第1話
「あれ・・?」
「おー?いきなりどした新八ぃ。独り言にしちゃあ意味不明だぞぉ」
万事屋はいつもと同じ、いっそ飽き飽きしてしまうくらいの普通の日を送っていた。
万事屋の店主は発売されたばかりのジャンプを、ぼろくなりあちこちに汚れや色あせが目立ち、しかもスプリングの軋むソファに寝転がって一心に読みふけっている。
その坂田銀時が、先ほどから家計簿を見てはため息ばかり漏らす志村新八の言葉に反応したのはもはや奇跡に近い。
「や、なんか聞こえませんでした?」
「ついに幻聴も聞こえるようになったカ、このだ眼鏡」
「眼鏡バカにすんなよこらぁああ!」
テレビ(NHKの再放送『おしん』)に見入りつつ、またその口から酢昆布を決して離そうとしないまま、神楽は新八を一瞥することもなく辛辣にきった。
「べっつにー。何も聞こえねぇけどー?」
そう、銀時が言ったその直後。
「ぎゃぁぁああぁあ!」
3人はぴくりと動きを止める。
その悲鳴とも絶叫とも雄叫びとも知れない声が、かすかだが確かに今度こそ届いたからだ。
「・・・・ぁー、やっぱBLEACHおもれぇ。俺も斬魄刀使えねぇかなー」
「今月もやばいですよ、銀さん。またお登瀬さんに怒鳴られちゃいますよー」
「酢昆布うまいアル」
妙なところでこの万事屋の面々は抜群のチームワークを発揮する。
何の打ち合わせもなしに『さっきのは聞こえなかったことにしよう』という暗黙の了解が出来上がる、例えば今がそのときだ。
「ぎゃああぁあ!誰か助けて・・いや、助けろぉおおお!!」
「・・・・・」
3人はそれぞれいやそうな表情を隠そうともせずに顔を見合わせた。
そこで行われたのはなすりあいという名のたらい回しである。
「おーちーるぅううッ!」
「ッ!?」
頭上に破壊音が響く。
めきゃッ、ともずしん、ともつかないその爆音が3人の身を竦ませた次の瞬間。
もうもうと立ち上る埃の向こう側には、確かに人の影。
その人影はいたた・・、と苦痛に呻きつつも上半身をおこしている。3人が一言も発せず立ち尽くすその中で、徐々に埃が晴れていく。
最も破壊度の酷いその中心にいたのは――――少女だった。
「あーもー、まじ痛ぇ。いきなり意味わかんないっての。もうちょっと丁寧に異界送りしてくれれば
いいのにさぁ・・・俺が死んだらどーするつもりなんだよ」
腰の辺りをさするその少女は、なんというかつまり―――美少女だった。
艶やかに背中までのばされた漆黒の髪、意思の強そうな唇、筋の通った鼻、吸い込まれそうな黒曜石の瞳
――――16,7歳くらいであどけなさの残る容貌は、美少年でもとおりそうである。
「・・・・ぇーと、こんにちは?」
「「「・・・・・・・こんにちは」」」
そんなこんなで、万事屋銀ちゃんのメンバーと得体の知れない少女、は出会ったのでした。
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