第3話
「厄介な仕事入っちまったなぁオイ!どーすんだよ、これ・・下手したらお腹すかせたコイツの餌は俺らじゃねーか」
「・・・ワニって美味しいアルか?」
「オイィィィ!お前が食うんじゃなくて、俺らが食われるって話をしてただろーが、ば神楽!」
「うるさいアルよ天パ!銀ちゃんは絶対食べられる心配無用アル!」
「なんでだよ」
「天パなんか美味しそうに見えないから」
そう言い捨てた神楽は憤怒の表情で立ち上がった銀時を尻目に玄関を飛び出した。
それを追って新八も飛び出していく。
「(あ、新八の奴こけた)」
「ったくよぉ・・こーゆー類の仕事は面倒なんだよなー。しかも探すのワニだし」
あーやる気出ねぇ・・とソファにふんぞり返って銀時がこぼす。は銀時の頭をはたく。
「仕事選んでる余裕なんかないだろー?そろそろ甘いもん食べたいころだろ、第一」
「否定はしねぇけどよー」
「じゃあ行くぞ。俺も手伝うからさ」
「って言いながらどこ行く気ですかー、チャン?」
が玄関ではなくベランダに直行するから、気だるげに銀時が声をかける。
いよいよも万事屋銀ちゃんの空気に毒され馴染んできたようだと銀時はひそかに思う。
「人手は多いほうがいいだろ?みんなに手伝ってもらおうと思ってさ」
「・・みんなって誰だよ。真撰組の奴らか?」
が真撰組に出入りしていて、しかもそこでは先生と呼ばれ慕われていようと(その時点で既に銀時は納得いかない)、
さすがに警察機構である彼らが手伝うとは思えない。
江戸の町にも慣れ、しかも地味にファン(男女問わない)を増やしつつあるといえども、
"みんな"と呼べるほど多くの知り合いができたとは思いにくいのだが。
「あぁ、そっか。銀さんは知らないんだっけ」
「何のことだよ」
「ま、見てろ」
ピュイ―ッ、という甲高い音が辺り一帯に響きわたった。
の指笛によって生み出された音が、空に吸い込まれていく。
と、だんだんと近づいてくる羽ばたき。
しかもそれは1羽や2羽というような可愛らしい数ではなく、
しかも雀から鴉からとんびから・・・なんとも多種多様な鳥の大群である。
「な、な、何してんのお前ッ!?わたし実は鳥でしたみたいなオチないよな?っつーか止めろ、銀さんのオトコマエな顔をつつくなッ! おいぃぃぃ、俺の繊細でデリケートな髪を抜くなぁぁあぁあ!」
「こら、やめろ」
銀時の抵抗もものともしていなかった鳥たちが、のその一言でぴたりと攻撃を止める。
一体何なんだよ、と混乱する銀時を無視したまま、
はさきほどのコスモポリタン(以下略)の写真を鳥たちに見せてこういった。
「こいつを見つけたら俺に連絡してくれ。なるべく早く、よろしく頼む」
ばっさばっさという羽ばたきの音が遠ざかっていく。
黒い一群だった彼らは、しばらくすると四方に散らばって見えなくなった。
「さっきのは一体なんだったんだよ。何、おまえあいつらとしゃべれるとかそんな不思議能力でもあんの?」
「うん」
「へーそっかぁ。だけどそんなもんは自慢になんかならねーぞ。俺ぁゴリラとかゴリラとか妖怪ばばあと喋れ・・・・・ってぇええぇぇえ?うそぉおぉおお!?」
とりあえず万事屋を出て、外を歩きながら神楽と新八にした説明を繰り返す。
さりげなく甘味処に足を向ける銀時の着物をしっかりと捕まえて、コスモポリタン(以下略)の姿を探す。
この町のどこかをほっつき歩いているのだとしたら、悲鳴を探せばいいのだからある意味楽なのだけど。
かぶき町はいつもと変わらぬ喧騒の中にあり、夜になるとがらりと雰囲気を変える町並みに異変はなさそうで。
物陰にコスモポリタン(以下略)が隠れているのだとしたら、面倒なことになりそうだとがため息を吐いたとき。
「あれ、じゃねぇですかィ」
が声のほうに顔を向けると、そこにいたのは沖田である。
真撰組の隊服を身につけた彼は、今買ったのだろうか、自動販売機のコーラのプルトップを開けながら歩いてくる。
「総悟。パトロール中?」
「ま、そんなところでさァ。ただ歩き回ってるってのもなかなか大変なんですぜィ」
「そりゃあちゃんと仕事やってる奴の台詞だろーが」
背後から聞こえてきた声と怒りのオーラに、沖田が鋭い舌打ちをくれる。
もう来たんですかィ、という呟きをにも、もちろん土方にも隠そうとしない。
二人の見慣れたやり取りに苦笑したに、意外な方向から不機嫌オーラが漂ってきた。
すっかり置いてけぼりにされた風のある銀時である。
「銀さん?心なしか機嫌悪い?」
「べっつにー。ただ沖田くんや多串くんと仲いいんだなーっておもっただけだよ俺ぁ」
言い終わると同時にふいっと横を向き、唇を尖らせる銀時が言っても説得力皆無で。
「仲いいっつーか・・職場の同僚、みたいな?」
「・・ニュアンス違うんじゃねぇか、それは」
「ところで、と万事屋の旦那はなにをしてるんで?」
相変わらずふてくされた表情を隠そうとしない子供のような銀時の代わりに、が沖田の疑問に答えた。
写真を見せると、二人とも同じようにげぇ・・ッと顔を顰めて。
「で、探し回ってるってワケ。・・ぁー、なんかのど渇いた」
長くしゃべり通しだったは目の前の沖田がごくごくコーラを飲み干すのを見ながら言った。
言外にぶすくれたままの銀時への厭味と、買ってくれという願いをこめて。
「飲みますかィ?」
「あ、うん。総悟いいのか?」
「どーぞ、飲んでくだせェ」
自然と。ごく普通に沖田は自分が今の今まで口をつけていた缶をに渡したから。
も普通に、流れに沿うようにそれに口をつけ―――
「「ちょっと待てぇえぇぇええ!」」
の額に手を置いて、ぐいっと自分に引き寄せ――とどのつまり飲むのを阻止したのは銀時。
缶を握るの腕をがっしりと掴み、動きを止めているのが土方である。
「ぇ、なにするんだよ、おま「なにすんだよ、じゃアリマセン!!そんな簡単に間接ちゅーするような娘に育てた覚えは母さんありませんッ!」
「銀さんは母上と違うだろッ!」
「総悟のやつのサドッ気がうつるから止めとけ!あいつだけは!!」
「死んでくだせぇ、土方さん」
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