこで何してんだよ」
「あ、銀さん」
「あ、じゃねぇっつの。おーさびィさびィ」
ちゃんちゃんこを羽織った銀時が肩をすぼめて外に出てきた。その頬はもう赤くて、目も赤い。酒のせいだろうか。
「で?何してたんだよ」
「別に、見てただけ」
「あー?ヘンな奴だな」
「ほっとけ」
年が明けたとしても、全然変わらない。なんだかおもしろくて、は口元を緩める。
「・・ったく、身体冷えるだろーが。んな薄着で外なんか出たらよォ」
ふわり、としたぬくもりが背中からを覆う。
「うわ、おめーもうこんな冷えてんじゃねーか。風邪引くなよ、面倒だから」
銀時の腕がを抱きすくめるように包んで。
冷たい夜の空気は一気に遠のいて、近くにあるのは甘やかなあたたかさ。
驚いて横を見上げるの視界にチラとうつる、銀糸。まるで月の光のように。
「で?本当は何考えてやがったんだよ、てめーは」
どうやら―――隠し事なんか、させてもらえないらしい。
「・・・・俺、今日はじめてだらけだったんだ」
「あ?」
"あけましておめでとう"の挨拶も、お節もお神酒も、お年玉も羽子板も福笑いも。
いや、昨日みたいな除夜の鐘もお蕎麦も・・・全部。
「すごく楽しかった・・・つか、楽しい。俺にはまだはじめてだらけだけど、それがなんかすごく」
でも、だからこそ・・・・いつかこの世界から消えるときが――――ただ無性に、恐くて。
「バカじゃねーの?」
「ッ!」
「こんなん、しばらくすりゃすぐに"はじめて"でも何でもなくなるっつーの。ま、楽しいのも今のうちだろ」
ぬくもりに、強く引き寄せられる。
「覚悟しとけよ。アイツら、嫌でも毎年お前巻き込むつもりだろーからな」
「―――・・・銀さんだって、昼間から酒飲めて嬉しいくせに」
「あー?気のせいだ、んなもん」
ああ、そうか。
来年も、その次も・・・嫌になるくらい、俺はここで一年を迎えるのか。
「・・・ありがと」
「あ?何のことだよ」
「なんでもね」
は背中のぬくもりに身体を預ける。
銀時は寄りかかってきたぬくもりを抱きとめて。
あたらしい一年が始まる―――・・・
拍手お礼の小ネタ。一部改訂・追加のち掲載。
07.03.31 一部改訂