Colorful
:26
「ごめん、本当にごめんね さん。いくらスメラギさんの命令だからって、こんな・・・」
「ううん、いいよ アレルヤ。気にしないで」
「・・・そう言ってもらえると、気が楽になるよ」
ロックオンはこのとき この場所 この状態の席順を、心の底から呪った。己の判断の甘さを、悔恨の思いで噛み締める。右から順に、刹那・・アレルヤ・スメラギ・ティエリア・ロックオンと円卓の周りに着席しているわけだが、そんな彼の左隣から発される空気ははっきりいって、この場に適したそれではない。そして何よりも恐ろしいのが、そんな空気を垂れ流しながらも秀麗な面立ちにはわずかな狂いもないことだ。
――美人の怒りとは往々にして、凄まじいのである。そう、色んな意味で。
「ほらほら、さっさとやっちゃってくれる? 後がつかえてるんだから」
先が赤く塗られた割り箸を見せ付けるように揺らして、スメラギ・李・ノリエガはニヤニヤと唇を吊り上げた。今にも泣き出しそうな表情での両肩に手を置くアレルヤと、観念したように大きく息を吐いたを楽しげに見守りつつ、けれど彼女の注意はロックオンの隣に注がれている。そうだろうとは思っていたがやはり、ミス・スメラギの楽しみは命令を下された当人たちではないところから搾取されているらしい。・・勘弁してくれ、というロックオンの切なる願いは
――祈りは、きっと神に届かないのだろう。
王様ゲームという、昔から使い古されてきたパーティーゲームがある。番号が振られたくじを引いた者は、王様が出す命令を必ず実行しなければならないという、古典的でありながら、脈々と受け継がれてきたそれ。今回の場合は、先が赤く塗られた割り箸を引いたものが王様となり、そのくじを引く確率は全員が等しい
―――はずなのだが。
「やだぁ、私また王様引いちゃった!」
「ぇえ? ミス・スメラギ、それ3回目だぞ」
「えー? もうそんなに引いたかしら」
「・・・・・俺はまだ引いていない」
刹那だけの話ではない、王様のくじをひいたのはミス・スメラギとアレルヤの二人だけだ。二人の間を行ったり来たりするそれは、残りの4人の手に決して渡ろうとしない。いい加減何らかの意図が働いていると考えるのが妥当だが、それを言い出す無謀を、ロックオンをはじめとする被害者たちは持ち合わせていなかった。何をさせられるのか、考えるだけで身の毛がよだつ。
「うーんと、そうねぇ・・・・2番が4番にキスしてちょうだい。おでこでいいから」
付け加えられた最後の一言が、一体何のフォローになるというのだろう。学会発表を終えて開放感に満ち満ちているらしいミス・スメラギが妙なテンションで言い出した王様ゲームはまず、男女の比率がおかしいのだ。それに加えて、彼女が出す命令は先のようなセクハラまがいのものばかり。自分が王様になったせいでさらに偏る男女比を理解していないはずがないのに、である。
「2番と4番、だーれだ!」
―――けれどなにより恐ろしいのが、彼女が下すミッションはなぜか、組み合わせが妙にしっくりくることである。
「・・・あの さん・・・、」
「うん?」
「目を・・つぶってもらっても、いいかな?」
「・・うん、わかった」
自身の手のひらに爪が食い込むのを、ティエリアは確かに自覚していた。噛み締めた奥歯が軋む音がする。この不愉快極まりない場所から今すぐにでも出て行きたいのに、それが出来ないのはスメラギ・李・ノリエガの手にこれまでコツコツ集めてきたデータが握られているからだ。これだけのデータをよく集めたな、と教授にすら言わしめたそれを抑えられ、ティエリアは己の自由を失った。
普通、この場にいるはずの無いあれは、飲んだくれの上回生にほとんど引きずられてきた。「ここに帰ってくる途中に見かけたから、ついでに遊びに来てもらったのよー」 というセリフの中の “ついで” の意味がまったく理解できない。けれどその思いつきであれはここに連れてこられ、しかもこんな下らない遊びにつき合わされている
