第7話
「――――・・・はじめッ」
舞みたいだ。
無駄のない、速く、鋭い太刀捌きはまるで事前に打ち合わせでもあったように見える。
互いに一太刀として決まらない。決めさせない。
鍔迫り合いになって、ぎしりと竹刀が悲鳴を上げる。
図ったように後方に跳んだ二人は、肩で呼吸し額に汗が浮かんでいる。
「ははッ、やっぱ強いや」
「そっちこそ強いじゃねぇですかィ。こんなマジになるのなんざ、久々でさァ」
「光栄だな、そりゃ」
くすり、と笑みを浮かべあう。次が最後だ。その場にいる誰もが悟った。
「じゃ・・・いきますかィ」「うん」
二人の足が地を蹴った。
動きが止まったとき。床に仰向けに倒れているの首には沖田の刀が。
その沖田の首にもの剣先がぴたりと当てられている。
「―――引き分け、だな」
静かに告げられた言葉に、二人の手から竹刀がこぼれた。
「っあー、負けちゃった」
「負けてなんかいやせんぜ。立派な引き分けでさァ」
「なんかこぉ・・気分的にだよ。気分的に」
刀を交えると、なぜだか旧知の友人のような気がしてくる。
それはたぶんひとりに限ったことではなく、沖田も・・・土方も銀時もそうなのだと思う。
腰に刀を帯びるものならば。
差し出された沖田の手を掴んでが立ち上がり、二人がならんだとき。
「すげぇええ!やるなーお前ッ!」
「俺らなんかより余裕で強ぇんじゃねーか!?」
わぁああ、とギャラリーが沸き立った。拍手が巻き起こり、囃し立てる口笛なんかも聞こえてくる。
「な、なんか恥ずいな・・」
「何言ってやがるんでィ。次期副長の俺と互角なんだから当然でさァ」
「誰が次期副長なんだ、誰が」
「で、俺はどーなるんだ?」
刀を持ち出していた土方と沖田は、の言葉に動きを止める。
あ、そういえばこいつの処遇決めるために戦わせたんだっけ、と言わんばかりの顔だ。
「どうするかなぁ、トシ。平隊士ってのものなぁ」
近藤の言葉に、はそれでもいいのにと呟く。
その呟きを耳にした土方は、そういうわけにもいかねぇと紫煙を吐き出した。
「一番隊隊長の沖田と互角の力もってやがるのが平じゃ、勿体ねぇんだよ。だからつって幹部にしようにも穴があるわけでもねぇし、いきなり重役はお前の負担になんだろ」
こくこく、とは頷く。
ここまできたら、まさか散歩がてらバイト探しにきて新隊士募集に目がついて来ただなんて言えない。
「土方さん、には隊士たちの指南役になってもらったらどうですかィ?」
「ぇ・・ぇえッ?」
突然の提案には目を丸くする。
反対すると思われた土方があぁ、それもありだなとか言うからなお狼狽してしまう。
「ちょ、ちょっと待てよ!俺なんかが指南役だなんて」
「沖田と互角の力を持ったやつが"俺なんか"なんざ言っても、厭味にしか聞こえねぇな」
「そ、そんなんじゃ・・・ッ!」
「もしてめぇが女であることを気にしてんなら、そんな余計なもんはさっさと捨てろ。てめぇが言ったんだろうが。真撰組は"強けりゃいい"んだよ」
ぽかん、と呆気に取られるを目の端にとめて、土方は口元ににやりとした笑みを戻す。
その笑みを湛えたまま、あぁそれからな・・と彼は言葉を続けた。
「給料ははずむぞ。週に2,3回来てここで剣術やら体術の指南をしてくれりゃあいい。それで隊長クラスと同じだけ払おう・・・・・もちろん、嫌なら断ってくれていい。お前が引き受けてくれりゃあのはな「やります。やらせてください」
の目がきらりと光ったのを土方は見逃していなかった。
あの万年金欠無気力天パの男の下に暮らしている限り、彼女がお金に苦労しているであろうことは土方の想像に難くない。
「じゃあ、よろしく頼むぜ。」
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