その透き通るような黒曜石に映るのは・・・・・サラサラヘアーの爽やか腹黒美少年。
まるで縫いとめられたように動かないの視線を見返し、沖田はにやりと口元に浮かんだ笑みを濃くする。
薬の効果が本物であるなら、は今この時点で自分にヒトメボレを果たしているはずで、ということは背後で呆然と声も出ないらしい二人を出し抜くことが出来る。
保護者的な立場を装ってに構いたがる同居人も、頼れる上司という位置を確立しつつあるマヨラーもいる上で、が自分にヒトメボレ・・・なんて美味しい状況だろう。
「・・・、どーかしやしたかィ?」
「っ!」
いつまでたっても視線を外そうとせず、さらに口も開こうとしないに焦れた沖田がそう彼女を覗き込むと。
はそれはもう分かりやすく顔を朱に染め上げ、手の甲を唇に押し付けるように顔の下半分を隠し、更にものすごい速さで視線を逸らした。
「? 何してんですかィ」
「ば・・っ、バカやめろこっち見んな!」
沖田と距離をとるように後ろにずり下がったは、熟れきったトマトのような顔で徐々に言葉を紡ぎだす。
「なんか・・っ、なんかわかんねェけど! 総悟見てると、すげぇドキドキする・・・っ」
「・・・・・・・は?」
沖田は思わず、それまで浮かんでいた黒い笑みを消し去った。
「わ、わかんねェけど! 総悟見ててもドキドキするし、けど・・っ、総悟に見られててもなんか変な感じになる・・! この辺が、ぎゅーって痛い・・!」
薬に濡れた着流しの、その首元を皺になるのも構わずがぎゅうと握り締める。
顔を真っ赤に染めて俯く――――沖田はごくり、と生唾を飲み込んだ。
「・・・顔上げてくだせェ」
「や、やだ・・っ! てか無理、絶対無理! んなことしたら、心臓破裂するっ」
体を小さく丸めるは、大体2mほどある距離を沖田が詰めようと一歩を踏み出すと一歩後ろに下がるといった具合に、間を取ろうと躍起になっている。
なまじ顔を上げて目視で存在を確認せずとも、気配で距離を読めるし存在をはっきりと認識できるからタチが悪い・・・沖田は眉間に皺を寄せる。
まるで計っているように距離をとり続けるに、沖田は焦燥にも似た苛立ちを覚えて。
「コラコラ総一郎くん、嫌がってんだから。そんな怖い顔して迫るのやめなさいって」
立ちはだかるように間に割って入った銀時の背にが隠れたりするから、その機嫌は急降下の一途をたどる。
今度こそはっきりと苛立ちを視線に滲ませて、沖田は壁を睨みつける。
「これは俺ととの問題でさァ。旦那は黙っててくだせぇ」
「いやー、そうは言ってもね。ホラ、こんな怖がってるし」
銀時が指差す、そのわき腹あたりを見遣れば。
俯いたままのの手が銀時の着物を、きつく握り締めている。
まるでいじめっ子に追いかけられ、怯えて親に助けを求めるがきんちょのように―――沖田は纏う空気をさらに冷やす。
どこか満足げににたりと笑う壁が酷く気に食わない。
「・・・は、俺のことが嫌いなんですねィ」
「・・・っ!?」
ぽつり、と沖田の口から零れた言葉に、が弾かれるように顔を上げた。
感情をいう温度を感じさせないまま、彼の口から言葉の続きが紡がれる。
「そんな徹底的に避けられちまったんじゃ・・・しょうがねぇや」
「ち、ちが・・っ」
「の本心がわかった以上、次からはこんなことしやせんから。安心しなせェ」
ようやく合わせることを許された視線を絡めながら、沖田は困惑に瞳を揺らがせるにふっと微笑む。
寂しげに、切なげに口元を少しだけ緩めて。くるりと踵を返し、立ち去ろうと歩き出した沖田だが、その着物の袖を掴んだものがいる・・・・だ。
「総悟、待って! 違う、そんなんじゃ・・・っ」
「何が違うんですかィ? は俺のこと、嫌いなんだろィ?」
ぶんぶん、と床に視線を落としたまま、が首を横に振る。
「違う、俺・・・・っ俺は、総悟のこと・・・・!」
着物を握り締める彼女の手に更に力がこもったのが、沖田にもわかった。
俯いているせいでの顔をうかがい知ることは出来ないが、つややかな黒髪の合間からチラリと覗く耳が茹でたてのエビみたいに真っ赤で、小さく丸めた体が小刻みに震えている気がして―――沖田はに手を伸ばす。
