その透き通るような黒曜石に映るのは・・・・・くるんとはねた銀髪が眩しいあの男。
「あれ、ちょ・・・・・マジで?」
思わぬ事態に目を丸くしながらも、突然転がり込んできた幸運に銀時は表情をだらしなく緩める。
が、何度か瞬きを繰り返し、それでもじっと注がれるの視線に流石に居心地の悪さを感じて、困ったように頭を掻いた。
「えー・・っと、。とりあえずお前、大丈夫か?」
すると。
するとどうだろう、それまでほとんど無表情に近かったに花が咲きほころぶかのような笑みが浮かぶ。
何の前触れもなく向けられた満面の笑みに銀時は一瞬言葉につまり、その笑顔が自分ただ一人に向けて形作られたものであることを理解すると、左手で顔半分を覆い隠した。
犯罪的なまでの理性に対する攻撃力である。
「お・・・おい? お前まさか「ねぇ銀さん」
言葉をさえぎられて土方がひくりと頬を引きつらせる。
はそんな土方に見向きもせず、銀時へ一歩近づくと着物の袖をきゅ、と握った。
「あのさ・・・俺も・・、俺も銀ちゃんって呼んでいい?」
万事屋に存在するとそして銀時以外の人間に、言葉では形容しがたい衝撃が走った。
まさかそんなバカな、そんなことありえていいはずがない!
が自堕落で生活力のカケラもなくてというかジャンプの主人公としてお前どうなんだそれでいいのか本当に!?なあの男にが×××(言葉に出して認めたくないらしい)なんてそんなこと・・!
「・・・・おう、いいぜ。なんなら旦那さま(はぁと)とかでも「ホアチャァアアア!!」
銀時の腕がに伸ばされ、その肩を抱こうとして―――それは神楽によって叩き落された。
通常、人間の関節ではありえない方向に腕が曲がっている(正確には捩れている)が、神楽を責めるものなど存在しない。むしろ「グッジョブ!」とでも言いたそうな空気が流れている。
「銀ちゃん・・・・大丈夫? 痛い?」
ひとり、痛みに悶えていた銀時のその見た目にグロイ腕に触れたのはである。
普段であれば「ざまぁみろ。日ごろの行いが悪いからそうなるんだ」と笑顔で毒の一つでも吐きそうなものだが、今銀時を見つめるのはいかにも心配そうに表情をゆがめ、まるで自分が痛みを感じているみたいに切なげに眉を寄せる。
銀時は内心、大きなガッツポーズを一つ。
「・・ンな顔しなくても大丈夫だ。心配すんな」
「銀ちゃん・・・」
おかしくなっていないほう手をの頬に這わせる。
そのきめ細やかな肌を滑る感触に指が酔いしれる。薬が頬を伝った跡を指で追って、追って・・・・唇に触れる。
「・・・・」
このチャンスを逃してこの先、男と名乗ることが出来ようか。
据え膳食わぬは男の恥というではないか、ここで手を出さずにいつ出す。・・・薬のせい? そんなことは知りません、もう忘れました、なんのことだかサッパリです―――ってことで、ハイいっただっきまー
「その辺にしときやしょうか、旦那」
「それ以上余計なことしやがったら、首が胴体とおさらばすんぞ」
ひた、と首元に据えられる鋼の冷たさ。
の顔全体を見られなくなるほどの至近距離まで迫っておきながら、しかしあと1cmでも前進すれば刃が肉を裂くだろう。
「・・なに、ヤキモチですか? お二人さん」
それでもニヤニヤと勝ち誇った笑みを隠そうとしない銀時に、真撰組幹部二人は纏う空気の温度を2,3度下げた。
握りなおされた刀のツバがチャキ、と鳴る。
「薬で錯乱してる女になにかしようなんざ、卑怯ですぜ旦那」
「あのね総一郎くん、“錯乱”っていくらなんでも酷くない? これがの本心だったらどーするわけ?」
「妄想は止めてくだせぇ旦那。聞いてるコッチが痛いでさァ」
「ハッ、随分とおめでてぇ頭してんだなテメー」
「思い上がりも甚だしいですね、銀さん」
「まったくネ、恥ずかしいアル。こんな大人にはなりたくないヨ」
「なにこの言葉の集団リンチ!?」
―――とは言ったものの、薬はどうやらまがい物ではなく、しかもその高値での売買に耐えうる効果をもっているらしい。
