第3話


、不本意極まりねーけどコイツ、昔のダチなんだよ。今は違ェけどな」
「今も昔も貴様と俺は親友だろう。あんな事こんな事もした仲ではないか」
「あんな事もこんな事もした覚えねぇええ! つか何その誤解招きかねない言い回し!?」
「・・・・っ!?」
「だぁーッ! 、テメェも本気にしてんじゃねーよ!」

の頭を強く押し付けた銀時は、そのまま彼女の髪をぐしゃぐしゃとかきまわす。

「わぁあッ、やめろよ! どいつもこいつもおんなじようなことしやがってー!」

キッと銀時を睨みつけたは、自分も同じようなことをしようと銀時の頭に手を伸ばした。くるんくるんの銀髪を捕まえて、引っ張る。

「オイィイ、抜ける抜けるっ! おまっ、手加減しろよコラァアア!」
「知るかッ! 10円ハゲ作ってやる」
「いまお前が掴んでる髪が抜けたら10円ハゲどころじゃねェだろーが! もうそれじゃ500円とかだよ!?」
「高いほうがいいじゃん。1000円目指せよ」
「お札いけってか!?」

まだまだ続くと銀時のやり取りを―――というか、銀時を桂は黙って見ている。 を初めて知った桂にもわかる、彼女を見るときの銀時の表情。 湖の水面みなものように穏やかで、柔らかな表情は銀時がをどう思っているのか桂に悟らせるのに十分すぎるほどで。

「・・・わかりやすいな」
「あ? なんか言ったかー、ヅラぁ」
「ヅラじゃない、桂だ! ・・いや、なんでもない」
「うわッ!? な、何だソレ! なんかスゲーの来た!」

とてとて、と近づいてきた白いアレに、は表情をぱぁっ、と明るくする。 白いアレは片手(・・・・)にした『ちゃんと仕事しろよな』と書かれた看板で桂を一発はたいた。ベシッ、となかなかいい音がしたが、ものともしていない様子の桂は平然とその紹介をし始める。

とやら、紹介しよう。エリザベス、俺の大事なパートナーだ」
『よろしくな』

初めてみた白いアレ――エリザベスには大きな目をさらに真ん丸にする。 これも天人のひとりなのか、それとも妖の一種なのか。この世界にはまだまだ、の知らないことが多すぎる。 桂とエリザベスと別れてしばらく歩いた後、銀時は突然ぼそりと口を開いた。

「あー、なんで俺がこんなこと言ってやんなきゃなんねぇんだろ」
「? 突然どしたの、銀さん」

がしゃがしゃと只でさえくしゃくしゃの髪を乱暴に掻きむしり、めんどくさそうに、投げやりに言葉を続ける。

「さっきの・・・ヅラのこと、多串くんとかにゃ言わないでくれねーか?」



は不意に、前新八に聞いたことを思い出す。 あれは確か銀時がいない夜で、遊び疲れた神楽は夕飯を終えたらすぐにソファで寝入ってしまって、テレビも最高につまらない日だった。

「・・銀さんって昔、攘夷運動に参加してたんですよ。今はあんなですけど」
「攘夷って・・あーゆーの?」

ものまねバトルなんか見ても正直笑えなかったし、松居棒の素晴らしさを若手芸人の家を綺麗にすることで紹介されても興味がさっぱり湧かなかった。 結局、静まり返ってしまうのが嫌だから、という理由だけで点いていたテレビはニュースで、映像は過激派攘夷浪士によるテロ行為を伝えていた。

「銀さんがやってたのは、きっとあんなんじゃないです」
「・・・そっか」

新八の台詞に、ほっとしたことを覚えている。

「突然やってきて、この国から侍を・・・いえ、この国のすべてを一変させてしまった天人に蜂起して、戦ったんです」
「・・・・・・・」
「なんか、すごかったらしいですよ。“白夜叉”とか呼ばれて、恐れられてたらしいです。今じゃあんなんですけど」

あんなんですけど、という新八の声はとても優しかった。

「想像できないな、今の銀さん見てると」
「ほんとですよね」

嘘だ。自分がいった言葉も、新八が応じた返事も。 どっちがついた嘘もひどく優しくて、ひどく暖かくて、そのせいか変な空気になって・・無理やりものまねバトルにチャンネルを合わせて、新八と二人して採点してそれからを過ごした。

「・・・・・6点だろ、今のは」
さん結構厳しいですね」
「じゃあ新八は?」
「・・7点」
「一緒じゃん」



だからきっと、桂さんは銀さんの昔の仲間だったのだろうと思う。

「・・・うん、わかった。言わない」
「そか? わりーな、なんか」

そういいながら銀さんの大きな手のひらが頭を撫でていく。 銀さんの手のひらはおんなじくらいの大きさだけれど土方さんのよりも優しくて、でも、銀さんのほうがかたい。 きっとそれがこれまで銀さんが生きてきた歴史で、今の銀さんを作るものの一つなのだろう。

「言わないから、懐に隠してる板チョコ出せ」
「・・・・え、なんのことぉ? 銀さんサッパリわか「神楽にバラすぞ」
半分こしない? ね、半分こしよ?


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