「・・っ」
触れる寸前、ぴくんと跳ねたに気付かない振りをして、沖田は彼女の頬をその手に包む。
そうしてゆっくりとそのあごを持ち上げる。
晴れた日の夕方に染められたかのように朱色に染まる頬、戸惑いに潤む黒曜石、緊張に息を飲み込んで上下した喉・・・どくん、と強く波打つ己の心音を聞きながら、沖田は彼女に顔を寄せ―――・・「ちょーっと調子に乗りすぎてんじゃないのかなァ、総一郎くぅん?」ひくり、と頬を引きつらせた銀時によって、沖田の企みは灰と消えた。
「調子になんか乗ってやせんぜ。濡れ衣は止めてくだせぇ」
「つーか、よく考えろ。今は薬でおかしくなってんだぞ?」
「さァ、薬が本物だったって証拠はありやせんからねィ」
肩をすくめて笑って見せれば、銀時がこめかみに青筋を浮かべた。
「なにそれ、どーゆー意味なわけ?」
「この薬は、普段は奥底に隠されていた本心を暴きだす薬なのかもしれやせんぜ」
「・・・・おま、すげぇなその妄言。流石の銀さんも今のお前のセリフにはビックリだよ」
「いやいや、俺なんざ旦那にゃ敵いやせん」
「何ソレ謙遜してるつもり!? 逆だから、お前の謙遜は俺をどんどん貶めるから!」
「・・・・あれ、俺なにしてんの?」
次第に熱を帯びていく空気を切り裂いたのは、酷く冷静さを帯びたの声。
沖田の手があごに触れた状態のままは彼を見上げ、きょとんと首を傾げる。先ほどまで浮かんでいた、野原の中に咲く可憐な花のような恥じらいは跡形もなく消え失せている。
まさか、という思いが以外の人間に伝播して、沖田以外の人間はその表情を明るくする。
「、お前薬切れたのか!?」
「・・・そっか、惚れ薬かけられたんだっけ。うん、もう全然おかしくない」
最後の一言がさり気なく沖田の心を抉るが、はまったく気付かない。
ただ一人、銀時だけがその様子を見てにやりと笑った。
「でもさっきのなんだったんだろー・・・」
「? どうしたんですか、さん。随分難しい顔してますけど」
「うん、さっき・・・総悟見てたらすげぇドキドキして、でもずっと見てたくて・・隣にいたいって思ってさ」
狐につままれたように。突然の言葉に目を丸くする沖田に、は視線を合わせてまっすぐぶつける。
「総悟、って呼ぶことも恥ずかしくて、でもそれ以上にそう呼べることが嬉しくて。目を合わせることが死ぬほど恥ずかしくて、でも総悟が俺を見てるってことがすげぇ嬉しくて・・・・なんだったんだろ、さっきの」
「それが惚れるってことですぜ、」―――・・なんてセリフが言えたらどれだけいいのだろう。
いつも自分がに対して思っていることを、感じていることを、が自分に対して思っていた。
それがたとえ薬のせいだとしても・・ただそれだけのことが、どうしてだか酷く嬉しくて。
きっとはいま自分がそんなことを考えているなんて髪の毛一本ほども予想しちゃいないだろうけど、でもそんなことどうでもよくなるくらい気分は最高で。
「・・って総悟? お前急に黙り込んでどしたの」
そんな風に親しげに、さも当然のように、が下の名前を呼んでいるというただそれだけが、気分を上昇させるだなんて・・・今のには知る由もないのだろうけど。
今日の教訓 俺はやっぱり、が―――・・・
「・・静かな総悟ってなんかスゲー怖いよな。なに企んでんのお前って感じ!」
「・・・・、覚悟はできてんだろィ?」
「ご、ごめ・・・冗談だって総・・・・っ、ギャァアアア!」
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こちらは初の分岐物、総悟バージョンでお送りしました。
押してだめなら引いてみろ・・・・・総悟の行動は全て計算というか謀略の上に成り立ったものなのではないかと。
思ったより銀さんが出張りましたが、まぁ許容範囲ではないでしょうか。お楽しみいただければ幸いです。
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writing date 07.07.06 ~ 07.07.18 up date 07.08.06