言葉で銀時を吊るし上げている間も、眉間に皺を寄せたは銀時の着物を握ったままだったし、とりあえず現状を把握しようと各人がソファに落ち着いたときもは迷うことなく銀時の隣に座った。
銀時がにんまりと口元を緩ませるのと正反対に、土方と沖田の二人はぴくりと頬を引きつらせる。
前者の表情移り変わりはどんなバカにも分かるとして、後者のは一瞬でどうにも分かりにくい。が、机を挟んで両サイドのソファを包む空気の温度差は酷くハッキリしたものだった。ピンク色の花があちこちに咲き乱れる常春と、凍てつくブリザードの吹き荒れる氷結地帯。
新八はどちらに座るかで散々悩み、結局立ちっぱなしでいることに決めた。
「ええとさん・・・口に出すのもおぞましいんですけど、さんは今銀さんのこと・・・・?」
「オイこら新八、おぞましいってのはどーゆー意味だコルァ。お前の唯一の個性叩き割るぞコルァ」
「メガネか、メガネのこと言ってんのか!? 唯一の個性呼ばわり!?」
やっぱりどこか勝ち誇った表情を浮かべる銀時に、新八が食って掛かったとき。
「うん。俺、銀ちゃんのこと好「、見てくだせぇあのテレビ。おかしくて笑っちまうや」
現状把握をしようとした割に、改めての口からその単語が出ることは許せないらしい。
たとえそれが薬の影響だとわかっていても、の本心ではないと分かっていても、容認できるものではないようだ。
「」
沖田につられてテレビに視線を移しただが、彼女の隣に座る男の呼びかけにぱぁっと顔を綻ばせる。
その向かい側で、筆舌に尽くしがたい凶悪な顔になったS王子は直視すらできないように新八には思えた。
「、お前銀さんのこと好きか?」
サラッと言ってのけた銀時に、以外の人間がぎょっと目を剥く。
調子のってんなよコラ、PTAに連絡して今度こそアニメの放送枠深夜に変更させんぞ、と誰もが拳を握る。そんな中、はじっと己を見つめる銀時の視線を見返し、しばらくの逡巡の後、満面の笑みを零して・・・・・
「うんっ・・・―――――なんて言うと思ったかこの変態バカヤロォオオオ!」
「えええええ!?」
満面の笑みを零した後、憤怒の表情に様変わりしたは銀時の顔面にエルボーを決めた。
「いってぇえええ! つぶれる、顔が真っ平らになる!」とのたうち回る銀時を見下ろし、はいいざまだと鼻で笑う。
「・・・お前、薬切れたのか?」
「なんかそうみたい、土方さん。あーそれにしてもすっきりしたぁ!」
両の手を天井に突き出し、背伸びをして晴れやかに笑うは確かに誰もが見知ったもので。
鼻から流れる赤く、鉄臭い液体をぼたぼたと床に滴らせながら、思わぬ事態の再来に言葉を失った銀時は呆然とを見遣る。
「お、お前・・・っ、いつから薬切れてたんだよ!?」
「『、お前銀さんのこと好きか?』のとき。なんかこう、引いたっていうか。関わりたくないなって思「もういいです止めてくださいマジで」
今回の教訓
俺はやっぱりいつもどおりのに惚れているわけであって、いやこんなふうにチョコレートパフェなんかよりもずっと甘い声で「銀ちゃん(はぁと)」と呼んでくれるのもなかなか捨てがたくはあるのだけれど、「ばーか」なんて言いながらフッと笑うがやはり、俺にとってかけがえのないものです。
back/novel
初の分岐物、銀さんバージョンお楽しみいただけたでしょうか。
・・・・・え、甘くない? 惚れ薬ネタなんていったら普通甘くなるはずなのに、甘くない?
当サイトにおける「お楽しみいただいた」はイコール「笑えた」であって「夢らしい甘さを楽しんだ」と同義ではございません・・・と開き直ります。
笑っていただければ幸いです。
Take it easy!! この作品はワンドリサァチ!様のランキングに参加してしています。面白いと思われましたら一押しお願いします。
writing date 07.07.06 ~ 07.07.18 up date 07.08.06