―― さっさと帰りたい、と思うのは間違っていないはずだ。
「じゃあ・・、本当にごめん」
大人しく瞼を閉じているあれの額に、アレルヤ・ハプティズムの唇が触れた。一瞬後にはごめんごめんと謝罪の言葉を繰り返す彼に、あれは柔らかい苦笑をのぞかせる。
―――・・気分が悪い、吐き気がする。アレルヤ・ハプティズムのように少しは狼狽してみせるとか、たじろいだりすればいいものを、まるですべてを飲み込んだようにただ困った顔で笑う。へにゃりとだらしなく口元を緩め、凡庸な光を漆黒に灯して。・・馬鹿馬鹿しい、下らないにも程がある。あれは普段、自分がどんな顔で笑っているのかさえ知らないのか。
「・・ティエリア、」
「何ですか、ロックオン・ストラトス」
「・・・お前、大丈夫 か?」
この男にしてはひどく不出来な表情に、どこか不快感を煽る生温かい双眸。ティエリアの深紅はそれを射抜く。返事を切り捨てる傲岸さで。
「何が言いたいんです?」
「あー・・いや、悪い。別に大丈夫ならいいんだ、気にしないでくれ」
「こーら、そこ何やってるの? 次やるわよ、次!」
これで何度目になるのか、考えるのも面倒くさい。ペン立て代わりになっているマグカップの中に集められた6本の割り箸を、何の感慨もなく引く。次こそは数字以外をと思ったのはもはや過去の話だ。スメラギ・李・ノリエガが何らかの作為を施しているのは予想しえたとして、問題は 「あ、僕 王様です」 アレルヤ・ハプティズムだ
――今回に限ったことではない、彼はいつだって最後に余ったくじを自分のものとしている。
「うーん・・じゃあ 5番のひとが1番のひとに、でこピンを 「鼻の頭にキスってのはどうかしら」
「ミス・スメラギ! 今回の王様はアレルヤだろーが!」
至極当然で真っ当なロックオンの叱責はしかし、アルコールの入ったスメラギ・李・ノリエガには届かない。後輩の諌めるような口調に唇を尖らせながらも、続けられたセリフは決して悪びれてなどいなかった。
――「だって、アレルヤの出す命令はどれも でこぴん とか シッペ とかで、面白味に欠けるんだもの」
「すみません。罰ゲームって言われても、あんまり思い浮かばなくて」
それで全然構わないんだ、アレルヤ!
―――被害者の会構成員である4人が思いを一つにしたことを、弱りきった顔で苦笑するアレルヤは知らない。
「じゃあ、スメラギさんの言うとおり、でお願いします」
「断固として拒否する」
昂然と言い放ったティエリアの前で、がひどく困ったように首を傾げる。「拒否権なんてあんの?」 と応じた声音に揶揄はない。最初こそ、嘘 マジですか、と驚愕を滲ませたものの、あれ自身が5番を引いたことに対する驚きや戸惑いは、もう既に。すべてを納得したように、どこまでも平然と
――声に諦めを滲ませて。
「そうよ、ティエリア。拒否権なんて認めません」
「今の王様は、あなたではない」
「同じことよ。拒否権なんて認めたら、このゲームが成立しないことぐらいわかるでしょう?」
ぐ、と息を飲み込む。反論の余地がないことは理解している・・・ティエリアだってそれは重々理解しているが、それとこれとは話が違う。違うのだ、大いに!
「・・っ、とにかく! 俺はその命令には従えません。続きはどうぞ、あなたたちだけで 「ティエリア」
はたと見合わせた漆黒は、底の知れない沼のようだった。
「
――・・男だろ、覚悟決めろよ」
ヒステリックマーチ
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ヒステリック・マーチ / ジャベリン
writing date 08.06.11 up date 08.07.05
定番の王様ゲームも、奴らにかかればこんなもの。 (水城さん、ネタ提供あざーっす!)