第3話
ケンカでもしてなきゃいいけど、と嘆息しただが、予想外に静かな二人に多少驚いた。
銀時と土方の仲が悪いのは前から知っているが、銀時と沖田の仲はそんなに悪くないようだ。
「! ここ、ここ!」
銀時と顔を突き合わせてなにかこそこそ喋っていた沖田が、戻ってきたに気付いて手招きする。
呼ばれるままにテレビの真正面に胡坐をかくと、待ってましたというように沖田が足の上に座り込んだ。
「これでいいの?」
「ん、これでいい」
にっこお、とを見上げて沖田が笑う。
その真っ白な微笑みには雷に打たれたかのような衝撃を受けた。驚きが大きすぎて、言葉も出ない。
「(そ・・・そ、総悟が白い・・っ! 真っ白だ、純白だ!)」
満面の笑みを浮かべる沖田に、天使の羽が見える気がする。
「総悟、お前座りにくくないか?」
「ここがいい」
「お・・・おま、なに総悟スゲェかわいい! 俺マジでびっくりだよ」
むぎゅーっと膝の上の沖田を抱きしめる。
元に戻らなかったらどうするのだろう、とか考えたが、今となっては戻ったらどうしよう、だ。
戻るな、戻らないでくれ頼む! ぎゅう、と沖田を抱きしめたままは神に祈りを捧げていたが、一方で沖田は唖然と立ちすくむ銀時に"ハッ、こーやるんだよガキが"と鼻で笑ってみせた。
沖田は6歳のときからすでに黒であることが以外に知れると同時に、6歳児と8歳児の同盟も破棄された。
「っ!」
とん、と不意に後ろから体重がかけられる。
首をひねって後ろを見遣れば、くりんとはねた銀髪が目に鮮やかだ。
胡坐をかいたときのの目の高さは、8歳の銀時が立ったときと同じくらいの高さで。
「なァ、あそぼーぜ。俺ちょーヒマなんだけど」
「だってさ、総悟。ほら、銀時と遊んでおいで」
「やだ」
即答だった。
その返答のあまりの速さと愛想のなさと、ぷいっと銀時から顔を背ける仕草はどこか不釣合いで、は黙ってしまう。
黒い云々ではなく、コイツはただの猫かぶりかもしれない。は悟った。
「俺は、とあそびたいっつったの。こんなガキとあそんでもつまんねーし」
なァー、と銀時がの腕をつかんでぶんぶんと、それは容赦なく振り回す。
8歳児のくせに力は結構強いらしく、ぐらぐらと体ごと揺れた。
そのまま揺らされていればいいのに、今度は沖田がの首っ玉に抱きついて離れない。
体は左右にぶれているのに、首だけ固定されている。痛い。悪気がないことは承知している。が、痛いものは痛い。
「だーっ、やめろ! 痛いっつーの!」
一発ずつ、銀時と沖田の頭をはたく。思ったよりもいい音がして、二人がうずくまった。
やばい、力の加減をミスったかもしれない。
「泣くなよ」
じんわり、奴らの目が潤んでいる。ここで追い討ちをかけたら絶対泣く。
皿洗いを終えて戻ってきた土方が、顔を歪ませてじっと耐える二人を一瞥してため息をついた。
なんだ、この8歳児とは思えない態度は。
「3人いっぺんに遊んだら俺の体力がもたないからなー・・なんか話してやるよ。聞きたいこととかない?」
床にうずくまり、丸くなっていた沖田を抱き上げる。
いきなりだったからとても驚いたらしく、涙はすぐに引っ込んでしまった。
そのままさっきの縁側へ腰掛け、膝の上に沖田を載せる。完全に抱き上げると結構重かった。
もしかしたら8歳児はムリかもしれない、と思う。
後ろからとたとた、と追いかけてくる2つの足音も、まるでそこが定位置であるかのようにの両脇に座る。
"沖田ばっかりズリーよなぁ"、とぼそりと呟いた銀時に、こっそり"なに、お前沖田とおんなじことでいいの?"、と耳打ちしたら
奴は目を丸くした後、すぐにぶんぶん頭を左右に振った。
まったくませたガキである。
「、ききたいことあるんだけどいいか?」
土方の8歳児のクセに落ち着いた声が問いかける。
大人びているのに、生意気だとあまり感じないのはきっと、土方が本当に大人びているからだ。
「は、おんな、だよな?」
「おう、そーだよ。こんなナリでも一応女」
「じゃあなんでそんなカッコしてんだ? しかも"俺"っていうし・・・」
無邪気だからこそ、子供は悪魔だと言われるのだ。
聞いてはいけないこと、というか大人であれば遠慮して聞けないことも、"遠慮"という文字がない子供には通用しない。
遠まわしに聞いてくるのでもなく、ど真ん中直球で、しかも速球。
「俺も気になってた。なんでだよ、」
銀時の言葉に沖田もうなずく。
興味津々、といった目の輝きに下手な言い訳や作り話は見抜かれるだろうなと思った。子供は子供にしかわからない直感で、ものの本質を理解する。
「あー・・例えばさ、総悟がすごく大切で、誰にも渡しちゃいけないものを持っているとする」
「うん」
「でも、そのすごく大切なものは、他のいろんな奴らも狙ってる。みんな欲しがってるものなんだ。・・そこまでいいか?」
こくん、とうなずいた沖田も、銀時や土方もこちらが圧倒されるくらいの集中力で次の言葉を待っている。
「総悟はそれをずっと守っていなきゃならない。・・・命に代えても」
「みんなみんな、総悟の持っているものを狙って襲ってくる。それでも、ずっと守らなきゃならない」
「あー・・例えばだぞ? 銀時、もしもお前が総悟の守っているものを狙う奴だとして、」
「は!? 俺、ンなことしねーし!」
だから例えばだって、と苦笑すれば、銀時が不愉快そうに顔を歪める。
「銀時がそんなことしないってのはわかってる。でも、そんなクソみたいな奴らになった気になって考えてみてよ」
「・・・・・うん」
「総悟が男なのと、女なのとがいたとしたら・・お前どっちを狙う?」
「おれはおとこでィ!」
キッと眼差しを強くした沖田が睨んでくる。
わかってるわかってる、と頭を撫でてやると、唇を突き出して憮然とした表情を浮かべたまま、沖田はそれでも話の続きを待っている。
「・・女のほうを狙う、な」「俺もだ」
そう絞り出すようにして、銀時と土方が答えた。
その答えを口に出すことすら許せない、というように。
「うん、そうなんだ。女ってのは、ただそれだけで狙われやすい。・・悔しいけどな」
「・・だから、はそんなカッコしてるのか? 狙われないように」
「んー、事の始まりは土方の言うとおり。まぁ今はこんな格好する必要はないんだけどな」
じゃあ、なんで? という3つの視線に言葉をせがまれて、は緩く笑う。
「クセ、かな。なんか違和感あってさ、女の格好する自分に」
「・・へんなの」
「総悟、お前けっこう直球で言ってきやがったなこんにゃろ」
「きっと似合うのに」
不覚にも――――ミニ沖田の言葉にどきりとしてしまった。
・・もしかしてもしかすると、考えてこなかったが自分はショタコンなのかもしれない。
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