第2話
「・・・・総悟クンには、こーゆー趣味があったのか?」
沖田に連れられるままにやってきたのは沢山のショップが立ち並ぶショッピングモール。
建物の入り口に吸い込まれる多くの人々と同じく、も沖田とともにそこに飲み込まれて。
着物でも買うのだろうか、と繋いだ手を引かれるままについてきただが、たどり着いた階が女物の着物を多く扱うショップだらけで。
「何言ってんだ。に買ってやるために来たに決まってんだろィ」
「ぇ、ぇえ!?」
思わず声を上げてしまった。
周囲の人から注がれる不信感でいっぱいの視線が痛い。
「な、なんでだよ? 別に俺要らないし!」
「そういうんなら、ちったぁ自分の格好振り返ったらどうですかィ?」
言われては自分の身体を見下ろす。
が身に着けているのは、新八にもらったお古の着物だ。
丈が微妙に短くなって彼が着られなくなったものを妙から譲り受けた。
新八が幼い時分に使っていたものだから、ところどころにほつれや汚れが目立っているけれど、しかし。
「・・・着られるんだから、問題は・・」
「そういうことじゃないんでさァ」
沖田が言いたいのは、着物がお古だとかそういうことではない。
は今それを袴を着けずに着流しとして利用し、そのガラのない鶯色一色の地に濃紺の帯を締めているという極めてラフな格好で。
しかもその長い黒髪を、頭の上のほうで一つにゆるく結わえていて。結びきれずに一筋零れ落ちた髪なんかはもう―――
「(色男すぎることが問題なんですけどねェ・・・)」
彼女は気付いていないらしいが、周囲に溢れる女性客は一様に彼女を振り返る。
中世的な雰囲気を漂わす、どこか儚げな美少年そのものなのだ。
まぁ、実際のところそれは1人のせいではなく、沖田とセットになってこその相乗効果なのだが、それに気付いていない沖田もあまり人のことを言えたものではない。
「でも、だったら俺袴とかのが欲しい。新しいやつ」
「却下」
「な、なんでだよ!」
にやり、と。
口元を弧の形に吊り上げた沖田が、背後に死神を背負う。
いやな予感が警鐘となっての頭に鳴り響くが、時既に遅し。
「今日は、で遊ぶと決めたんでさァ」
いやだぁああぁあ!―――の叫び声が長く尾を引いて、人々に吸い込まれていった。
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――――・・・この人達は、いわゆる"そーゆー趣味"の人たちなの?
あ、いきなりごめんなさいね。わたし、この店の販売員。
店にやってきたカモ・・・いえ、ごめんなさい? お客様に、似合おうが似合うまいが着物を売りつけるのが私の仕事。
仕事柄おべんちゃらはぐんと上手くなったし、相手を丸め込む笑顔は誰にも負けないつもり――って、今はそんなことどうでもいいのよ。
そう、今一番大事なのはこの二人の客。二人の客がくることなんて全然問題ないし、むしろ飛んで火に入る夏のむ大切なお客様よ? だけど、問題なのはその性別。
男の子二人が女物の着物を買いにくるなんて、どういうこと? いえね、普通の男の子が買いに来たんなら変な誤解なんかしないんだけど、この二人の顔が・・ちょっとね。―――ぶさいくなのかって? まっさか、その正反対よ! 色素の薄いさらさらの髪の爽やか美少年と、なんか妙に色気のある中世的な美少年。
だからこそ、そーゆー関係を疑ってしまうっていうか・・。
なんか、このコたちならそーゆーのもアリかなぁ、なんて。
でも、だとしたら勿体無いわぁ・・・どっちも絶対モテるのに、わざわざそんな非生産的な付き合いしなくってもいいのに。
ね、そう思わない?
「ほんと、ほんとにいいって! 俺なんかが着ても似合わないって、なァ総悟ーっ」
「いい加減覚悟決めたらどうですかィ? どれだけ泣き言いっても、俺は聞き入れませんぜ」
さりげなーく。自然を装って会話が漏れ聞こえる位置へ移動完了☆
このコたちが本当はどういう関係なのか、ちゃんと見極めないと・・・・もしチャンスあるなら、なんてね。
「あぁ、コレなんかいいんじゃないですかィ。に似合いそうだ」
「俺・・あっちの袴見たい」
「へぇ? 今ここで脱がして欲しいんですかィ」
「謹んで着させていただきます」
ヘンね・・・爽やかクンの雰囲気が今一瞬、激変した気がしたんだけど・・・。
背後に大鎌を携えた死神が嗤ったような・・・ま、まさかね。
ひったくるように着物を奪った色っぽいコのほうが、逃げるように試着室の中へ消えた。
・・・あー、今度の合コンの相手、こんなコたちだったらいいのに。
それだったらこっちサイドだってすごい盛り上がるんだけどなー・・・って、やめとこ。空しくなるだけだわ。
「ぁ、あの・・・っ」
「はい? ・・・っ!?」
びっくりした。
だって、試着室に入ったコがカーテンの隙間から、顔だけ出してこっち見てるんだもの。
それでも、驚くだけで引いたりしないのは、そのコがまるで叱られた子犬みたいな顔してるからよね。
「どうなさいましたか?」
「ぁ、あの・・・俺コレどうやって着たらいいのかわかんなくて。だから、手伝ってもらえませんか?」
「水臭ぇな、。俺が手伝いやしょうか」
「お願いです、お姉さん! 手伝って!!」
ぐいと試着室の中に引っ張り込まれちゃった!
キャッ、やくと・・・・・・・・ぁれ?
「ぇ、ぁ・・ああの・・・・!?」
「あ、もしかしてお姉さん、俺のこと男だと思った?」
え、嘘!? このコ・・・・女の子なの!? 着流しを脱いだら、あーら不思議・・・ってそうじゃなくて! 普通に女の子じゃない!! ―――・・でも、女の子だってわかっても上目遣いで見られたらどきどきしちゃう私って・・。
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