第2話
兎にも角にも。まずはこの・・・・身も凍るブリザードの中で、健やかな寝息を立てている素っ裸の少年を起こさないことには話が始まらない。
信じてもらえないかもしれないが、本当にこの少年が誰なのか思い当たる節がない―――いや、思い当たる節がない少年と同衾したのかお前、と言われると全身全霊で言葉を撤回しなければならないかもしれないが、それでも本当に知らない。
私は無実だ、信じてくれ。
毛布に包まり、丸くなっている少年のまず目を引くところといえば、その鮮やかな赤の髪である。
腰まで達しようかというその髪はジェイドに負けず劣らずサラサラで、思わず羨望の眼差しを・・・向けたくなるが、背後で行動の逐一を監視しているメガネが恐ろしい。
彼が人を殺すのに必要なのは刃物でも鈍器でもなく、口だ。
「な、ちょっとお前・・起きろよ! てゆーか起きてくれ頼む、空気読めよお前!」
ゆっさゆっさと(毛布の上から)体を揺する。
すると、「・・んむぅ・・・」と声にならない呻きをあげた少年がごろりと寝返りを打ち、その拍子に彼の顔があらわになって―――は背後のメガネの存在を一瞬忘れ、彼を凝視してしまった。
19年間を育ててきた保護者が保護者なら、彼女の一番の親友というか悪友であるガイも、去年の学園祭で美男子コンテスト第1位を獲得した過去を持つ端正な美青年だ。
そういえば、ジェイドの大学在学中に行われた美男子コンテストは10年の月日がたった今でも語り草となっている。
最終選考会までなんの不安要素もなく駒を進めたジェイドだが、その最終決戦の場で素晴らしい好勝負を繰り広げた。
相手は、親友であり、現・マルクトファンド 最高経営責任者でもあるピオニーである。
・・・とまぁ、の周囲は月9ドラマ主演俳優も真っ青なイイ男揃い(自身、その「イイ男」の頭数に数えられることが多い)。
それゆえ、カッコイイと呼ばれる異性には耐性があるのだが―――
「・・んぁ? あー・・おはよ、。今日は随分早いのな」
ようやく眠りの淵から甦ってきた美少年は、自分の顔を覗き込むをその翡翠の瞳に写した瞬間、にへらと相好を崩して。
どこかこう、聞いたことがあるような気がする声に固まるに頓着せず、少年はその腕を伸ばし・・・
「今日休みだろ? だったらいーじゃん。まだ寝てよーぜ」
行動の一切を停止させてしまったの頭を抱き、ごろんとベッドに横たわらせて。
少年は最早声もないに満面の笑みを見せ、「おやすみィ」とのたまうと、瞼を閉じ・・・・・・・ようとして、部屋の中に猛然と吹雪くブリザードにようやく気付いた。
「・・・なァ。アレ誰?」
「ああ、あれは「説明より前にすることがあるのではないのですか、」
「はいぃいい、スイマセンごめんなさい今すぐ起きますコイツ起こしますからお願いです、槍を具現化させないでください!」
+ + + + + + + + + +
素っ裸でのベッドに眠りこけていた少年が、あの『ルーク』であるのを聞き出すまでがまた、大変だった。
の頭をぎゅうと抱き締め、離そうとしない美少年と、「そんな若いのに死に急ぐなんて・・残念です」と今にも嬉々として槍を振るいそうなジェイドの間に挟まれ、は己の寿命が少なくとも10年は短くなったことを悟る。
とりあえずこの腕の中から逃れようともがくだが、思った以上に少年の戒めが強くて抜け出せない。
ああもう、面倒くさいし別にいいか・・と諦めようとした彼女に降ってきたのは、天使の笑顔で繰り出される悪魔の死刑宣告だった。
「、いつまでそうしているつもりです? 愛娘同然の貴女が、見知らぬ男とイチャイチャしているのをこれ以上見せ付けられたら、いくら温厚な私でもどうにかなってしまいますよ?」
とりあえず、“温厚”という言葉の意味を調べてきて欲しい。
「あーもう、なんなんだよお前! さっきからうるせぇなぁ・・・・ってあれ、なんで俺こんな格好してんだ?」
「ってバカお前、起き上がるな毛布被ってろ! 今服持って来るから!」
起き上がられて堪るか。頼むから、今の自分の格好を自覚してくれ少年。
投げ渡された服にようやく頭を通した少年は、「悪ィ」と言いながら笑った。ううむ、どこか憎めない少年である。
「それで? 貴方との関係は?」
まずい、ジェイドが真顔だ。
どんな窮地に陥ったとしても、どれだけシリアスな場面でも口元に笑みを浮かべるだけの余裕は残しているジェイドが、真顔。
本気で怒っているか、もしくは余裕を見せ付けるだけの価値もないと切り捨てられたかの二者択一である。・・・・どちらも、困る。
「あ、あの、ジェイド・・・俺「貴女はしばらく黙っていなさい」
「ハイ」
怒ってるー! ものっそい怒ってる。ヤバイここ数年ご無沙汰なほど、完全に彼の怒髪点をついている。
こうなったらもう誰にも止められない。というか、誰だって暴走列車の前に立ちはだかって「止まれ!」などとは言えないだろう。
これがもし映画の一場面で、「ああ、きっと止まるんだろうな」という予測があればいいが、どうみたって止まる様子もなければ、加速度をつけて跳ね飛ばしていきそうな列車の前に飛び出すなんて・・・無謀もいいところである。
「黙ってないでなんとか言ったらどうです? 貴方とは、一体どういったご関係なんですかねぇ」
「飼い主と猫」
「・・・・・・・・ヘェ、なるほどそうですか。私の知らない間には随分と凝った趣向に目覚めたようですね」
「ちょ、少年!? 誤解招くようなこと何サラッと言ってんの!? しかもジェイド、あんたは一体何の話してんの!」
「ナニの話ですが」
「んなこと聞いてねェエエエエ! ちょ、ホントやめて。健全サイトでいたいから俺マジで」
「だから、飼い主と猫なんだって!」
「はいはい、なかなか上手いジョークでしたけど何も繰り返すことではありませんよ」
「いやだから、『猫』なんだって俺!」
「へぇ、が猫役かと思いましたが違うんですか」
「ジェイド、そのジョークはもういいって言ったのお前だよな」
「ははは、冗談ですよ」
「お前ら話聞けよ! だから、『猫』の『ルーク』なんだって!」
「お前もいい加減しつこいな。そのネタはもういい・・・・・・・・・・・ってハィ?」
「だから、俺はあの日お前が公園で拾った『ルーク』なんだって!」
繰り返す。人は、己の理性で制御できる範囲を超えた驚愕と出会うと、声を失うものである。
Tales-novel/next