第6話


「――――・・・始め」

まず打ちかかったのは男だ。 大声を上げながら、突進して上段に振り上げた竹刀を振り下ろす。 しかしそれは空を切る。竹刀の振り下ろされたその場に、の姿はない。

「遅いって。ちゃんと確認しとけよ」

声のほうに振り返れば、男の背後では頭を掻いている。 何の乱れもない――土方や沖田以外に、男の背後を取ったの動きは見えてすらいないのである。

「てめぇぇええぇえ!!」

怒号を上げて男は竹刀をあげる。振り下ろし、横に薙ぎ、突くのだけれど。 は最小限の動きですべての攻撃をかわす。まるで次の手が見えているかのように。

「とったぁあああ!」

そう叫んだ男は、思い切り竹刀を横に薙いだ。そこはもう壁際で、の後ろには壁しかないからである。
しかし。

「アレだね。お前動きが大きすぎ。もっとコンパクトにすりゃあ速さも鋭さも増すぞ」

のしなやかな足が床を蹴り、続いて壁を蹴った。 美しい弧を描いて、彼女の身体が宙に舞う。 再び男の背後を取ったは音もなく動き、無防備な頸に手刀をうめた。 どさり、と。男は膝から崩れる。

「――――終わったな」
「やるじゃねーかィ」
「どもども」

ぺこり、とが腰を折る。あたりは予想外の結果に唖然とし、静まり返っている。 ぽりぽり、と頬を掻いて土方に視線を向けるが、どうやら彼にとってこの結果は予想の範囲内だったらしい。

「ちょっと待っててくだせェ、さん」

沖田はそういい残して道場を後にした。 きょとん、とするの耳に突如入ってきたのはその沖田の大声である。

「今から面白いもん見られるから道場に集合しろィ。来ねェやつは今晩の飯、土方スペシャルにするぜィ

どどどどど・・・とだんだん大きくなる足音は猛牛が突進してくるかのようである。 詰め掛けた真撰組隊士は道場の出入り口で押し競饅頭状態だ。

「沖田くん・・・何してんの」
「ギャラリーいた方が燃えるんでさァ。迷惑でしたかィ?」

別に構わないけどよー、とこぼすの耳には、隊士たちの声がばしばし入ってくる。


「沖田隊長と対峙してんの、アレ女らしいぜ?」
「ぇえッ、まじ?あれ女?」
「てか、これから沖田隊長と一戦やるらしいぜ」
「本気かよあの女・・敵うわけねぇじゃん」
「だよなー。あの沖田さんに挑むなんざ勇気あるっつーか無謀っつーか恐いもん知らずっつーか」
「にしても・・・キレーじゃね?」
「「言えてる」」



ばっちり、まるっと聞こえてるなんて言いにくい。 居づらそうにするに土方は苦く笑い、竹刀を差し出す。 あごで指し示してやった先で沖田はすでに竹刀を握り、集中しはじめているらしい。慌てても竹刀を受け取り、目を閉じる。

「おぅ、トシ!なんだ、面白いもんってのは?」
「近藤さん、久々にいいもん見られるぜ。これから総悟がやるんだよ」「・・・このコとか?」

驚いて目を丸くする近藤に心配いらねぇよ、と笑う。 確かに、山崎の報告と先ほどの立ち振る舞いがなければ信じられないだろう。

「準備はいいか」
「いつでもいいですぜ」「俺も」

二人が対峙する。まだ構えてはいない。しかしそれでも、空気がぴりぴりしている。

「構え」

殺気に空気が震えた。びりびりという緊張が肌を刺激する。 それは、戦いの中に身を置く近藤や土方にとって心地いいものですらあって。


novel/next