第4話
万事屋へと戻る途中でコンビニに寄り、プリンを一つ買って。ラッキーなことに、土方がおごってくれた。
「連れ出したのは、俺だからな」と言ってが遠慮する間も与えずに代金を支払ってくれた土方に、はなんだかこの人をたくさんの人に誇りたい気分になる。
なんていい上司を持ったんだろう、と。(自分を誇っていることに気がついていない)
実際にこれを土方が聞いたらへこむことは間違いないが、仕方がない。はこういう人間である。
ほくほく気分で万事屋に戻り、玄関を開ける。
「ただいまー・・・って銀さん? なにしてんの、こんなとこで」
「自分いま不機嫌です」という看板でも背負ってるみたいだ。
ぶっすー、とふてくされた表情を隠そうともしない銀時が、玄関先に座り込んでいる。
「ほら、約束のプリン買ってきたぞ。ったく、そんな待ちきれなかったのかよ」
しょーがないなぁ、と呆れ顔で笑う。
しょーがないのはお前の頭だ・・! と怒鳴りたくなるのを銀時はぐっと堪える。そして、言いたかないが、言わねばならぬことを口に乗せた。
「それ、どーしたんだよ」
「え? あ、やべ。返すの忘れた」
は土方に貸してもらった隊服を羽織ったまま帰ってきたのである。このせいで銀時の機嫌がさらに降下したことは疑いようがない。
「思ったより寒くて、貸してもらっちゃった」
へへ、とどこかはにかんだようにが笑うから。機嫌の降下といらいらの上昇が比例する。
たとえ、には袖が長すぎてずるずるになっているのがなんかカワイイとしても、だ。
「脱げ」
「・・・・は?」
「さっさと脱げ、それ。煙草くせぇんだよ」
ふいっと銀時が踵を返し、事務所へと戻ってしまう。残されたは首を傾げるばかりだ。
「ぁ、あの・・銀さん?」
「・・・なんだよ」
「え、と・・・や、その・・、プリン・・食べる?」
事務所と廊下をつなぐ戸のところで、上着を脱いだが小さくなって立っている。
視線を下に落として、ぽつぽつと言葉が彼女の口からこぼれて・・・なんだか叱られた子犬みたいだ。
そう考えた途端、銀時は言いようのない罪悪感に襲われる。
多分、というか絶対、は銀時がいらいらしている理由に気がついていない。けれど、いらいらしていることには気付いていて。
それが自分のせいだと考えているのだろう。まぁあながち外れてもいないけれど。
「・・・食う。待ってたし」
ちら、と上目遣いに視線を送ってくるに、うなだれた耳とだらんと垂れ下がった尻尾が見える。
「ちょーだい。俺に買ってきてくれたんだろ?」
「・・! おうっ」
せわしなく尻尾を振って。ぱぁっ、と表情を明るくするが。
「(くっそー・・・カワイイんだよ、ちくしょう・・・っ! こいつなんでこんな無関心な振りして俺のツボ的確についてくんだろな・・・ったくよー)」
プリンを口に運ぶ。甘さが口中に広がって、銀時の胸のうちに燻った怒りと一緒に溶けていく。
はそう、喩えるなら子犬で。無垢で無邪気で、気を許した人間に懐くのが妙にはやい。
あれだ。オオカミの群れのなかに迷い込んだ柴犬の子供だ。
この柴犬の子供には、保護者とオオカミの区別がついていないようなもので。
けれど、彼女の中には確かに壁というか、境界線があって。それに無理やり踏み込もうとするのを決して許さない。
そんなことしようものならは、なんのためらいも見せず銀時の目の前から姿を消すのだろう。
銀時自身がを突き放したときにも、きっと。
「・・・ほんと、しょーがねぇ奴だよ、お前は」
「へ?」
手を伸ばしてくしゃりと頭を撫でて。もう手放せないと心に呟く。
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