第4話


「でも、本当にいいのか?」
「何のことスか?」

唐突に口をひらいたを振り返り、新八は応える。 二人は今、大江戸マートへと夕飯の買出しに出ていた。 万事屋にまたひとり同居者が増えたのだから奮発した夕飯にしたい、と新八は考える。 だが如何せん、万事屋銀ちゃんの経営状況はそれを許してくれそうにない。 前に給料が支払われたのはいつだったかと考えて、新八は重いため息をついた。 給料を受け取った記憶が見当たらないからである

「突然俺みたいなわけわかんない奴が転がり込んで・・・大体異世界からってなんなんだよ、って感じじゃね?」

はけらけらと笑った。新八は途端、頬を朱色に染める

「(うぉおおぉい!何でこんなに綺麗なんだよコノヤローッ!!反則だろ、これは反則だろぉッ)」
「おぉい、新八くーん?お前はなし聞いてるかぁ?」
「――・・・はッ!!」

のきょとんとした表情を見てようやく新八は、自分の意識がぶっ飛んでいたことを自覚する。

「ま、屋根ぶっ壊しちゃったからなー。あれなんとかしなきゃならんとは思ってたんだけど」
「全然気にしなくてもいいと思いますよ、さん」

妙に確信に満ちた新八の言葉に、は首をかしげる。そんなの様子に苦笑しつつ、新八は言葉を続けた。

「確かにあの登場シーンにはびっくりしましたけど、さんのあんな力見せられたら信じないわけにいかないですし」
「まぁそーだろねー」

の間延びした返事に、苦笑を深くする。 ・・・ふとしたときに、視線を感じて新八はあたりを見回して気が付いた。

(ぼ、僕たち・・・・すっごい注目を集めてるぅぅううぅう!?)

すれ違うひとの8割がたが、新八たちが通り過ぎた直後に振り返るのだ。 というか、もう立ち止まってガン見されている。 ありえないほどの注目を浴びてあせった新八だったが、よくよく冷静になって考えてみれば当然のことだと思い至る。
そう。物珍しそうにきょろきょろする連れのことを考えれば。
すれ違う狼――もとい男がを見て呆然と立ち尽くし(ついでにその前を先導する新八に鋭い一瞥をくれ)、 もはや女でさえその容姿に息を呑むばかりだ (少し耳をそばだててみれば、若い女の子たちからは「カッコいいッ!!」という黄色い声が届いてくる)。
男たちから殺気まがいの嫉妬を浴びせられるのは新八としては心外もいいところだが、決していやな気はしない。 むしろ鼻高々、といったところである。 異質な人間を受け入れた万事屋銀ちゃんの面々には、各々がに対して何らかの思惑を抱えていて・・・ それは言うなれば、彼女の容貌に論拠しないとはいえないのだ。

「新八ぃー。これからしばらくよろしく頼むわ」
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」

そう言って向けられたの笑顔に、新八の頬が再び赤く染まるのはすぐ後である。


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スーパーの袋を両手に提げて、新八とは談笑しながら万事屋銀ちゃんへの帰り道を歩く。 その途中でおおかたの歴史や情勢、天人や幕府そして攘夷などといった基礎知識を得る。 なるべく早くこの世界に馴染むためにはそういった常識を己の身体に叩き込まなければならないことをは本能的に悟っていた。 そして、そういった知識は銀時や神楽からは得られないこともにおいで嗅ぎ分けていたといえる。

「ふぅん・・・この世界にも戦乱やらはあるんだな」
「今はそんなにありませんけど・・・攘夷派のテロとか、ないわけじゃあありませんしね」

しかも僕らはそういう類のものに巻き込まれること多いですし、とは言えなかった。

「おーいッ!迎えに来たアルよー!そこの眼鏡に変なことされてないアルか?」
誤解生むよーなこと言ってんじゃねぇよ、てめぇええ!
「わざわざ迎えなんてよかったのに・・・って、コイツは一体なに?」

の指差した先には、神楽と神楽を背にのせた大きな犬。 この際大きなで済ませていいレベルではない気がするが、天人とかいうのが闊歩するこの世界ならばいてもおかしくはない気がする。

「あぁ、が会うのは初めてアルね!この子は定春。私のペットある」

感心したようにが手を定春へとのばす。あっ!と新八は叫んだ。

「危ないですよ、さんッ!定春はすぐ噛み付く・・・・って、アレ・・?」

新八だけではなく、神楽まで目の前の光景に目を丸くした。

「おー、お前いい子だなー。よしよし・・ってこら、舐めるなよー」

あの定春が・・・・人 (特に糖尿天パ) のことを餌と思い込んでいる節のある定春が おとなしく撫でられ、あまつさえ甘えるようにすりすりと頭を寄せているのだ。

「あぁ、俺は特別動物とかに好かれやすいんだよ」
「なんでアルか?」

を真ん中にするように、3人と1匹は万事屋への道を進む。 定春は、一応飼い主のポジションにある神楽にさえがぶりと頭から噛み付こうとする。 神楽は噛み付かれないに興味津々だ。

「さっき召喚してみせたのって動物だったろ?その影響だと思うんだけど、大概手懐けられるんだよな」
「へー。なんかすごいっスね!」
すごいアル!!」

きらきらと瞳を輝かせる二人を見て、は相好を崩す。 そして天を仰いだかと思うと、彼女は指を咥えてピィッと指笛を吹いた。すると。

「わぁあッ!すごい、すごいヨ!!小鳥がたくさん寄ってきたアル!」

公園の鳩にパンの耳を与えたときのように、大空を舞っていた小鳥が なんの警戒感も示すことなく3人の肩や腕にとまったのだ。 チチチ・・・、と髪を啄ばんだりする小鳥を目前に新八と神楽は目をさらに輝かせる。 神楽にいたってはもうを崇拝しかねない勢いだ。

「おーい?お前ら一体なにしてんの、銀さんだけのけ者ぉ?」
「「あ・・・っ」」

銀時が道の真ん中で突っ立っている3人(と1匹)に声をかけたとき。 突然の登場にびっくりしたのだろうか、小鳥たちが飛び去ってしまった。

「・・ぁ、あの・・・?」
「「なぁに晒してくれとんじゃ、この糖尿天パぁああぁあ!!」」

二人の攻撃を食らった銀時の断末魔が江戸中に響き渡ったのだった。

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