0710  Happy Birthday to Gintoki!!



「・・どーしよ」

10月のカレンダー、マッキー極太の赤でぐりぐりと赤い丸印が描かれた日付は10日。銀時の誕生日である。「困った」と眉間に皺を寄せ、ううむと腕組みして唸るがなぜそんなことをしているかと言うと、彼女はベタに銀時の誕生日を忘却せしめてしまったからである。そしてそれを思い出したのが、今日10月10日。・・・おいおい、当日じゃないかコノヤローと突っ込んだのは何も皆さんだけでなく、自身もそうである。

「おいおい、今日じゃんかコノヤロー」

時刻は朝7時。普段なら銀時が起きてくるのは2時間後だが、大人なように見えて子供な彼が自分の誕生日に遅くまでぐーすかやっているとは思いにくい。子供のようで汚い大人な彼にプレゼントの用意云々の前に誕生日すら忘れていたなどということが知れれば、は自身の財布を握られて町に繰り出すことになるだろう。絶対に、と言い切れてしまう自分が嫌だ。

「困ったなぁ・・」

無意識のうちに口から零れた言葉が、朝の空気に紛れて消えようとするとき。電話がけたたましい音を立てて、はビクッと体を揺らした。部屋の奥の人間に起きてこられては困る。朝っぱらから俊敏な動きで受話器を取ったは、「・・もしもし」とごく小さな声で応えた。

「あ、もしもしさんですか?」
「あれ、新八?」
「はい、朝早くにすみません。起こしちゃいましたか?」
「ううん、起きてたから大丈夫」

電話の音に目を覚ましたらしい神楽が、のっそりと目を擦りながら現れた。「こんな朝っぱらから誰アルか。非常識にも程があるネ」と不機嫌そうに言い放った神楽が、衝動のまま電話を破壊しなくてよかったと結構マジで思う。押入れの襖に人ひとりが出入りできるような大穴が開いてしまっているが、それは意味のある犠牲だったと合掌。

「急なんですけど、今日ちょっと外せない用事ができちゃいまして・・・すみませんが、今日は僕お休みさせてもらいます(どうせ依頼も入ってこないでしょうし)」
「あー・・そうなの。わかった、銀さんに伝えとく(どーせ今日も仕事なくて暇だろうし)」

最近、と新八は顔を合わせなくても互いの意思を交換することが出来るようになっていた。

「それで、神楽ちゃん起きてますか?」
「え、神楽? 起きてるけど・・・代わるのか?」
「お願いします」

受話器を受け取った神楽は、急に声を潜めてヒソヒソと新八と言葉を交わしている。時折聞こえてくる「ケッ、銀ちゃんのクセに生意気ネ」「銀ちゃんばっかりズルいアル」などという言葉に首を傾げつつ、この朝からテンション高めな羽鳥アナの巧みな話術に「やっぱアナウンサーってすげぇな」なんて、寝起き特有のぼんやりした思考で思う。

、新八が代われって言ってるネ」
「ほいほい。・・・ん、どしたの新八」
「いえ、今日たまたま姉上が仕事が休みで、神楽ちゃんを連れて領地の拡大・・いえ、遊びに行きたいって言ってて」
「ああ、じゃあ神楽も今日いないのか」
「すいません、姉上のわがままにつき合わせちゃって」
「何言ってんだよ。付き合わなかった後のことを考えるほうが俺怖いもん」
「・・・いや、なんかもうほんとスンマセン」

じゃあここで新八に聞いてみるしかない、とは呼気を吸い込んだ。

「あのさ、新八。今日って銀さんの誕生日・・だよな? 俺、なんも用意してないんだけど、どーしたらいいと思う?」

電話口で、新八が瞬間押し黙り、そしてくすくすと笑った。

「? なにがおかしいんだよ」
「いえ、なんでもないです。さんは・・そうですね、別に何もしなくてもいいと思いますよ」
「えー? 絶対文句言われるよ」
「大丈夫ですよ、さんですから」

なにやら自身ありげな新八にそう言い切られて、はむむむと言葉を飲み込む。

「強いていうなら、今日は銀さんについてあげててください。仕事の話とかあんまりしないで」
「・・うーん? そんなんでホントに大丈夫かぁ?」
「大丈夫ですって」


何せ、誕生日プレゼントで僕らが要求されたのは、今日一日銀さんとさんが二人でいる時間なんですから。


新八のその呟きはに聞こえない。まったく手間のかかる二人だ、なんて新八は胸のうちで零すがそれも勿論届かない。応援してやるつもりは毛頭ない。けれど、誕生日にそのくらいの後押しをしてやってもばちは当たらないだろうと思う。新八にとって大事なのは、何より自分の大事な人たちが嬉しそうな顔をすることだ。

「まぁ、そこまで自信満々に新八が言うんなら、信じるけど」
「今日一日、銀さんをお願いします、さん」
「・・・知らないからな、ほっとんど0に近い貯金が更に切り崩されてても」
「それは勘弁してくださいマジで」

ようやく起きだしてきた銀さんに新八と神楽のことを告げ。その時見せた寝起きの笑顔が、ほんの少しだけ・・・本当の本当にほんの少しだけ、きれいだったなんて絶対言ってやらない。


なぜか新八くんが男前に仕上がった銀さんお誕生日おめでとうな10月でした。
writing date  07.09.25    Re:up date  07.11.01