第2話
「あ、そうだ。女のとこ行って朝帰りとかほどほどにしろよ?ただでさえ生活サイクル狂ってるんだから、身体壊すぞー」
じゃあなー、とひらひら手のひらを振っての背中が遠ざかる。
数秒の逡巡の後、ようやく我に返った銀時は小さくなりつつある彼女の背中を猛ダッシュで追いかけた。
そんな根も葉もない誤解をされてはたまらない(根も葉もないのが多少哀しい)。
「オイィィ、待てこら!誤解だ、お前は誤解してるッ!」
「あ? 何が?」
「女のところ行って朝帰り云々ってとこ! あれ、違うから訂正しろコノヤロー!」
「・・違うのか? 銀さんくらいの歳の男だったら朝帰りの理由なんて女のとこ行ってるんだと思ったんだけど」
「違ぁあう! 俺がお前以外の女になんか興味あると思ったら大間違いだぞ。脳みそのしわに深ぁく刻み込んでお「結野アナは?」
「け、結野アナはお前・・・その、ホラ、アレだよ」
久々に俺かっこいい台詞言った・・・! と自分に少し酔った銀時だったが、着実には経験値を稼いでいて。
一呼吸いれさせない鋭い言葉に銀時は表情を歪めた。
しどろもどろになる銀時をただ一瞥しただけで他にリアクションを示さず、は真撰組へと歩みを再開する。
ここで銀時の相手をしていると遅刻しかねないという不安が生まれたからだ。
「コラ! まだ俺がしゃべってるだろーがッ! 顔上げたときお前いなくてびっくりしちゃっただろーがコノヤロー」
「だって俺、銀さんが昨日の夜なにしてたかなんて正直興味ねぇし」
―――もしも、今のの台詞にもうちょっとでも"拗ねている"様子とか"嫌味っぽい"ところがあったならまだいい。
「おはよう、今日もいい天気だね」と同じ台詞を吐くように、つまりまったくのところ正直に言われるよりも、全然ましである。
「あ、あの・・・チャン? 流石の俺でもちょっと凹んじゃうんですけど・・・」
ぼそりと銀時は言葉をこぼすが、先を急ぐには聞こえてすらいない。
「(このまま引き下がったら男が廃る・・・!)」
「・・銀さん?帰らなくていいのか?」
横に並んで歩く銀時には声をかける。隣の男はどうみても眠そうで、昨夜酒をのんだのだろう心なしか顔色も悪い。
「俺も行く」
「は?え、帰ってたんじゃないのか?」
「お仕事してるを見てみたいんだよ。いいだろ?」
「俺はべつにいいけど・・・でも銀さん顔色悪いぞ」
ひやりとした柔らかい感触が額に触れる。
それがの手だと認識するのに数秒の時間を必要とし、それと認めて銀時は目を僅かに開いた。
ふわりと風が甘く香って、が香水や匂い袋の類を持つはずがないため、それが知らないうちに彼女が身にまとった香りなのだと気がつく。
竹刀や木刀を握るせいだろうか、彼女の手のひらは銀時の知っているほかの持ち主のものよりかためで。
それでもやはり、まぎれもなく"女の"手だった。
「(・・・ったく、これだから天然ってのはたちが悪ィぜまったくよぉ。無意識でやってんだもんなー)」
頭は意外と冷静だった。
思春期のガキじゃあるまいし、この程度の触れ合いで頬を赤く染めるほど不慣れなわけでもない。
それでも、確実に己の意識はその触れ合っている場所を意識していて。
「(俺もまだまだ青いなー・・新八のこととやかく言えたもんじゃねぇや)」
「おい、銀さん? あんまよさそうじゃないけど、ほんとついてくるのか?」
「もっちろーん。男に二言はねぇからな」
鬼の副長がものすごくいやな顔をするさまが頭に浮かんで、はその想像を打ち消す。
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