第2話
「・・・新八、神楽。お前ら集合!」
「「了解!」」
銀時、新八、神楽の三人はとさっちゃんの座るソファから離れ、円陣を組んで声を潜める。
新八、家計の観点から見て、この依頼は受けるべきか?
勿論です! ・・けど、正直気は進みませんね。
私もアル。さっちゃんが関わるとロクなことにならないネ。
だよなァ・・でも、金は欲しい。 / お金は欲しいです。 / 金は欲しいアル。
てゆーか、どうしてさんあんなに機嫌悪いんですか? 銀さん、またなんか余計なことしたんスか?
ちげーよ。・・かくかくしかじかな事があったんだよ、今朝。
うわ、銀さんアンタ最低ですね。
不潔アル。私に素手で触らないで欲しいネ。
俺は無実だコノヤロ! つか今は依頼どーすっかだろーがよ。
・・どうしましょう
「なんで依頼受ける、ってすぐ返事しねーの?」
円陣からは離れたところに座っていたが、ソファに広げた新聞紙に目をやったまま言った。その声は常よりも数段階低く、いかにも面倒臭そうで。三人はぴたりとヒソヒソ話をやめる。
「どーせ今月もヤバイんだろ? 報酬いいんだし、受ければいいじゃん。特に俺らが何をするわけでもないんだろ?」
「・・・ええ。ただ私をここに置いてくれれば、それで十分よ」
「ホラ。それにこの人、困ってるみたいだし。助けてやれよ」
正に鶴の一声、である。がそういうなら・・、を合言葉に万事屋はさっちゃんが持ってきた依頼を受ける方向で動き出した。が、どうにも決まりが悪い。ソファへ戻ろうと視線を向けた銀時だが、まずどちらに座ればいいのかで動きが止まる。普通なら依頼人の向かい側に、つまりの隣へ座って話を進めるところだが、今現在その場所は新聞紙が占領しており、しかも円陣を組む前に銀時が座っていたのはさっちゃんの隣である。ならさっちゃんの隣へ座ればいいじゃないか、と思われるかもしれないが「さぁ、隣にお座りなさい!」とでも言いたそうな(今にも言い出しそうな)表情の女の隣に座るのはどうにも気が引け、冷たいを通り越して痛いの視線を真っ向から受ける度胸もない。いや、その視線すら向けられなかったりしたら、今夜は枕を涙で濡らすどころの話じゃない。さて、どうしたものか―――・・・。
「・・新八、なんではあんなに怒ってるネ?」
「そりゃ、銀さんがさっちゃんさんといちゃこらしてたからじゃないの?」
「でも、私も新八も、銀ちゃんに呆れはするけど、怒りはしないヨ」
「・・あ、確かに」
「なんではあんなに怒るアルか?」
「・・・え、待って。もしかしてそれって・・・」
だめだ、期待なんかするものではない。こういう類の期待はしただけ、それが裏切られたときのショックが半端なく大きいことを銀時はとうに知っている。やめろ、考えるな――・・そう思えば思うほど、思考はまるで別の生き物のように歩き出す。一度堕ちたら二度と戻れない、蟻地獄のようだ。ああ、もう止まらない。もしかして、もしかしては。
「てゆーか、貴女いったい誰なの!?」
鋭いさっちゃんの声が、に向けられる。は身体の向きも変えず、ただ視線を新聞紙からさっちゃんに移動させることだけでその声に応じた。
「ああ、俺っていいます。これからしばらく、どーぞよろしく」
「あら、っていい名前ね・・・じゃなくて! 貴女どうしてさもレギュラーみたいな顔してここにいるの!?」
「そりゃあだって俺、ここに居候してるから」
いきり立つさっちゃんをよそに、は新聞紙をぱらとめくる。菓子受けに入れられていた湿気た煎餅をかじり、纏う空気をキンと冷やして。そしてさっちゃんが、爆弾を投下する。
「貴女、万事屋の・・・いえ! 銀さんの一体なんなわけ!?」
さっちゃんの台詞に被弾したのは、ではなく銀時だった。散々迷ったあげく、散らかり放題ではあるがデスクの椅子へ座ろうと向けた足が、止まった。思考も表情も足も――いや、一瞬心臓すら止まったかと思った。
「(・・が、俺の、なんなのか・・だって?)」
そんなこと、に問うたところでどういう答えを望んでいるのだろう。が銀時にとってどういう存在か・・・そんなこと、銀時本人に聞かずに信憑性のある答えなんかでてきやしない。殊にであればなおさら。くだらないこと言ってんじゃねーよ、と思う反面でしかし、よく聞いてくれた、との返事を切望している自分に反吐が出る。は、銀時の、一体なんなのか。それをがどう考えているか、世界で一番知りたいのは銀時だ。
「・・俺が、銀さんのなんなのか・・・・?」
「そうよ!」
囁くような、聞き取れないほど小さく掠れた声に、銀時の心臓がまた止まる。思わず「だぁあーッ!」と叫びだしたくなるくらいの沈黙に万事屋が埋もれてしばらく、斜め45度下一点を見つめて考え込んでいたの黒曜石が銀時を捉えた。なんの予告もなく向けられた透き通るような漆黒の瞳に、銀時は己の心臓の音を聞く。
「・・同居人、で・・・いいんだよな・・?」
「!」
ズキン、と鈍く、それでいて耐え難い痛みが全身を支配する。
「いや、うん・・・いいんだけど、なんかこう・・それだけじゃあ言葉足らずのような・・・」
「なんだろ・・友達? や、でも友達・・ってのもなんか微妙だよなぁ。仲間・・仲間、かなぁ」
独り言のようにぽつりぽつりとの口からこぼれる言葉が、少し・・そう、ほんの少しだけ、痛みを和らげる。
俺は、にとってただの同居人でも友達でも仲間でもない。
いい方に、いい方に考えないとやってられないというのが事実。だが、その事実だけでも世界に対して優しくなれる気がして、そんな自分に銀時は笑う。あまりに単純でわかりやすくて、酷く滑稽―――だが、そんな自分は嫌いじゃない。ううむ、と首をひねって考え込んでいるを、じりじりと肌を焼く夏の太陽からも、刺すような冷たさで身体を凍えさせる冬の北風からも守ってやりたいと・・・きっと彼女自身はそんなこと望んだりしないだろうけれど、ただそう思う。もしかしてこの思いは、自分のエゴやヒロイックな独占欲でしかないのかもしれないけれど。
「なぁ銀さん。俺って、銀さんのなに?」
「あ? そーだな・・・」
指に絡めたこの髪も。
「いちご牛乳、なんじゃね?」
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本当の本当に、私はさっちゃん大好きです・・!