第4話
「ぐぁーッ! また負けたぁ」
「引き分け、って言うんでさァこーゆー場合」
「雰囲気的にだよ」
道場の壁に押し付けられ、首元に切っ先を当てられているは確かに負けているように見える。
けれど確かに沖田の首元にもそれはぴたりと据えられていて。
「でもなんか今日総悟強かった」
「そうですかィ?」
「俺もここ以外でもちゃんと振らなきゃだめか。あ! そーだ」
ひょこ、と沖田の影からの顔が覗く。の視線はまっすぐ銀時に向けられていて。
「銀さん時々付き合えよ。強いんだろ?」
「あー? 俺はお前らと違ってか弱い一般市民なんだよ」
「一般市民は普通屯所に入ってこられないっての。時々でいいからさ」
「・・・ったく、の頼みとあっちゃしか「俺が付き合いますぜィ?」
ずい、と沖田がに身体を寄せる。
そのせいで銀時に向けられていた視線は沖田に向けられ、の視界から銀時の姿は沖田の背に消えてしまう。
「仕事あるだろー?」
「あってないようなもんでさァ」
「総悟ぉおおぉお! てめぇそこに直れぇええ」
「じゃ、時々頼むよ。いつか総悟に勝てるように」
「こっちの台詞でさァ」
会話の猛々しさと彼らの服装と手に持っている竹刀を除けば、笑顔を浮かべる彼らの姿は仲睦まじく喋る恋人同士に見えなくもない。
そしてもちろん、気に食わない輩がいて。
「さっさと総悟倒しちまえっつーの。おかげで仕事になんねーよ」
「それ、俺のせいかぁ?」
が投げられた手ぬぐいを受け取り、額や首筋に浮かんだ汗をぬぐう。投げてよこしたのは土方。
「に勝てりゃ、土方を倒すのなんざ屁でもないでしょうねィ」
「はッ、どうだかな」
「なんだよそれ! 土方さんのが俺より強いって言いたいのかよ?」
「そう聞こえなかったか?」
そういってにやりと口元を歪めた土方に、が食いつく。
飛び掛らんとするの頭を押さえて笑う土方の揶揄する表情に、一瞬よぎった優しい顔。
「(・・・・んんん?)」
この妙な違和感は何なのだろう。
沖田にしても土方にしても、なんだかんだの付き合いの中でも見たことのない顔をしていて。
知らない一面を垣間見たというか、覗いてしまったような妙な居心地の悪さ。
そんなもの到底知りたくなんかなかったが、端を発するのがであるのなら・・・・話は別である。
確信はない。けれど、疑う余地はある。
『疑わしきは罰せよ』『目には目を、歯には歯を』『除草は根から』―――そんな言葉たちが銀時の頭を駆け巡った。
だとすると―――まずい。非常にまずい。
それはつまり、あの無防備な言動を奴らの前晒す可能性が高いことを示しているから。
奴らの中にとりあえず今は眠っている狼を呼び起こしかねない。
まぁ今現在、その狼が半分起きている銀時の方がよっぽど危険なのだが、こういうとき人は自分のことは除外して考えるのが常である。
「てか、なんで今日に限って夕飯まで出してくれるんだよ? 詳しいこと聞かないままなんだけど」
「あぁ、それは「いーいコトを聞いてくれたな、ちゃん!」
やたらいい笑顔での登場は近藤である。
いつの間に道場に来ていたのか、どうして誰も気がついていないのかとか、ほっぺたの真っ赤な紅葉はなんなんだ、とか
聞きたいことは多いのだが、は喉まででかかった疑問を飲み込む。
「今日は、さんの歓迎パーティを開こうと思ってな!」
「・・・・・いまさらですか?」
の指摘に、近藤は雷に打たれたかのような衝撃を顔中で表現し、尚且つよよよ・・と涙を浮かべた。
言っちゃ悪いが、最高に似合わない。
「そりゃあさ、ちゃんが指南役としてきてくれるようになってからもう一ヶ月経ってもう皆に馴染んできたけどさ、でも歓迎会みたいのやってないなぁって思って、ここらでパーッとやりたいと遅まきながら思っただけなんだもん。てゆーか俺がちゃんと仲良くしたいだけってゆーかぁ、酔ったとこ見てみたいだけってゆ・・ぶはぁぁあッ!」
「たまにはコイツ使わねぇで語らいましょうや」
の目前に迫る近藤にさり気なく肘鉄を埋め込んだ沖田は、の瞳を覗き込んで刀を示しながら笑う。
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