第4話


「―――ったく、あいつらに会うとろくなことがねぇ」

土方と沖田の二人と別れ、コスモポリタン(以下略)探しを再開した銀時と。 銀時に買ってもらった缶ジュースから口を離して、は銀時を見上げる。

「付き合い長いのか?」
「んー付き合いっつーか・・まぁそこそこな」
「銀さんのこと、強いって言ってた」
「・・・そーかい」

ぼんやりと、銀時が思い返していたのは彼らとの別れ際だった。 パトロールに戻る、といって立ち話にピリオドをうった多串くんと、 不満気な顔をしながらもそれを承諾し、そういえばとに言った沖田の言葉。


「明日はウチに来る日ですよねィ。楽しみにしてまさァ」
「じゃあ、明日よろしくな」
「おう!みんなにもよろしく伝えといてくれよ」



「(あーなんか気持ち悪ぃ。なんだこれ、まるで妙の作った卵焼きが普通に旨かったぐらい気持ちわるー)」
「銀さーん。お前どしたの、気分わりぃの?それとも機嫌わりぃ?」

眉を寄せ、気遣わしげに見上げるの視線とかちあう。 どこか居住まいが悪くて銀時は彼女の髪をぐしゃぐしゃにかき回した。

「ぅわっ!何すんだよ!」
「・・んでもねぇよ」

―――――そう、なんでもない。
この感情に名をつけるのなら、"し"から始める3文字の言葉(小さい"つ"を含む)だなんて、そんなはずはないのだ。
不意に鳥の羽ばたきが耳に届いて、銀時は顔を上げた。 少し前からこの音は聞こえていたのだろうか、空から降りてくる影が随分大きい。

「っておいぃぃぃ!なんでコイツ俺の頭に止まってるんだよ?俺はヤドリギかなんかか?くしゃくしゃしたとこになんざ止まりにくい・・・・って髪抜けたぁあぁぁ!

かぶき町にいるはずのない大鷲が銀時の頭に一度止まった。 その後、銀時の抗議のおかげか、鷲は大きな翼をばさりとひろげて飛び立とうとする。 そのとき、足に絡まった銀時の髪をものともせずに飛び上がったものだから、ぶちぶちぶちッと髪が悲鳴を上げた。 おいで、と呼びかけるの声に呼応して、鷲は中空で旋回し彼女の腕に止まる。 親愛を示すように頭を摺り寄せたのち、するどく一声鳴いた。

「わかった。後を追うから案内してくれ。銀さん、見つかったぞ」
「まじ?」

空を滑空する鷲の姿を見失わないように気をつけながら、二人はかぶき町を走る。 人ごみの町を縫うように走るのはなかなか大変で、どうしても差が生まれてしまう。 それを見越しているとでもいうのだろうか。 空を見上げれば必ず、あの鷲の姿は空に見つけられるからびっくりだ。

―――異質な存在、なのだろうか。
目の前を走るは、ただの少女にしか見えないけれど。 銀時が時折感じる違和感。 それは異世界から来た、というの言葉を信じるのに絶対的な力を発揮していた。 銀時たちや真撰組、かぶき町には驚くほど自然に馴染んだ。 元来それぞれがもっているものを"色"で喩えるのだとしたら、は"透明"なのだ。 いまや彼女は銀時の"色"も新八のも神楽のも、そしてもちろん真撰組の彼らの"色"も内包しているようで。 だから、誰も彼もの存在をするりと心の中にとどめる。 なのに、ふとした瞬間には銀時たちの世界から拒絶でもされている。 空気が浮く――うまくいえないのだけれど、しっくりこない瞬間が僅かではあるけれど確かに存在して。 そして、神楽が過激ともいえるスキンシップを図るときは、が世界に拒絶された瞬間でもあるのだ。

「銀さん?なんかぼんやりしてない?」
「・・いや、なんでもねぇよ」

の神経の鋭さに銀時は舌を巻く。 銀時がわかりやすいのだ、といわれてしまえばそこまでなのだが。

「あとどのくらいだ?」
「もうちょい。走れる?」
「バカにすんなよコノヤロー」

くすり、と口角を持ち上げるを睨む。 彼女の艶やかな黒髪が風に流されるのを、無意識に銀時は目で追っていた。


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