第1話
「・・・・はい・・はい、わかりましたー、じゃあ後で。はぁい、失礼しまーす」
「銀さん!もしかして今の仕事依頼の電話ですか!?」
受話器を置いた銀時に、新八がうきうきと声をかける。
今の今まで新八は万事屋銀ちゃんの帳簿を見ながら1人、マリアナ海峡よりも深い悲嘆にくれていた。
彼に支給されるべき今月分の給料は、帳簿のどこを探しても影も形もないからだ。
今のところ、ぽつぽつと入る仕事の収入は家賃と(主に神楽と定春の分の)食費に消えていき、新八の手元には残らない。
というか、家賃と食費という必要最低限のお金も、真撰組剣術・体術指南役としてが得ている分から賄われている節がある。
「あー、そうだよ。今回はちょっと儲けいいカモわかんねーぞ」
「マジですか!?」
「っつーわけで、もーちょいしたら依頼人ここ来るから。茶の用意とかしとけよ」
「任せてください!」
きらりと新八の眼鏡が光った。いそいそと台所へ姿を消して茶の用意を始める。
彼のこういう地味ではあるが、基本的に面倒見のいい部分がなければ、万事屋が立ち行かなくなること請け合いだ。
「あ、新八ー。茶ぁ淹れるんなら俺にもちょーだい」
が新聞から顔を上げた。彼女の手にある新聞はなぜか一面・・・表紙にあたる頁がない。
「、今日4時半から"椿と薔薇"再放送やるヨ! 一挙2話放送ネ」
「まじか!? それ見なきゃじゃん!」
の手元になかった一面は、神楽のもとにあった。酢昆布をかじりながら、神楽がテレビ欄をチェックしていく。
「えー、"つばばら"好きなの? 銀さんアレあんまなー」
「なんでー? 面白いじゃん、女のどろどろ」
「そうネ!リアルじゃないようでリアルなとことか、見ててワクワクするアル」
「そうそう。それに、大沢真珠とか銀さん好き系だと思ってたなー。すげぇ美人じゃん」
ぱらりと新聞をめくりながら、が言った。
口から言葉が飛び出した3秒後には、今言ったことを忘れていそうな口調なのだけれど。
「何言ってんだお前! 俺が好きなのはあーゆー系じゃなくて、もっとこぉ・・・たとえばとか「まぁ俺興味ないけど」
無関心というのは武器にもなりうるのだなぁ・・・、と新八はお茶の準備をしながらつくづく思う。
には無関心・無頓着・無意識の3拍子にプラスして、超がつくほどの鈍感というスペシャルな武器が備わっていて
・・・・これは時に、人を再起不能にする力を有している。
「お茶淹れましたよー・・・って、さん?」
「現場の花野です。こちらが、ここ3日の間に連続して起こっている無差別殺人事件の最も新しい事件現場です。今度も同じような手口で犯行が行われ、一家4人が死傷しこれでこの事件の合計死傷者数は15人にものぼっています。また、今回も犯行後に火を放つという事件の重大性から、警察では総力をあげて容疑者の追跡をおこなっています。いま流れている映像は現場付近の住民の方が偶然撮影したものです。容疑者の詳しい情報はまだ入っていませんが、付近に潜んでいる可能性もあります。十分警戒してください」
「ったく物騒だなーオイ。めちゃくちゃなことする奴もいるよ・・・・って? お前どうした?」
テレビから目を離した銀時は、の様子を見咎めて言う。
彼女は穴が開くほど、テレビ画面を―――正しくは犯人の姿だという映像に見入っていて。
「ぁ・・いや、なんでもない。ほんと、酷いことするよな」
「、どうしたアルか・・? なんかヘンあるヨ?」
なんでもないよ、と首を横に振るの横顔を見ながら、その表情に隠しきれない硬さがあることを銀時は認めた。
そういう表情は、彼女に似合わないと銀時は思う。
「銀さん、今入った仕事ってどんなんなんスか?」
「あー、なんか宝石が盗まれたらしくて、それの捜索だってよ。目星はついてるらしいけど、それが身内の人間っぽくてな。公にしたくなくて俺らに」
「確かに収入のほうはよさげですねー」
宝石を持つ家からの依頼で、しかも公にしたくないのなら口止め料としていくらか上乗せしてくれる可能性は十分ある。
「・・・・銀さん、俺もその仕事手伝う」
「珍しーな。から言ってくるなんて」
「なんかちょっと気になるとこあって、さ。あとで依頼人来るんだろ? 俺も立会いするから」
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