第5話
コスモポリタン(以下略)を探す仕事の最後は、予想外にあっけない幕引きとなった。
近くの川で発見されたコスモポリタン(以下略)は初めての水槽の外を自分の足で歩いたのだろう、かなりびびっていたらしい。
橋の欄干の下に潜んでいた彼は、そのあたりを縄張りとしていた亀にあろう事かいじめられていた。
名前を呼んだときに「(助けてくれ・・・!)」とワニに迫られる経験なんてこの先もうないだろう。
いや、あって欲しくない。
「久しぶりにまとまった金入ってよかったぜ。あのばばあうるせぇからな」
「家賃払わない銀さんが悪いんだろー?」
「ねぇもんはねぇんだっつーの」
「威張るとこじゃないだろ」
見つけたコスモポリタン(以下略)を依頼主のさやに返したときに現金で謝礼金を受け取ったのだ。
途中で合流した新八と神楽の二人が、そのお金を持って買い物に行っている。
今夜はちょっと豪華な夕飯になりそうで、は少しだけ期待に胸を膨らませていて。
「なー、ー?」
間抜けした声がの耳に届く。
とろとろ歩く銀時を知らず知らずのうちに追い越していたらしく、彼の声が後ろから追いかけてくる。
「お前さ・・・・・・・あーいや、やっぱなんでもねぇわ」
「はァ?ちょっといきなりなんだよー?」
「大したことじゃねーから気にすんな」
「(そういうのって最高に気になると思うんだけど)」
沈黙が二人の間に横たわる。
「そうだ、銀さん」
「あ?なんだよ」
「・・・・やっぱなんでもね」
「はぁあ? おいおいおい、言いかけたこと途中で止めるなっつーの。厠行ったあとの残尿感ぐらい気持ちわるいだろーが」
「仕返し」
う、と銀時が言葉を詰まらせた。はそんな銀時を振り返り、してやったりと笑う。
で、なんだよ?と重ねて聞くと、銀時は銀色の天パをがりがりとかきむしって。
「・・・・・もとの、お前の世界が―――恋しくなったりするときあんのか」
「そんなんねぇって!今俺すっげぇ楽しいもん」
―――と言うはずだった口は、銀時のまっすぐな視線に射抜かれて、まるで縫い付けられたように動かなかった。
銀色のくりんくりんの髪が、夕日の赤をうけて艶やかな光を放っている。
あぁなんて綺麗なんだろう。
逃げることを許そうとしない視線のせいで考えがまとまらない。
くそぅ、こんなんだったら無理やり言わせるんじゃなかった。
「・・・あるよ。あるに決まってんじゃん」
ぼそぼそ、との口から言葉がこぼれる。
「だって・・あいつらみんないい奴で、俺あいつら好きだもん」
「ふぅん」
確かに、この世界はの生まれた世界ではない。
彼女が産み落とされた世界は確かに他に存在し、そこに家族はいなくても家族にも匹敵する仲間がいる。
この世界に拒絶されている、と理由などなく感じることがある。
ふとしたときに感じる違和感や、居心地の悪さは銀時たちの周りにいる人間のせいではなく、
たぶん世界が違うせいなのだと理性を飛び越えたところで理解している。
「でも・・・この世界は俺がいまここにいる時点で、俺の世界だ」
「・・・・・」
「恋しくなることは確かにあるけど・・・でも、ここが好きだ。・・・楽しいしな」
顔を上げ、銀時を振り返っては笑みを浮かべた。
夕日を浴びて笑う彼女の顔は真っ赤で、さらさらな黒髪と絶妙のコントラストを生み出す。
銀時は思わず息を呑み――――しゃがみこんで自分の膝に顔をうずめた。
「(やべーやべーやべーって! これはマジでヤバイ。今の顔は反則だろ。いや、誰が何と言おうと反則だ! それともなにか? あいつこの銀さんを落とすためにわざとやってんのか?
いや、がそんなワザ使えるわきゃねーよ・・・っていま俺自分で落ちたって認めちまったじゃねーか、おいぃいいぃい!)」
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