Colorful

:24



――ロックオン!」

がその長身の青年を見つけたのはスーパーのお肉売り場で、彼は片手に買い物籠をぶら下げていた。驚いたように振り返ったロックオンは、こちらに気付いてふわりとした笑みを浮かべる。夕方のスーパーには主婦層と思しき買い物客で賑わっているが、その中で彼の姿はひどく浮いていた。よぉ 久しぶりだな、と片手を挙げるロックオンに歩み寄り、も彼に笑顔を返す。

「・・夕飯の買い物、ですか?」
「ま、そんなとこだ」

覗き込んだ買い物籠の中には、5時の市の割引値札が貼られた肉のパックがひしめいている。大学院生の彼が、附属高校に通う刹那の面倒をみていることを知ったのは最近の話だ。ティエリアにそれを聞かされたときは――ロックオン・・なんて羨ましい!とそこはかとなく思ったりしたことはどうでもよくて――どこか なるほど と納得したことを覚えている。見るに見かねて、刹那に手を差し出すロックオンが目に浮かんで、は思わず笑ってしまった。

とは、この間ぶりだな」

“この間” が どの間なのか、考えるまでもなく答えは出ている。思わず言葉に詰まって見上げたそのひとは、まるで何かのお手本のように片目をつぶった。・・・絵になっているのが腹立たしい。すんでのところで飲み込んだ舌打ちをため息に変えて、唸るように言葉を絞る。

「・・・・・さっさと忘れてください」
「ははっ、そう嫌そうな顔するなって」

ぽん、と頭に触れた大きな手がから、続く言葉をさらに奪う。舌の上で見失ったセリフを探して、けれど見つからずには口をつぐんだ。彼がそれを意図的にしているのか否か――このひとは大人だ。素知らぬ振りして刃の切っ先を折るのを厭わない。矛先が向けられるものを、よく似た違うものへとすりかえるのを躊躇わない。それはいっそ、清々しいほどに。

「あの後も、散々だったんですよ」

数にしてわずか12票差――あと5分あったら挽回できそうなそれで、目の前から掠め取られていった現金5万円と自主休講権。後夜祭の盛り上がりの中で脱力する我が身に突き刺さる、あの呆れかえった深紅は慈悲深い情など持ち合わせてはいなかった。

「・・あの後?」
「後夜祭のときとか、帰り道とか。人のことすんごいバカにした目で見るんですよ、ティエリアのヤロウ」
―――・・あの後、ね」

どおりでその次の日、ひどく眠そうにしていたわけだ。
ロックオンは口元をふわりと緩める。翌日が片付け日と称する休みだった彼女と違い、自分たちの1週間の始まりは普段と変わらない。朝から入っていた実験の最中、ティエリアが何度もあくびをかみ殺していたのにロックオンは気付いていた。「どうしたの?」 と心配そうに尋ねるアレルヤにひどく不機嫌そうな顔をしていたから、わざわざ聞かなかったのだが――なるほど、そういうわけか。

「・・ありがとな、
「? えーっと・・・どう、いたしまして?」

は首をかしげながら、うなずいた。ぽんぽん、とひどく満足そうに笑うロックオンに礼を言われるような理由に思いあたりがない。けれど、はこのひとの、普段はなかなか触れることのないまるではちみつのような、甘やかな柔らかさに満ちた空気が好きだった。丸め込まれていることを自覚しながら、向けられる微笑みに笑顔を返す。

「・・・・・何をしているんです、あなたたちは」

―― そう、普段はこれだ。研ぎ澄まされた刃のように鋭く、どこまでも容赦のない直線的な空気。“今 全力で呆れています” というのを隠す努力をほんの少しだってしないそれ。口元をひくりと引きつらせた紫苑を見返して、は笑顔を浮かべる。

「ティエリア! ほらこれ、ロックオン」
「・・・見ればわかる。俺は何をしているのかと聞いたんだ」
「? 別に、なんも。たまたま見かけたから喋ってただけ。ですよね、ロックオン?」
――お、おう」

できればこっちに話を振らないで欲しいというロックオンの希望はどうやら、叶いそうにないらしい。

「・・・ひとにあれを持って来い、これを持って来いと言った割に、いいご身分だな 
「少しのあいだだろー。てかさティエリア、なんでこんな高い肉なわけ? これはなに、軽い自慢ですか?」
「・・・そうなのか?」
「無自覚かよ! 尚タチ悪いわ!」
「・・俺が支払いをするんだから、君には関係ないだろう」
「いや、そーだけど。そーなんだけどさぁ!」

突然、堪えきれなくなったような笑い声が頭上から降ってきて、は怪訝そうにそのひとを見上げる。くすくすとさもおかしそうにお腹を抱えるロックオン。目尻に優しいしわを刻み、軽やかな笑い声を滲ませて。突き刺すような深紅と漆黒の眼差しに、「悪いな、ちょっと・・ははっ」 と何のフォローにもなってない言葉を告げる。顔を見合わせ、わけが分からないと首を傾げる二人のそれはもはや、宇宙人でも見るかのような目つきに変わりつつある。

「悪かったな、いきなり」
「・・や、別に全然いーですけど・・・」
「何がそんなに面白かったんです? ロックオン」

ティエリアの質問に、ロックオンはその双眸を和らげただけで答えようとしなかった。ゆるりと首を振り、なんでもないよと言いながら自分たちの頭に手を乗せる。ぱしりと払われた片方の手を、彼は苦笑交じりに振ってみせた。

「随分仲良くなったんだな、お前ら」
「・・・ロックオン、あなたの目は節穴ですか」
「実はビー玉だったり?」
「・・・ほんと、お前ら仲良くなったよ」

あたたかな笑みを顔に乗せて、ロックオンはひょいと買い物籠をのぞきこんだ。は、それはそれは嫌そうな顔をして、秀麗な面立ちを殊更歪めたティエリアと視線を戦わせる。それに気付いているのかいないのか、ロックオンはひどく楽しげな顔をしていた。・・・この大人の考えていることは、いまいちよく分からない。

「今晩はカレーか?」
「いっつもこっちが提供してやるばっかなんで、たまにはティエリアにやらせようと思って」
「・・・ティエリアが、作るのか?」
――なんですか、その顔は。料理くらいできます」

――・・ほんとお前ら、仲良くなったよ」


となりに。


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142:となりに。 ... 鴉の鉤爪 / ざっくばらんで雑多なお題(日本語編)
writing date  08.06.07    up date  08.06.28
ロックオンの兄貴には、いつもいつもお世話になって・・! (空さん、ネタ提供あざーっす!)