冬の厳しい冷え込みがだんだんと緩みはじめ、木々や風のなかに小さな春を見つけられるようになる頃合。4月が出会いの季節ならば、3月は別れの季節だろう。
時が過ぎ去る空しさと、胸に迫りくる別離への感傷。
その一方でこれから待ち受けているであろう新しい何かに対する期待や希望、そして不安。
――――さまざまな思いが交差し、鮮やかな光を放つそんな月には忘れちゃならないことがある。
ホワイトデーでィ。
そんなわけで、俺 沖田総悟は明日3月14日を迎えるに当たって、正直なやんでた。
俺なんかにゃ、バレンタインやらホワイトデーやら、そういったもんは関係ねェと思ってたからでさァ。
・・・・・あ?貰えねェとかいうワケじゃねェよ、当たり前だろィ。
冬山で1ヶ月ぐらい遭難しても生き延びられるんじゃねぇかと思うくらい貰ってあらァ。
段ボール箱にして・・・あー、いくつだっけな、3・・いや4箱?ぐらいは貰ったんじゃねェかな、確か。
でも、俺にはバレンタインデーやらホワイトデーなんか関係ねェもんだった。
欲しいとも思ってねェのに、勝手に寄越してくるんだ。俺が返してやるギリなんざねェだろィ?
そう思ってきたし、これからも多分そうなんだろうと思ってたけれど・・・・・今年は違う。
俺はアイツ―――からチョコレートを貰っちまった。
板チョコを赤い包み紙でくるんでリボンをつけただけの、愛想もひったくれもねェもんだったけれど・・それでもチョコレートには違いねェ。
「総悟そんなとこにいたのかよー、俺すげぇ探したぞ!」
「・・・あ?」
愛用のアイマスクをずりさげて声のほうに目をやれば、腰に手を当て仁王立ちしてふくれっつらした。
「あーあー、ぶっさいくな顔してまさァ。見るにたえねぇや」
本心じゃないことが、に伝わる方法があったら誰か教えてくんねーかなァ・・と思ったり思わなかったり。
「るっさいな、生まれつきなんだよ!・・ホラ、これやる」
ぽい、と投げて寄越されたソレ。俺はぽかんとするほかない。だって
「バレンタインだからな。やるよ、総悟に」
だって―――もらえるはずがないと一番最初に諦めていた奴からのもんだったから。
「・・・どーしやすかねェ・・・」
自室に寝転がって、俺は薄暗い天井に向かって呟く。なんかを貰って、ちゃんと返そうとするのなんて何年ぶりでィ。
アレ俺もしかしてほとんどねェんじゃね? という結論に至って、漏れるため息を止めることなんざできねェ。
つーか、大体なんで俺はこんな悩んでるんでィ。
こんなのサクッと菓子かなんか買って、明日稽古付けに来るに渡せばいいだけの話だろィ?それをなんでこんなに悩む必要があるんでィ。
「あー・・ワケわかんねー・・・」
いや、でもだれかとカブるのはイヤだ。どーせくれてやるなら、俺だけにしかやれねェもんがいい。
ナンバーワンよりオンリーワンってやつでィ・・・・アレ、なんか違うか?
てかちょっと待て。誰かとカブるって・・・どういうことでィ。
他の野郎にもチョコ配って・・・んだろーな、のことだし。
事務作業みてぇに配ってそうだ・・・近藤さんや山崎や万事屋の旦那やうぜぇことこの上ねェがあのマヨ、
あーなんか隊士の奴らにまで配ってる可能性もあらァ。
俺にも、俺以外の野郎にも 当然のように。
あー・・なんかムカついてきた。なんなんでィこれは。土方スペシャルとかいう犬のえさ食ったときにも負けねェこの気持ち悪さは。
あ、でも前に土方スペシャルそこらへんほっつき歩いてた野良犬にやったらクゥンクゥンいって逃げてったしなァ・・・犬のえさでもねェシロモノか、ありゃ。
「はー・・ったく、めんどくせぇなァ・・・」
大体、女になんかをやること自体、俺にとっちゃはじめてみたいなもんだ。
いや、姉上にはあるけど・・一緒にしていいのか、コレ?
―――ってなんで俺、と姉上を別にして考えてんでィ。
おんなじ女なんだし、パッと見た感じ年が一緒な感じはしねぇけど実際ほとんど変わんねぇんだし、
一緒にすりゃあいいんでさァ・・・・・・・いや、でもなんか違うんだよなァ・・。
悶々と考えているうちに、自然と沖田の思考は眠気に飲み込まれていく。
身震いするような寒気に襲われてようやく沖田が目を覚ましたとき、すでに外は太陽から月へと天空の支配権が動いていて。
まさかと思って目をやった時計の短針は、もうすぐ9の字を指そうとしていて。
なんで今日に限って土方のヤローは起こしにこねェんだ、と見当違いな方向に八つ当たりしてみても時間が戻るはずも、
閉じてしまった商店がシャッターを開けてくれるはずもなく―――・・・・・。
追い詰められた沖田が、自分にリボンを結びつけ、出勤してきたに「コレやりまさァ」と真顔で言ってグーで殴られるのは、すぐそこまで迫った話。
Web拍手用の小ネタ。一部改訂・追加のち掲載。
・・・・・・・・プレゼント沖田、貰っちゃいます?
07.03.31 一部改訂