「ねー、どのー! 本当の本当に、協力してくれないでありますかー!?」
「ボクからもお願いするですぅ。っちが参加してくれれば100人力はかたいんですぅ」
右手に緑のカエル、左手に黒のオタマジャクシをぶら下げて、は何度目になるか知れない溜息を深く吐き出す。「助けろ」という言葉を視線に込め、手にした重火器を磨き続ける赤いカエル ギロロに視線を流せば「諦めろ」とでも言いたげに、むしろ協力を煽るような挑発的な視線を投げてきた。カチンときたので左手のオタマジャクシ タママをぶん投げる。ぐえっとかぎゃあとかいう、正にカエルが潰れた声が響いたが勿論無視。惨劇に近い光景を晒したことで流石に右手のカエル ケロロもびびったらしい。が、日頃から夏美に散々な目に合わされているケロロはこれしきのことでへこたれるほど甘っちょろい神経の持ち主ではなかった。もしも、ケロロがもう少し儚い精神を持ち合わせていれば、ケロロ小隊はとっくに地球侵略を諦めて帰っていただろう。
「一生のお願いでありますから! 今回だけ、今回だけ我輩に協力して欲しいであります!」
「あのさぁケロロ。その台詞は一生のお願いが一生に一度しかない奴が言うから有効なの。下手したら、一日に一回それを言うケロロが言っても、何の威力も発揮しないわけ。おーわーかーりー?」
「ゲロォ・・」
ほっぺたをむにーっと引っ張りながら告げれば、ケロロの目つきが悪くなる。
「クルル! クルルもなんとかどのを説得するであります!」
「ぁあ〜?」
それまで延々とパソコンをいじっていた黄色のカエル クルルが画面から顔を上げた。表情の読めないビン底メガネのクルルと、ケロロを右手にぶら下げたが視線を交わすこと数十秒。くっくっく・・、とお決まりの忍び笑いを漏らしたクルルが先制攻撃を開始する。
「たまにはお前も協力してもいいんじゃねぇのかぁ?」
「面倒くさいからやだね」
「・・ふーん、そういうことばっか言ってると、後悔すんのはオメーのほうだと思うぜぇ」
「クルル、お前俺が回りくどい言い方されるの嫌いだって知ってるだろ。さっさと言え」
の背後に龍が、そしてクルルの背後に虎が浮かぶ。ビシャァアアア、と大気を裂く雷鳴が轟き、二人の間のケロロは身を縮こまらせた。この二人が口論にも似た舌戦を繰り広げた場合、間に割って入ることは精神的な死を意味する。つい先日それを期せずして経験してしまった忍び装束の青いカエル ドロロは両者を不穏な空気が取り巻きだした時点で小さな体を震わせた。
「お前、夏美たちに“力”のこと話してねぇよなァ?」
「・・・それがどーしたっての」
「バラすぜ?」
すぅ、との黒曜石が細められ、攻撃的な輝きが増した。それを目の当たりにしたケロロが「ヒィッ」と頭を抱える。
「すれば?」
「・・・・ほォ?」
「別に構やしないよ、みんなにバラしても。ただ、」
「・・ただ、なんだよ」
「バレちゃったら、俺がここにいられなくなるから面倒だなーってだけで」
ケロロ小隊の特別基地には瞬間、沈黙が降った。
「な、なんで!? どうしてでありますかっ!」
「なんていうのかなぁ・・・俺は、今ここでは“普通”でありたいのよ」
“クルルに意図せずして召喚されてしまった、カワイソーな異世界の人”で十分なわけ。
静かにそう告げれば、総勢5名のカエルたちはみな俯き、黙りこくってしまう。騒がしくないケロロ小隊なんて糖分摂取をやめた銀さんと同じくらい違和感だらけで気持ち悪い。この居心地の悪い空間をどうしようかと結構本気で考え出したは、聞きなれた忍び笑いに眉をひそめる。
「たーいちょう」
「・・なんでありますか、クルル曹長」
「コイツを地球侵略に駆り出すのは、やめておいたほうがいいかもだぜぇ? 逃げられたら厄介だからな」
俺は珍獣や猛獣の類か、と喉までのぼってきた台詞を飲み込む。あの陰険で陰湿で捻くれ者で嫌な奴No.1な黄色のカエルから、あんなニュアンスの言葉が出てきただけで大したものだ。言い方は相変わらず人の神経を逆なでするけれど、もしそうじゃなかったらを考えるとより一層気持ちが悪い。どこまでいこうと、クルルはクルルなのだ。
「ま、そゆわけでお前らに協力はできませんのであしからず」
「・・ちぇッ、つっまんねーの」
「ケロロー? 今お前なんか言ったかー?」
「な、なんでもないでありますどの!」
拝啓 銀さん
突然、黄色のカエルに呼び出された世界は不思議なところです。まずカエルに召喚された時点でプライドが地面に叩きつけられた思いをしましたが、今ではその黄色いカエルとも、緑のとも赤いのとも黒いのとも・・・そうそう、忘れがちになりますが青いのとも、なんとかうまくやっています。特に黄色いカエルが姿かたちは全然違うのにどこかのテロリストを彷彿とさせたりしますが、きっと見間違いです。折角なのでこの世界も楽しませてもらおうと思います。それでは、お元気で。
敬具
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writing date 07.10.07 up date 07.10.08 (Re:up date 07.10.20)
実はblogのほうにコッソリUPしていたケロロ夢。