第3話
「、髪結んでちょーだい」
神楽がにっこりと満面の笑みを浮かべる。
朝食を終え、ぼんやりとワイドショーを見ていたもなれたように微笑んだ。
これも万事屋銀ちゃんの朝の光景として定着しつつある。
が来るまで、神楽は自分で髪を結っていたのだからわざわざに頼む必要はないのだけれど。
「姉御に髪結んでもらうのも好きアルけど、やっぱりが一番ヨ!」
「そ?」
に髪触ってもらっているあいだ、神楽はなんとも嬉しそうな顔をする。
気持ちいいのだろうか、その顔は母猫に擦り寄る子猫だ。
ただし普通子猫は、その微笑ましい状況を指を咥えて見ているしかない男どもに向かって「ざまぁみろ、羨ましいだろコノヤロー」という顔はしない。
「、銀さんのもや「てめぇの好き勝手な天パのどこを触れと?」
「や、やってみなくちゃわかんねぇことだってあんだろが!
初めてチーズを食べた人がいなけりゃ、あのうまさは誰にも知られることなく「銀ちゃんとおんなじ櫛使うなんて絶対いやアル」
「思春期迎えた娘と父親かコノヤロー」
「ほら、できたぞ神楽」
「ありがとーアル!」
大好きヨー、と言いながらぎゅうぅと抱きつく神楽はおとなしくに撫でられている。
しかしその様を見ているしかなかった状況に、急に変化が起きた。
「はい、次新八」
「ぇ、僕で「ぇえぇえええ!?」
ぐぇっという蛙のつぶれたような声がしたのは、銀時と神楽の二人が新八を後ろにおいやったからである。
彼はその拍子にソファの背もたれをこえ、ひっくり返っている。
「なんで新八もするアルか?」
「そーだ!あんなダ眼鏡にするくらいなら俺に「は私だけのものヨ!」
「や、俺は誰のものでもないから」
詰め寄る二人を尻目に、は新八を自分の前に座らせるとその髪を梳きはじめる。
思ったとおり、新八の髪は神楽に負けず劣らずさらさらで、指の間をすり抜ける感覚が気持ちいい。
「お前髪キレーな!」
「そ、そうですか?」
「うん。朝妙ねぇにしてもらってる?」
次第に髪を梳かれる感覚に慣れてきた新八を尻目に、銀時と神楽の二人は不機嫌オーラを噴出させる。
とくに、朝の一件から軽く無視されつづけている銀時は酷い。
「なんでてめぇがにンなことしてもらえんだよ。普通ここは準主役の銀さんの役目だろーが」
「そんなこと僕に言われても困りますよ。大体、朝あんなことする銀さんが悪いんでしょーが」
「仕方ねーだろ。やりたくなっちまったんだか「それ言い訳にするつもりだったら、アンタ近藤さんと同じっすよ」
「俺をあんなゴリラと一緒にすんじゃねーよ、バカヤロー!」
「言動が似通ってんだよ」
(ちなみに、文字色が違うのは上記の会話がすべて目だけで行われたからであります。)
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「うし、買い物終わりぃ」
大江戸ストアの自動扉から姿を現したは、新八からもらった買い物リストをもう一度確認した後、清々しい笑顔を浮かべた。
なにせ、これがの"はじめてのおつかい"なのだ。
これまでにも数回買い物に来たことはあるのだが、それは必ず新八や銀時の付き添いがあった。
自分のほうが年上なのだが、見かけの年齢の影響かそれとも性格的な問題なのか、
新八は兄というよりむしろ保護者のような立ち振る舞いを多く見せる。
過保護すぎるくらいだ。
だから、この"はじめてのおつかい"を認めてもらうのもなかなか手間がかかった。
「っと・・・・ん? なんだろ」
ふとざわめきの方向に視線を向けると、門扉には多く人が詰め掛けており、騒々しい。
しかもどこか粗野な言葉が行き交っているようで、言ってしまえばガラが悪い人間だらけ。
「おねーさん。アレ、なぁに?」
「えっとね、なんでも真撰組が新隊士を募集してるらしくて・・」
頬をわずかに朱に染めながら、捕まえたおねえさんは親切丁寧に教えてくれる。
どうやら、を少年と勘違いしたらしい。
「新隊士、ねぇ・・・」
ぽつり、と言葉をこぼした瞬間。ピンッとの脳裏にはとある考えが閃いて。
その考えに我ながらいい事考えちゃったなー、なんて楽しそうに笑みを浮かべた。
「え、と・・新隊士希望の方です・・か?」
「そ。こっち行きゃいーの?」
受付係の青年――山崎退は驚きと困惑を混ぜ合わせたような、なんとも複雑な表情を浮かべた。
これまでムサ苦しい男どもの対応しかしていないのである。
そこに現れた小柄で綺麗な顔立ちの少年(しかも片手にスーパーの袋)。
山崎がそんな表情をするのも無理はない。
「あの・・・・女の方、ですよね?」
控えめな言葉に今度はが驚きの顔をする。
「気付かれるとは思ってたけど、初対面でばれるとは思わなかったなぁ」
「はぁ・・仕事がらそういうのは分かるんです」
「ふぅん・・てか、女はダメとかいうのあんの?」
そう言っては唇を歪めて不適に笑う。
山崎は、挑まれているとほとんど本能的に悟った。
「前の張り紙にはそんな文言なかったけど。強けりゃいーんじゃないの?」
「・・そうですね。じゃあ、あちらへどうぞ。面接がありますので」
彼、いや彼女の上目遣いの瞳は笑っていなかった。
その視線が外れた途端、山崎は手のひらに汗をかいていたことを知る。
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