第3話
「脇が甘い!んな風にしてると・・・・っこうなる!」
竹刀を操り、相対していた隊士の一人をは道場の床に叩き伏せる。
苦痛にうめき声を漏らした新入隊士らしい彼を一瞥した後、休む間もなく「次だ!来いッ」という鋭い声を飛ばす。
そんな風に次から次へと相手をして、道場に立っているのがただ一人になってようやく一息入れた。
いつの間にか呼吸が弾み、額には大粒の汗が滲んでいる。
「おま・・・・なにこのハードな稽古は」
その様をなすすべもなく眺めていた銀時は、口元を引きつらせた。
休憩一つ入れないもさることながら、それよりなにより彼女に叩きのめされる隊士たちにとってハード以外の何物でもない。
「今相手にしたのは最近入ったばかりの新入隊士たちだから、とりあえず慣れさせてるんだ」
新入隊士といえども、それぞれが剣術道場に通って大方の基本はできている。
しかし真撰組で必要とされるのは型にはまった剣術よりも、実戦で使えるものだ。一太刀でも浴びずに、敵をしとめる腕。
それは各々が練習のなかで掴み取っていくしかない、とは考えている。
「これからそれ以外の人の相手するんだ。ま、本番の始まりだな」
「・・・まじかよ」
「あれ、万事屋の旦那じゃねぇですかィ」
沖田が奥からやってくる。彼がバズーカでも真剣でもなく、竹刀を持っているということはつまり・・と考えて銀時は青ざめる。
「なに、勝負すんの?」
「今日は見廻りやらなんやらで出てる奴が多いもんでさァ。よければ、やりませんかィ?」
にやりと二人が絶対零度の微笑を交わす。
意味深なものではあるが、ただよう殺気がつまりどういう意味なのかを明確に説明してくれている――――が、しかし。
「ちょっとすとーっぷ。おまえら、いつもこんなことしてんのか?」
「いつもじゃない。3回勝負しただけだ。総悟とやると疲れて稽古続けらんなくなるから」
「決着がつくまで続けますぜィ」
当たり前だろー俺負けないからな、とが笑う。
多少物騒な戦意が滲んではいるがその心底楽しそうな笑顔は沖田に向けられていて、その沖田も銀時がこれまでお目にかからなかった顔をしていて。
「(ん・・・?)」
「総悟ぉぉおおぉお!てめぇまたサボりやが・・・ってなんでてめぇがここにいんだよ」
スペインで赤いマントに突進する猛牛のように道場に出現した土方は、そこにいる見慣れたいけ好かない野郎に視線をとめてそう吐き捨てた。
ご丁寧に舌打ちまでつけている。
「俺です。ついていくって言うから」
「・・余計なもん拾ってくんじゃねーよ、犬かお前は」
土方の大きな手がの頭にのせられ、その手ががしゃがしゃと乱暴に撫でる。
「ほら、早いとこやりましょーや」
おとなしく撫でられているの腕を引いたのは――沖田だった。
バランスを一瞬崩したの手に早々と竹刀を握らせて、道場の真ん中へと歩いていく。
タイミングが一瞬遅れて、行き先を失った腕を銀時はひっそりと収めた。
「(・・・・どゆこと?)」
+ + + + + + + + + +
は沖田に引きずられるようにして彼と対峙したとき、どこか違和感を感じる。
はっきり違うと言い切れるわけではないのだが、肌を刺す殺気が普段より1割増しな気がする。
「・・・総悟? どうした?」
「? なにがですかィ?」
きょと、と沖田が首をかしげる。
その仕草や台詞はいつもの沖田のもので、は気のせいだったのかと無理やり納得する。
沖田に渡された竹刀はのもので、この真撰組の道場でしか使わないものなのに早々との手に馴染んでいる。
汗をかいた手で握り締めても滑らないように、と竹刀に巻きつけたさらしは薄汚れ、ところどころ擦り切れている。
この竹刀は隊士に稽古をつけるときと―――沖田と遊ぶときに使っている。
「――――・・・じゃあ、いきますぜィ」「来い」
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