0702  trap of Saint Valentine's Day




2月。暦の上では春になるこの月だが、現実に春を見つけ出すことなんか難しく、冷え込みはきついしまだまだ寒い。しかも冬休みと春休みの間であるこの月は、基本的に面倒くさい感が拭えない。進級がかかった一夜漬けで乗り切るにはそこそこ厳しいテストが行く手をふさぎ、 受験生であればセンター試験と双璧をなす巨大な2次試験という山を越えねばならぬ月である。
――――だがそんな厄介な月には、大事な大事な一大イベントがある。


バレンタインデーだ。


1月も終わりに近づいた頃から街はクリスマスよろしくバレンタイン一色に染まり、あたりはピンク色のふわふわした空気と、チョコレートの甘い匂いに満たされる。 14日を控える週末には女の子は思い思いのチョコレートを既に手にし、それぞれが想いとともにチョコレートを受け取ってもらうことを胸を高鳴らせていたりして。

そして我らが万事屋店主、坂田銀時もまた、バレンタインデーを心待ちにする1人である。 基本的に、彼にバレンタインデー云々といったイベントは関係ない。 女の子からもらえるチョコレートと言えば、妙からの"可哀想な茶色の物体"であるとか、 女の子とは言いがたいお登勢が客に配るウィスキーボンボン、キャサリンからの蔑みの視線、 あのマゾっ娘(猿飛)のオリジナル納豆チョコなどといった、正直もらったところでハッピーバレンタインな気分にさっぱりならないシロモノばかり。
それでも彼がバレンタインを楽しみにするのは、15日になったら売り切れたチョコレートの山がスーパーで安売りされるのが楽しみであるからで、つまりそんな風にしかバレンタインを満喫できない銀時にとって、バレンタインなどクソ食らえなイベント――だった。

そう、去年までは。

今年はがいる。おそらくバレンタインなどというイベントは知らないはずだが、逆にそれが好都合だ。 義理チョコなどという存在価値を見出せないチョコレートが存在するバレンタイン。 がそれを知れば銀時だけでなく、ダ眼鏡にも、マヨネーズにも、サド王子にも、ゴリラにも配ることは間違いない。 だがそれでは意味が無いのである。いや、からもらったのであれば義理チョコだろうと嬉しいものは嬉しい。 だがどうせ義理なら、義理であっても――――自分が独占したいと考えて、バチは当たるまい。

ー? お前、2月に何があるか知ってっか?」

テレビから首だけでこちらを振り返ったは、にこっと破顔する。ただ笑顔を浮かべたそれだけの変化に、目を奪われる自分が滑稽だ。

「知ってる!」
「・・んだ、知ってんのかよ」

作戦失敗・・か。残念極まりないけれど、まぁからチョコレートをもらえるだけでよしとしよう、と銀時は考える。

「コレだろ?」

そういって身体ごとこちらを向いたの手にあったのは、赤い包みにくるまれたチョコレート・・・・・?

「・・・え、何ソレ?」
「豆」

一升枡にこんもりとつまれた豆マメ豆マメ、豆の山。 ニッ、と笑ったの笑顔は確かに銀時を惹きつける。けれど、背後にサド王子の影が見えたのは気のせいだろうか。

「鬼は外ー、福は内ーっ!!」
「ば・・ッ! こら止め・・イテッ、痛ェエエ!」

豆をむんず、と掴んだは容赦なく豆を投げつけてくる。痛い。そーとー痛い。 床に転がった大豆をはだしで踏めば、健康サンダルなんか目じゃないくらい痛い。

「てめ、コラ! いい加減にしやがれコノヤロー! 鬼役なんか地味な役どころ、俺じゃなくて新八だろーがこーゆー時は・・・・ってオイィイイ!今なんかスッゲでかい箱みたいの投げたろコラぁ・・・・?」

銀時の手元に投げ込まれたのは、赤い包装紙に金色のリボンを施された長方形の包み。

「おま・・・コレ・・・・」
右端にくっつけられたメモに書かれていた言葉は―――・・・


    銀さんへ
    いつもありがとな
    ハッピーバレンタイン   より





これから1時間後。同じような光景が真撰組屯所において繰り広げられていたのは、銀時が知らなくてもいい事実。


web拍手用の小ネタ。一部改訂・追加のち掲載。
07.03.31   一部改訂