その透き通るような黒曜石に映るのは・・・・・こびりついた焦げの跡が痛々しい鍋の底。
「ふべ・・・ッ! っ何すんだよ銀さん、つーか痛い鼻がつぶれて苦しいせめて生きるのに必要な空気だけは与えろってんだコノヤロー!」
「あ、悪ィ。思わず力入って・・」
「不慮の人身事故で死にたくねぇよ俺」
間一髪、とはこのことだろう。
銀時は日頃彼が纏っている怠惰な空気を一変させ、まるで光のようにすばやく動いた。
の目が完全に開き、その瞳に人間が映る寸前で―――彼はもう一度、鍋にを封印することに成功したのである。
それにほっと胸をなでおろしたのはとある3人で、しかしその3人は同時にそれだけで人が殺せそうな舌打ちをする。
互いをじろりと睨みつけ、第2ラウンドのゴングが響く!
「ちょ、お二人さん? 何今の舌打ち」
「別に何でもねェよ。つーかテメェだってしてただろーが天パ」
「気のせいですぅ多串くんの。つーか天パ呼ばわりすんのやめろコラ」
「つーか惜しいことしちまったぜィ。ここまでずるずると続いたのらくら記も、ベタに沖田オチで連載終了を迎えるかと思ったんですがねィ」
「なんで最終話が番外編? つーかベタにってどーゆー意味だコルァ」
「そのまんまの意味でさァ、旦那」
「悪ィ、辞書持ってきてくれるか? この骨の髄までSに染まったバカ総悟に言葉の意味教えてやってほしいんだが」
「つーかお二方、忘れたんですかィ?」
「・・・何をだよ」
「いつだかにやった“次回の座談会編に呼びたいゲストは誰?”アンケートで「新八、塩もってこい塩! ぶちまけてやれ」
「だったら私がやるネ! コイツとはいつか決着つけなきゃと思ってたアル!」
「・・・ハッ、上等だぜチャイナ。返り討ちにしてやらァ」
「え、ちょ、待てオイ! ここでおっぱじめる気か!?」
「お、おい総悟! バカやめ・・「「オラァアアアア!」」
「・・・・もーやだ。付き合ってらんね」
獣のような―――といったら獣に対して失礼で、しかし彼らを“人間”というカテゴリーに区別するなら自分は人間じゃなくてもいいや、とに人間を捨てさせる雄叫びと騒音を背中に、彼女は万事屋を後にした。
視界が奪われている今、とばっちりをが受けないはずはなく、そうなったら面倒極まりない。
そう考えては鍋を被ったまま手探りで出てきたのだが、あの騒動の中心であり火種である彼女にその自覚がないのだから一番手に負えないのはである。
とばっちりを受け、迷惑をこうむっているのは間違いなく新八だ。
はぁ、とある意味で見当違いなため息をついたは突然、背後から伸びてきた手に腕をつかまれた。
ハッとして声を上げようにも鍋が邪魔でしかも顔も確認できず、ぐいぐいと引っ張られるままには歩き出す。
鍋がもたらす闇の中で、はとにかく地図を広げた。
「・・随分とひでェ格好してんじゃねーか、」
「・・・・・この声、もしかして・・」
クツクツと忍び笑いを声に交え、低く唸るような・・・・しかし、酷く艶っぽさを帯びたこの声は―――
「エロ杉?」
「自分で腹切るのと俺に首刎ねられるの、どっちがいいか選べ」
「ごめんなさいスンマセン、最近なんかこう、他ジャンルへの進出とか果たしちゃって調子イイもんで、図に乗ってました。・・ってよく考えたら高杉もじゃん。一緒にがんばろうな!」
「何の話してんだテメェ」
どうして指名手配されているエロ杉・・ならぬ高杉がこんなところにいるのか尋ねてみたところ「近くに寄ったから」などと嘘か誠か判断しづらい返事が返され、「ウチは放浪癖のある息子を送り出した田舎の実家じゃないんだけど」とは内心そう零す。
口に出せば今度こそ、宙に鮮血が舞う。
「で? お前はなんで鍋なんかかぶってんだ」
「・・・・あー、うんコレね。なんでもな「理由なく鍋かぶってんのかテメェは」
「惚れ薬のせいです」
惚れ薬云々の話は、正直高杉にしたくなかった。
