第1話
は運命のこの日、朝一番に鳴り響いた電話で心地よい睡眠から叩き起こされた。
時刻はAM 7:50。
確かに電話口に向かって「テメェふざけんな、今何時だと思ってやがんだコノヤロー!」と怒鳴る時間帯ではないが、安眠を妨げられたことには違いない。しかも、万事屋銀ちゃんの店主であるはずの銀時はこの電話に応対するつもりがないのか、
彼が寝室として使っている和室は静まり返ったままで。
「・・・・・チッ」
10000打記念の企画小説で、開口一番に舌打ちするという前代未聞の悪態をついたヒロイン、は眉間に皺を刻んで布団から跳ね起きた。
誰に対して何を怒っているのか自分自身でも定かでないままに、はどしどしと床を踏みしめて電話を取り、
「・・・・・・もしもし」
最高に不機嫌そうな声で、そう告げた。
「あ、あの・・っ、万事屋銀ちゃんであってますか?」
「・・・・そーですけど」
「朝早くにスイマセン、あの、俺です・・・真撰組の山崎です!」
は顰めていた表情を緩めた。
これで沖田あたりだったら電話線から抜いてやろう、と意気込んで応対したであるが、山崎なら話は別だ。
「んー・・どしたの、山崎」
「あ、さんですか!?」
「うん、そーだけど。なにかあったの?」
「あの、電話で説明するのもアレなんで、ちょっと来てもらえませんか!?」
これにはも怪訝そうに電話の前で唸る。
「えー・・今からぁ? 俺、今起きたばっかなんだけど」
「失礼なことだってわかってるんですけど・・・・お願いします! さんじゃないとダメなんです!!」
山崎の妙に切迫した声に断るなんて選択肢は残されていないことを悟ったは、なるべく早く屯所に向かうことを約束し、電話を切った。
受話器を置き、は腕組みをして首をひねる。
よくよく考えて見れば、山崎の切羽詰った声の後ろでワーとかギャーとか、やけに騒がしかった気がする。どたどたと廊下を走る音も混じっていたような・・・。
「・・・道場破りでも来たのかな・・? ついに土方さんか総悟がとち狂ったのかな」
前者だったらなんとかなるが、もし万が一にも後者だったら山崎には申し訳ないが一目散に召喚獣を呼び出して逃げよう、とは決意する。
とりあえず着替えたり顔を洗ったりという用意を終えたは、和室の戸の前で声をかけた。
「銀さーん、俺ちょっとこれから真撰組行ってくるから。新八に言っておいてくれな」
返事はない。
どうせあの自堕落な天パはまだ夢の中でふらふらしているのだろう。
こっちは電話で叩き起こされたというのに悠長なものだ。
そうだ。帰ってきたら、奴が密かに溜め込んでいるチョコレートを焼却処分してやろう。
はそう心に決めて万事屋を後にする。
・・・・深刻で重大な事実を、確認しないまま。
+ + + + + + + + + +
「もしもーし、誰かいないのかー?」
真撰組屯所までやって来たはいいが、迎えのひとりもいない。
電話で呼びつけておきながらいい気なものだ、とが眉を顰めたとき。
「あ、さんーッ! 待ってましたァアアア!」
奥から走り寄ってきた山崎は、の姿を認めると同時に目を潤ませて縋りつく。
は朝っぱらから妙に高いテンションについていけず、不審の目を向けるばかりだ。
「・・どしたの、山崎。何があったわけ?」
「それが、その・・・未だに信じられないってゆーか夢であってほしいと心底思うんですけど・・・っ」
「だからどーしたの。話が見えない」
「オイこら。テメェ何してんだよ」
「はやくしろィ」
聞きなれた口調・・・にしてはやけに高い声に、は違和感を覚えるが気のせいだろうと考え、声のほうに顔を向ける。
と、そこには・・・・。
「・・え、ちょ、待って・・・・・誰コレ?」
「副長と、沖田隊長です・・・」
「・・・マジで?」「マジで」
の視線の先に突っ立っていたのは―――――7歳前後の少年二人だった。
「もう一度確認させてもらいたいんだけど、お前が土方で、お前が沖田・・・・でいいんだな?」
の目の前には憮然とした表情の少年二人。
背格好から判ずるに、ひとりはおそらく8歳前後。もうひとりは6歳ぐらいだろうか。
艶やかな黒髪にその年代の少年にしては切れ長の目をしたすっきりした顔立ちの少年と、鳶色の髪にくりくりした目をしたかっこいい、というよりはカワイイ顔立ちの少年である。
信じられないし信じたくもないことだが、その少年二人には見覚えがありすぎた。
の見知った二人と大きな食い違いがあるにも関わらず、なぜかしっくりと面影が重なる。
「・・・うそだろ、お前コレ・・・・ほんとに土方さんと総悟かよ・・」
はうずくまり、頭を抱えた。
何をどうしたらこうなるんだ。天人かなんかが若返りの薬でも持ち込んだのか。
それともアレか、10000打記念だからか。
「オイ、お前こそ誰なんだよ」
「おまえ、だれでィ」
なぜだろう。
普段はスルーできるのに、この年恰好のコイツらに言われると妙にイラッとくる。
「俺? 」
ぶっきらぼうにそう告げて、はうずくまったまま顔を上げる。
と、二人の顔はちょうどそのくらいの高さでは言葉を詰まらせる。
「(ありえない・・・・)」
どうやらこのミニ土方にミニ沖田は、記憶まで7歳くらいに戻っているらしいが、そんなことはにとってはどうでもいいことで。
どうやったら元に戻るのか、いやそもそもこの人たちは戻るのだろうか。
もし戻らなかったらどうするのだろう。
どうやら近藤はこんな変事には巻き込まれていないようだが、
それにしたって真撰組の頭脳と呼ばれる土方と、斬りこみ隊長である一番隊隊長の沖田が7歳ぐらいのガキんちょでは運営に支障をきたすだろう。
第一、 なぜだかわからないが、さっきから嫌な予感がして仕方がないのだ。
これ以上の嫌なことなど、そうそう起きるものではないと思うのだけれど・・・・。
「さァアアアアアん! た、大変です・・っ、銀さんが!!」
――――嗚呼、起こったよこれ以上の嫌なこと。
新八と神楽の二人に引き連れられてきたのは、くるくるした銀髪が眩しいこれまた8歳前後の少年だった。
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