第7話
純白のドレスはまるで、彼女のために作られたかのようでした。
ただ、吸い込まれそうなほど白いそのドレスはおそらく、ショーウィンドウで見たのなら地味に見えたでしょう。
けれどそのドレスは、誰もがハッとするほどの美しさをはなっていました。
いえ―――そうではありません。
ドレスではなく、彼女が。男も女も関係なく、息を呑んでしまうほどの静謐な美しさをはなっているのです。
襟ぐりは大きく開いていますが、決していやらしい印象を与えず、むしろ清廉なものを感じさせます。
すらりと伸びた両腕は透き通るように白く。ドレスに決して見劣りしません。
その白と対照的な黒髪はつややかで、ティアラが控えめに輝きを放っています。
足元にはチラリとのぞくガラスの靴が、彼女の可憐さを表しているかのようです。
そして、そんな彼女の容貌もまた、誰の目も引くものでした。
今この場に居る女性たちの装飾具やドレスの華やかさから言えば、彼女は地味なほうかもしれません。
しかし、それらを補ってあまりあるほど、彼女は美しい人でした。
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人々の話し声や笑い声で賑やかだった会場は、さざめく静けさに飲み込まれていました。
今やすべての人の視線を集めているのは彼女―――ただ一人です。
「お・・王子・・!」
ハッと我に返った新八が銀時王子を見遣れば、彼の視線もまたに縫いとめられたかのようです。
ただひとりの女性をこんな食い入るように見つめる王子を、新八は未だ知りませんでした。
「・・・新八、行くぞ」
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「山崎、アレは誰だ」
真撰組王国王子、土方も彼女に目を留めていました。
群がる女どもが呆然とを見つめる最中、土方は従者を呼びつけます。
「えーと、万事屋王国の一領主の娘で本名シンデレラ、愛称という一人娘・・いや、今は末娘です」
「あ?どーゆーことだ」
「最近彼女の父親が再婚したんですけど、継母に二人の連れ子がいたそうで」
従者、山崎は土方王子のお守りもしながら、密偵としての仕事もこなしていました。
「じゃあ、俺が連れて帰っても問題ねェんだな?」
「・・・・ええ」
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一方、当人は――――
「(な・・・なななに、なんでこんなシーンとしてるわけ!? 俺なんかしちゃいけないことしたか!? ・・あ、やっぱアレか! 似合ってねぇよ、ってそゆことか!みんなして馬子にも衣装とかブタに真珠とか思ってんだな!?)」
混乱の極みにおりました。
普通であればこの年頃の娘なら、既に舞踏会などの場は経験済みだったでしょう。
けれど、はその経験がなく、代わりに武闘会への参加は数え切れないほどでした。
しかもそこでトップに上り詰めるというプロぶりを発揮していましたが、舞踏会など知るはずがなく。
しかもそれが王国主催の公式な舞踏会ならなおさらです。
自分の気付かぬうちに無作法な振る舞いをしていたとしてもなんら不思議はありませんし、
大体こんなドレスを着ること自体が数少ない経験の一つなのですから、似合っていないとしてもしょうがない、とは思いました。
「(・・・・やっぱ、試合出たかったな)」
いつまでも試合のことを引きずりすぎです。けれど、が心細い思いをしていることも確かでした。
「お嬢さん」
「(どしよ・・もう帰ろっかな・・。別に帰っても問題ないよな・・? 神楽には厭味の一言でも言われるかもわかんないけど、延滞料金取られるよかましだし・・・)」
「もしもし?」
ぽん、と肩に手を置かれるまで、は自分が呼ばれていることに気付いていませんでした。
ビックリして振り返ると、そこにいたのは親切そうな微笑を浮かべた青年A。
「え、あ・・ごめん、なさい!呼ばれてるって気付かなくて・・」
「ううん、別にいいんだ」
にっこりと微笑んでくれた青年Aに、はほっとしました。
「お名前を聞いても?」
「・・シンデレラです。みんな、って呼ぶけど」
「ふーん・・ちゃんか。いい名前だね」
にっこりと微笑む青年A。その笑顔は完璧で、非の打ち所がないほどです。
けれど。
なぜだか、はその笑顔にゾクッとしました。
「それにしても、ちゃんすごくカワイイね。俺、ビックリしちゃった」
「そ、そんなこと・・」
「本当だよ?これまで会ってきた人の中で、ちゃんが一番カワイイ」
薄気味悪い。それがの印象でした。
「ちゃん、のど渇かない?コレ飲んでごらんよ」
「これって・・お酒?」
「うん、カクテル。でも甘くて美味しいから、ちゃんも気に入るかなって思って」
青年Aが差し出したグラスの中には、琥珀色の液体が注がれています。
はお酒が苦手でした。できれば断りたかったのですが、どうやってお断りしたらいいのかわかりません。
グラスから香る甘い匂いも手伝ったのか、少しなら大丈夫だよな、と自分に嘘をついて。
グラスを受け取り、口に運ぼうとしたとき。
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