が、理由なく鍋をかぶっている人間だと思われることのほうが、人間の尊厳を踏みにじる誤解のような気がして、は早々に口を割った。
正しい判断である。
「・・・ヘェ?」
「ま、本物なのかどうかもわかんないし。でも本物だったら困るから・・・・ってちょ、高杉お前何してんの!」
「鍋外そうとしてんのが見てわかんねェのか」
「見えてねぇもん・・・・ごめん、わかった。今のは俺が悪かったから、殺気引っ込めて」
鍋を外そうとする高杉と、鍋を奪われまいとするとの無言の攻防はしばらく続いた。
の視界に入るのはいつまでも鍋で高杉はチラリとも見えない・・・が、かすかに耳に届いた舌打ちや察知する気配から奴がどんな表情を浮かべているのかの想像は容易だ。
「手ェ離せよ」
「やだ」
「本物かどうかもわかんねぇんだろうが」
「本物だったら困るから嫌だ」
「・・お前が俺に惚れるだけの話だろうが。何にも困ることなんじゃねェじゃねぇか」
「十分困るわ! つーか一番困る」
「あ? 今なんか言ったか」
「言ってませんゴメンなさい」
その時。の力が抜けたその一瞬。生まれた隙を高杉が見逃すはずはなく―――
「わ・・ッ、ばか止めろ!」
反射的に開かれたの黒曜石に映るのは・・・・・・祭り好きな狂気を宿すあの男。
呆然と瞬きを繰り返すに高杉は口元をゆがめ、その秀麗な顔をずいと寄せる。
「で? どうなんだ、」
「・・・・・・別に、なんともない」
「ハッ、んなことだろーと思ったぜ」
真顔で首を振るから高杉はその顔を離し、キセルを咥えなおす。
格段残念がる様子もなく、むしろそれがわかりきっていたかのような高杉の反応に、は首を傾げた。
「高杉、これが本物じゃないってわかってたのかよ」
「さぁ、ンなこと俺が知るわけねぇだろう」
「いやまぁそうだけど・・・それにしちゃあリアクション薄くない?」
不思議そうなの視線の先で、高杉がフッと表情を緩める。
ああ、この男はこんな顔もするんだ・・と縫いとめられるの瞳。
そんな彼女に気付いているのかいないのか、高杉はぼんやりと立ち尽くすの腕を引いて。その耳元に唇を寄せて。
「どっちかっつったら、俺ァ本物じゃねぇほうが都合がいいんだよ」
「・・・どーゆー、意味だよ」
地の底を這うような低い声で、聞くものを縛り付けるような甘い声音で。
「俺は、俺の思い通りにならねェもんをこの手に落とすのが、世界で一番面白ェ“遊び”だと思ってるからな」
「変態 鬼畜 外道 鬼 悪魔」
「ハッ、なんとでも言いやがれ」
「変態高杉違ったエロ杉、お前なんかそのうちアニメで全身モザイク入れられちゃえばいいんだバーカ!」
「・・・・・、お前腹上死って知ってるか」
今日の教訓
高杉はエロ杉です。テロリストというよりエロリストです。
本人に言うのは命の危険が伴うのでやめたほうがいいと思いますが、でもそのすれすれのスリルを味わいたいチャレンジャーがおられましたら、主に薄暗い路地裏を探すと見つけられるかもしれません。なお、当方ではその際に生じましたトラブルには一切関与いたしません。
いきなり刀突きつけられたり、あの秀麗な顔に迫られたり、命を落とされたり、あの低く艶っぽい声で囁かれたりしても、当方では一切の責任を負いませんのでご了承ください。
ちなみに個人的な意見を言わせてもらうなら「あんな生ける18禁、欲しけりゃくれてやらァアア!」
文責
はい、こちらは高杉バージョンでした・・・というわりに後半のみの出演となってしまいました。
でも、思ったよりも高杉と仲いいみたいです。いきなり白刃が舞わなくてよかったよかった。
この調子なら本編でもあんまり気を揉まずに登場させられる・・・・・・・・・かもしれません。一寸先は闇ですが。
Take it easy!! この作品はワンドリサァチ!様のランキングに参加してしています。面白いと思われましたら一押しお願いします。
writing date 07.07.06 ~ 07.07.18 up date 07.08.06