第9話
人ごみの中からヌッと現れたのは、銀のくるくるした髪が眩しい男の人。
「多串くーん、コレって俺のためのダンパだよね?」
「・・だからなんだよ」
「アッチで綺麗なおネエさんたちが、多串クンのこと待ってんぜ」
軽口を叩いているような出だしなのに、だんだん二人の放つ空気がぴりぴり緊張していきます。
それを敏感に察知したは、間に挟まれて困ったように表情を歪めました。
「見ろ、困ってんじゃねーか。多串クンみたいのとは踊りたくないよなー?あ、名前なんてーの?」
「、だけど」
「そっかー、ちゃんか。いい名前だなァ、多串くんなんかとは大違い」
身構える隙を与えず、銀髪の男がの肩を抱き寄せようと手を伸ばしました。
けれど、土方王子が怒鳴り声を上げるより早く。
「あ、あれ?ちゃん・・?」
するり、とはその腕を逃れました。
あまりにも自然に、流れるように動いたので、銀髪の男は空気を抱くことになってしまいます。
「お前だれ」
「え、と・・・・俺のこと、知らない?」
「知らない」
がっくりとうなだれる男の隣で、こっそり胸をなでおろしている土方王子に気付いたのは、従者の山崎だけでした。
「一応これでも、このダンパの主催者の銀時ってんだけど・・・」
「・・・ぇ、アンタ王子さま?」
疑念100%で構成された視線に銀時王子は内心凹んでしまいます。
新八からはよく王子としての自覚や態度がなってない、とぶつくさ言われることはありました。
けれどまさかそれを、舞踏会の参加客に言われるとは思っていなかったのです。
「ふーん・・・・(よかったー、あと少しでブッ飛ばすとこだったし・・)」
「ってドコ行くの、ちゃん?」
ようやく顔を上げた銀時王子でしたが、が立ち去ろうとしているのに気付き、慌てて声をかけます。
「んー?帰る」
「は!?帰るって・・・さっき来たばっかりなんじゃないの?」
は、その姿に似つかわしくなく、不機嫌そうに表情を歪めてぼそりと吐き捨てました。
「つまんない」
「・・・・・ぇ」
「俺、こゆとこ初めてでなんか息が詰まる。元々来たくてきたわけじゃないし、だからもう帰る」
それだけ一気に言い終えたは、くるりと踵を返すと歩き始めました。
神楽への言い訳をツラツラ考えながら、それでも歩みは止めません。・・どうやって神楽の攻撃から逃れるか、逃げ道を頭の中で構築しながら。
「ちょっとストップ!そんな焦んなくてもいーじゃねーの?折角のダンパだってのに」
「・・・銀時王子」
流石に王子さまの言葉を完全無視するのは気が引けて、は後ろを振り返ります。
銀時王子はゆっくりした足取りでのところまで歩み寄り、に、と悪戯な笑顔を浮かべて。
「一曲お相手願えますか、姫」
の前に片膝をついて―――そう、言ったのでした。
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