第4話
「あ?ダンパに出たい?」
「ううん、試合のほう」
あくまでも。あくまでもの興味の対象は舞踏会ではなく、剣の試合でした。
あっけらかんと言うに、さすがの総悟母さんも呆れ顔です。
「フツー、くらいの歳の女なんつったら、ダンパのがいいんじゃねェんですかィ?」
「総悟母さん、オフィシャルな年齢は確か俺の一つ下なだけだよな?」
はぁ、と総悟母さんはため息を吐きました。
なぜなら、総悟母さんはを舞踏会に送り込み、王子・銀時を落とさせて王家の財産をまるっといただこうと画策していたからです。
けれど、がこんな様子ではどうしようもありません。
銀時を落とすことにまったくさっぱりなんの興味も無いばかりか、下手に会場にを送り込めば、試合で金の錦を飾る、大活躍をしかねませんでした。
「なァ総悟母さん、いいだろ?俺、ちゃんと優勝してくるからさ!」
それがむしろ都合悪いことなのだ、と言ってもおそらくには無駄だろうと総悟母さんは思いました。
「なー、総悟母さーん!」
「・・じゃあこうしやしょう」
す、と立ち上がった総悟母さんは、壁にもたれかかって唇を尖らせるに歩み寄ります。
「・・・?」
の隣に左手をつき、間近に総悟母さんがを見下ろします。
総悟母さんはきょとんとするの頬をひと撫でするとふっくらした肌の上に指を滑らせ、のあごをすぅと持ち上げてこう囁きました。
「さっきの続きさせてくれたら・・許してやりますぜィ」
「行かなくていいです」
は一瞬の迷いも見せずに、即答しました。
剣の誉れと我が身の安全を総悟母さんの前で秤にかけた場合、秤がブッ壊れてしまいそうなほど我が身の安全に傾いたためです。
「チッ・・つれねェなァ」
「てかさ、母親に迫られてる娘の気持ち考えてくんない?」
の心労は、とどまることを知りませんでした。
「を使って財産を手に入れようと思ってたんですがねィ・・しょーがねぇ。俺がやるか」
「総悟母さん、義理とはいえ娘のまえで堂々と不倫宣言するのやめてくれませんか」
その宣言どおり、本当に総悟母さんは舞踏会へと出かけていきました。
父親Aから搾り取ったお金をもとに、綺麗なドレスや装飾品を買い漁り、
自身の二人の娘も伴って舞踏会の開かれる夜、意気揚々と勝ち鬨の声を上げて出かけていってしまったのです。
「よっしゃー、王子落としてやらァ。そしたら一生遊び放題だぜぃ」
「まぁお母さま。それなら私もお手伝いします」
「私モ「キャサリンは黙ってりゃそれでいいでさァ」
そんな三人を見送って、は大きなため息を吐き出しました。
明らかにテンションがた落ちのを慰めるように、神楽がの肩に止まります。
「・・行きたいアルか?」
「うん・・・・・優勝したかった」
あえて神楽は聞こえないふりをしました。
「お妙さぁあああん!愛の伝道師がお迎えに上がりましたよぉおおおおっ!!」
雷でも落ちたかのような声が耳に届くや否や、
暖炉から何か質量があり、かつかさの大きな物体が煙突の壁を削りながら落ちてくる音がだんだん大きくなってきます。
「な、ななななんの音だよ!?」
「、離れるネ!きっと泥棒アル!」
"泥棒"という言葉を聞いたとき、普通の姫なら他の部屋に逃げ込むなり、叫ぶなりしたことでしょう。
しかし如何せん、は普通の姫とはかけ離れていました。
「よっしゃ、神楽!刀をここに!」
試合に出たかった、というか出て優勝する気マンマンだったはここに、このむしゃくしゃした気持ちを鎮める場所を見出しました。
の瞳に再び、強い光が宿ります。
「お妙さぁああん!どこですか、アナタの近藤が参りまし・・・・ってアレ、え?ちょっ「覚悟しやがれ、このコソ泥ーっ!」
ドカ バキ メキャ ドス バタッ・・
「もー、なんだぁ。コソ泥じゃないならコソ泥じゃないって、もっと早く言えよ」
「ホントね。まったく、紛らわしいアル!」
「否定する間もなく襲ってきたのはそっちだよね?なんでボコボコにされた俺のほうが謝らなきゃならない、みたいな空気になってんの?ねぇ」
煙突につながる暖炉から現れたのは、黒いローブに三角帽子を被り、手に杖を携えた―――
「・・・コスプレ?」
「魔女だから。するっと魔女だって認識しようよ、そんな穿った見方しないでさ」
そう魔女は言いますが、がその一言を漏らしてしまったのも仕方のないことではありました。
自称魔女は確かに典型的な、ステレオタイプの"魔女"の格好をしています。
けれど顔はどう見ても和製・・というか、南国製です。黄色く熟れたバナナが似合いすぎていました。
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