第5話


捜索をはじめて3日目の朝。 銀時が贔屓にしている朝の情報番組で、万事屋の面々は驚愕に朝食の箸を止めた。

「こちらかぶき町の現場の花野です。容疑者の詳しい情報が入りました!  容疑者の名前は丸井元積。大手宝石商、丸井屋の三男で現在27歳、無職の男です。 現在も容疑者は刃物を携帯して逃走中。警察では彼を全国指名手配とし、行方を追っています。また、容疑者によって警官にも多数の死傷者が出ており、警察庁では対テロ用特殊部隊、真撰組の導入を決めています」

「・・・・・あのさ」
「なんすか? 銀さん」
「えっと、俺の見間違いだと思うんだけどさ」
「何アルか?」
「・・・・・今の容疑者って、俺らが探してる依頼人の三男・・?」

違って欲しい。同姓同名だと信じたい。 けれど、画面に大きく映し出された岩石のようにでこぼこした面は、依頼人に渡された探して欲しい人間・・つまりターゲットの写真とまったく一緒で。

「新八、お前知ってるか? 世界にはな、自分とそっくりの人間がすくなくとも3人はいるらしいぞ」
「まじっすか? じゃあ、これは僕らが今探してるひとの、そっくりさんなんですね」
「びっくりしたアルよー。ったく、びびらすんじゃねーヨ」
「あ、写真の後ろに依頼人映ってる」
マジか

つまり。 銀時に頼まれた依頼は、丸井屋の三男(丸井元積)を見つけ出すことで、これが今江戸を脅かしている連続殺人犯。 そして彼は、が探している宝珠を持っている。

「もうこーなっちまったら俺らの手には負えねーよ。諦めて真撰組の奴らに「だめだ!」

呆然とテレビの前で立ち尽くしていたが叫んだ。声に滲む悲痛な色。 こんなはこれまで見たことがなくて、銀時ら3人は思わず声をなくす。 くるりと画面に背を向けたは、まっすぐに銀時に歩み寄って縋るように着物を握る。

「だめだ・・あいつ、宝珠の力をひっぱりだしてる。俺じゃないと、抑えられない!」

どうしてがこんなに取り乱しているのかとか、どうしてじゃないとだめなのかとか、何がなんだかさっぱりわからない。

「ちょ、落ちつ「落ち着いてなんかいられるか・・! あれはこの世界にはないものなんだ。そのせいでこの世界の人が殺されてる・・・俺以外にそれを止められないのに、落ち着いてなんか、いられるわけないだろ!!

銀時の袖を握るの手に力が入って、こぶしが小さく震えている。 それが怒りなのか、それとも恐怖なのか、銀時には区別がつかない。 けれど、今のの血を流しそうなほど痛い叫びでひとつだけわかった。 この事件が起こった原因は、宝珠とやらを世界に持ち込んだ自分にあると考えているということ。 だから彼女はこんなにも取り乱し、我を失っている。 大きな黒曜石に自分の姿が映っていないことが、銀時を苛立たせる。

「・・・新八、これ・・この映像ってどこかわかるか」
「え、えぇ・・・。ここからターミナルとは逆の方向にしばらく行ったところですけど、ってさん!? 何処に行くつもりですかッ?」
「事件現場に行く。そこからなら、もしかしたら宝珠の気配を追えるかもしれない・・!  事件は万事屋で起きてるんじゃない・・、現場で起きてるんだ・・っ!!

は迷わず、事務所の窓から外に躍り出た。

「「うそぉおおぉおお!?」」

3メートルはある高さを飛び降りたは、まるで猫のように着地して。唖然とする3人の前から走り去っていく。

「・・・・って呆けてる場合じゃねぇ! オイ新八、神楽! 追うぞ」


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の後を追ってたどり着いたのは、依頼主の自宅だった。

「・・・っ、遅かった・・!」

たちが着いたときには既に、真撰組の面々があたりを取り囲んでいたのである。 近藤、土方が先頭に立ち、中に父親、つまり銀時たちの依頼主を人質として立てこもっている容疑者を捕らえる機会を窺っていた。

「局長! 土方さん!!」
「あ? なんでお前こんなとこにいんだよ」

土方が目を丸くする。 が事件現場にいることにも、彼女が今までに見たこともない切羽詰った顔をしていることにも。 の後から万事屋の連中が走ってきて、彼女を止めるのにもかかわらず・・・というより、もうまるで聞こえていないかのように、脇目もふらず駆け寄ってくる。

「いきなりだけど、俺に任せてくれないか? 頼むよ!」
? とつぜん何言ってんだお前・・・」
「頼む! 俺じゃないとだめなんだ!!」
「だからお前いきなり何を・・・「、一体どうしたんですかィ? 何をそんな取り乱してるんでさァ」

一向に落ち着く様子の見えないを見かねた沖田が、間に入った。 は土方に「自分に任せろ」と詰め寄るばかりで、土方の言葉など到底届いていないように見えて。 彼女の肩をぐっと掴んで、視線を合わせる。 普段ならまっすぐに見据えるはずのの視線は今ふらふらと泳いでいて、定まっていない。沖田は小さく舌打ちをする。

「・・・中に犯人、いるんだろ? 俺が、そいつを止める。だから、俺にやらせてくれ」
「そいつァ出来ねぇ」
「っ、なんで!」
は隊士じゃねェでしょう。真撰組に勤めてる、一般人でさァ」
「でも・・・っ、あいつは、俺にしか止められないんだ!!

びりり・・と空気が揺れた。 彼女の小さな身体から、他を圧倒する気が膨れ上がって沖田も、土方も近藤も・・一帯の人間を飲み込む。一体、これだけの闘気をこの小さな身体のどこに隠していたのか。 真撰組の隊士らを巻き込む巨大な気の奔流は、戦場慣れしているはずの彼らからも言葉を奪う。 彼女の瞳に映るのは目の前の沖田ではなく、姿の見えない容疑者だ。

「・・・もうこれ以上、この世界の人を傷つけるわけにはいかないんだ」
? そいつはいったい」

どういうことですかィ? と続くはずだった言葉は、ぴんと張り詰めた緊張の中で立ち消えになる。

「――――・・・道を開けろ。じゃねぇと、コイツを斬るぜ」


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