第2話
あれから山崎と三色団子を食べつつ、土方への愚痴とか世間話とか沖田への愚痴とかストーカーへの愚痴とかを聞いてやったは、真撰組を後にする。
これからまっすぐ万事屋へ帰ろうか、それとも長崎屋の離れへ足を伸ばそうか、のほほんと考えながら歩く。
空は突き抜けるような青空で、白い雲が悠々と泳いでいる。
まるで平和を絵に描いたような今このときに、は喜びが満ち足りる。
「あ、銀さんだ」
「あ? ぉ・・おー、。どしたお前、こんなとこで」
でにぃずの前。首筋をぼりぼり掻きながら、銀時が出てきた。
「やっべーな、オイ。まずいとこ見られちゃったよ」と口元を引きつらせる銀時をはじろりと睨む。
「・・何してたんだよ」
「ぇ? あー・・アレだよ、水飲みに」
「公園行ってこい」
「スンマセン、パフェ食ってました」
本来ならここで「新八と神楽に言われたくなきゃ俺にもおごれよ」と脅しまがいのことをふっかけるところだが、あいにく今は食欲が減退している。
こんなところでパフェ食べるお金があるのなら、毎日の食費に回してもらいたいと思うのだが、も三春屋に通うためにさりげなくお金をちょろまかしているので、あまりしつこくは言わない。
ま、いーけどさっ、とおとなしく引き下がったに銀時は首をかしげるが、わざとつっついてバラされても困るので口をつぐんだ。
万事屋では、利害の一致が揉め事を解決する一番有効な手立てである。
「おーい、そこのお兄さんたちィ。ウチで遊んでかなーい? カワイイ子いっぱいいるよー」
突然の声に二人が振り返ると、そこにはよりもさらに長い黒髪をなびかせた客引きのお兄さん。
の隣で銀時が、げ、と心底嫌そうな声をもらす。
「なんだ、銀時ではないか。こんなところまでわざわざ・・そんなに攘夷に参加したいのならそう言えばいいものを」
「誰が参加したいっつったよ!? 勝手な解釈してんじゃねーよ、ヅラ!」
「ヅラではない、桂だ!」
隣でがハッと息を呑む様子に気が付き、怪訝そうに銀時が彼女に目をやると。
口を片手で覆い、大きな目を更に真ん丸にして――驚愕、を絵に描いたような表情を浮かべている。
「・・ぉ、おーい? どしたー、ちゃ・・ってうお!」
ぐい、と銀時の腕をつかんだは声を潜め、その目に驚愕と困惑と、いくらかの哀れみを宿して。
「・・銀さん、あの人・・」
「おー、ヅラだな」
「・・っ!? あんなにキレーなのに?」
「そりゃお前、人工品だからに決まってんだろ」
「・・そ、そっか! そーだよな・・じゃなかったらあんな髪ありえないよな・・」
「だから、お前も間違えてもバラしたりにしねぇよーに気ィつけろよ」
「わかった!」
「銀時、そこにいる少年は誰だ」
ピンッと背筋を伸ばしたは、桂を見上げてうろたえたように一歩ずり下がる。
「お、俺・・・・・」
「ウチに居候してんだよ、いろいろあってな」
じりじりと後ろに下がったは、銀時の背中に隠れてしまう。
人見知りの子供のように、銀時の腰あたりの着物をぎゅうと握り、警戒心をあらわにして桂を見遣る。
「・・・どうしたんだ、そのとやらは」
「あー、人見知りすんだよコイツ。気にすんな」
と、言いつつ銀時は、が彼の着物を握り締めていることにかなり満足している。
彼女の警戒は得体の知れないモノ(ヅラ)に対するもので、つまり彼女にとって銀時は信頼の置ける人になりえているということだから。
「お・・お前、ヅラなのか!?」
「ヅラではない、桂だ!」
「・・っ、同じじゃんか!」
「発音が違うっ!」
怒鳴りつけられてビクッと体を竦ませたは、警戒心をさらに強めて桂を睨む。ただし、あくまでも銀時の背に隠れたままで。
またそれが銀時の満足感を煽ったりするのだけれど、は気がつかない。
「おい、そこらで止めとけよ、ヅラ。こんなナリでも真選組の関係者だぜ」
「なに!? 貴様・・・幕府の狗か!」
表情をサッと厳しくした桂は、一歩左足を引いて抜刀する構えを取る。
同時に発せられた殺気に対して反射的に、銀時の背から飛び出たも身構えた。そうしてようやくの姿をちゃんと見た桂は、驚きに眼を見張ることになる。
「貴様・・・もしや女か!?」
「お・・女で悪いか!」
少年だと思っていたが少女で、しかも真選組で、どうやら見たところ武術を嗜んでいるらしい。
桂は眼光を更に鋭く光らせる。あと一歩でも少女が近づけば――間合いに入れば――斬り捨てんと柄を握る。
「あー、違う違う。関係者だっつったろ?」
「・・どういうことだ、銀時」
桂の殺気にあてられたのか、彼を睨むの視線も同じく鋭い。
毛並みを逆立てて、威嚇するように今にも飛び掛りかねない雰囲気を纏っている。
「真選組、剣術体術指南役なんだよ」
「・・・この娘がか?」
「んだよ、文句あんなら試してみるか!?」
警戒してるにしたって、今のはまるで地べたにう●こ座りするヤンキー並みに気が短く、しかもささくれ立っている。
ピリピリしたままのに銀時は苦く笑った。
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