第4話
妖――いわゆる、妖怪の類のものたちのことである。人なんかとは比べ物にならないくらいの長い時を生きる。
先刻、が若だんなの袖の中に見た鳴家という身長15センチほどの子鬼も、そんな妖の一種である。
彼らは古い家に住み着く・・・というか沸く妖で、普通人の目には映らない。
若だんなの生活はそこらじゅうに妖たちがあふれていた。
というのも、彼の祖母 ぎんは皮衣という名を持つ大妖で、その血を受け継ぐ若だんなは、幼いころから妖を見分けることができたのである。
妖たちはそれぞれなんらかの姿―――人の姿だったり動物の姿だったりに化けて、あたかもそのとおりに生活していることが多い。
普通の人ならば妖と気が付くことはないが、大妖の孫である若だんなは元の姿を見極めることができる。若だんなの世話役となっている二人の手代、佐助と仁吉もそんな妖のひとつだ。
佐助はその昔、弘法大師によって描かれた犬神であるし、仁吉は白沢(はくたく)という名の妖である。
そんな彼らは孫の体の弱さを心配するぎんが、長崎屋に手代として送り込んだものたちだった。
「・・・・じゃあコレは?」
説明を一通り受けたが指差したのは、どん、と置かれた屏風である。
そこから上半身だけすぅと姿を現している屏風のぞきが「あたしかい?」と笑みを深くする。
長い年月を経た器物や動物はそれに魂を宿す。付喪神はそうして魂を得た、この世のものにあらざるものである。
派手な市松模様の着物を着込んだこの付喪神は、百年の時を経て魂をやどした、屏風に憑く妖だ。
「まァ大体はわかったけど・・・なんで俺に鳴家が見えるんだよ?」
「さぁ・・どうしてだろうね」
と若だんなは揃って首を傾げる。にはあいにくと、若だんなのように妖の血を引いた憶えなどない。
「決まってますよ。それはこの人が、人ではないからです」
「仁吉!」
若だんなにたしなめられても、今度ばかりは仁吉も口を噤まなかった。
に向けた鋭い視線をそのままに仁吉は厳しい口調で続ける。
「あなたは一体何者なんですか? 人ではない、が妖でもない。それなのに驚くほど強い力を宿している」
「すまないね、。どうにも私のことになると過保護になっていけない」
若だんなが苦笑してそうに詫びる。
は己の前で片手を振って若だんなに応えながら、己の素性を明かしたほうがいいのかどうかを思案していた。
おそらく、に普通には見えないはずの鳴家が見えるのは、がこの世界の人間ではないからだ。
加えて、彼女の持つ力が一役買っていることは間違いないだろう。
のそういう事情を知るのは今、万事屋と真撰組の面々だけである。
の力、ことさらに宝珠のことが世に知れればおそらくいらぬ騒動をうむ。
は力のことを、多くの人間に告げる気はさらさらなかった。
そして、今。
若だんなはどうにか丸め込んで納得させるのは、どうにかなると思う。しかしおそらく、彼の脇をかためる二人の手代たちはそうはいかないだろう。
鋭い視線はわずかに、隠し切れない戦意を含んでいる。
「・・・・俺、この世界の人間じゃないから」
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