第2話


そんな極度の女性恐怖症のガイとがつるんでいられるのは、なんでもガイの中では男でも女でもなく、「」なのだそうだ。それをはじめてガイ本人から聞いたとき、はなんとも複雑そうな顔をしたけれど否定できなくて黙り込んだ。それくらいの自覚は多少なりともあるらしい。

「おやガイ、貴方こんな可愛いを女性と認識していないだなんて失礼極まりないです。謝罪なさい」

どっちなんだ一体!? 思わずそう言ってしまったガイだが、ジェイドの真紅の瞳から物騒な殺意が少しばかり削がれたのを見て助かったと胸をなでおろす。結局のところ、この見目麗しい保護者はに対して過保護なだけなのだ・・・・“だけ”というには、度が過ぎているような気がしなくもないが、そんなことは恐ろしくて口に出せない。きっとあの過保護ぶりをジェイドは自覚しているようで、その実意識していないのだ。

「・・でもさー、なんかルーク、今日すげぇガイに懐いてなかった?」
「はは、そうかぁ?」
「絶対そうだ。何するのにもどこ行くのにも『ガイ、次はアレ乗ろうぜ!』って・・・金出したの俺だって知ってんのかねぇ」

ルームミラー越しにかち合った空の青が、酷く楽しそうに笑ったのが少し、の気に障る。

「なんだ、お前、妬いてるのか?」
「違いますー。なんてーの? 自分にべったりでちょっとうざいなーとか思ってた従兄弟の子供が、いざ外に出てみたらあっさり友達できちゃって、あれれ?みたいな」
「妬いてるっていうんじゃないか、それを世間では」
「・・・そう、なのかねぇ。やっぱ」

自分がガイの言葉に素直に応じたのが、彼の興味を引いたらしい。ちらと寄越してくる青の視線を睨み返し、は己の肩にもたれかかって未だスヤスヤと眠るルークを視界の端に収める。無意識のうちに口から漏れたのは、諦めたような苦笑いのような、まるであの保護者からよく零れるような溜息。

「だってさー、ルークすげぇ可愛いんだもん」
「まぁ、気持ちは分かるけどな」

だよなっ? やっぱガイはわかってくれるよなー。なぁんでこの可愛さがジェイドには伝わらないかねぇ・・・アレか、この純真無垢な感じがあの腹黒鬼畜メガネには逆効果なのか! うん、これはありうる。

「ルークが聞いたら、怒り出しそうだけどな」
「そーなんだよ、なんでコイツこんな怒るわけ?」

俺だって17やそこらのとき可愛いなんていわれても嬉かなかったよ。ルークだって同じようなもんだろ。
そゆもん? やっぱ可愛いよりかっこいいって言われたい年頃なんかねぇ。
まぁ、そうだろうな。は・・・・・・・悪い、喩えにお前を引っ張り出すのは間違いだった。
どーゆー意味だコラ女嫌い。
違う、女性は大好きだ。
・・・威張って言うことじゃないっての、ムッツリ。
誤解を招く言い方はよせ!

「・・・なんでジェイドは、俺がルークをうちに住まわせること、許してくれたんだろ」

もっともその疑問はガイの中にもあったもので、とガイ、どちらの口から放られてもおかしくない言葉だった。ただ二人とも、これまでの短いようで濃い付き合いのなかで培ったタイミングや間やら空気やら、そういうものがまるでパズルのピースのようにピッタリはまるまで口にしなかっただけで。それらが寸分の狂いもなく、ほとんど100%の確率で合致するからこそガイはを男だとも女だとも区別しがたく、もまたそれを当然のように受け入れられる。まるで空気のような存在・・・それはよく生涯を共にしたいパートナーを喩えるときによく使われる言葉だが、がそんな存在の名を上げるとしたら迷わずガイを引っ張り出しそうで、そうなると自分はどうも周囲の感覚とは違っているらしいと一人納得する。空気のような・・・ううむ、そんないるのかいないのかはっきり目に見えない感じでいいのだろうかなんて考えて、だから「はまだまだ子供ですねぇ」なんて笑われるのだ。

「そうだなぁ・・・また捨ててきなさい、とは流石のジェイドも言えなかったんじゃないか?」
「・・・言いそうなもんだけど」
「うん、いや・・・言いそうではあるけどな」

ジェイドがただひたすらを甘やかしているかといえば、実際はそうでないことをガイは知っている。彼らの間には何の境界線も線引きもなされていないようで、けれどそれは違う。ジェイドはを甘やかすことに慣れているが同じだけ厳しく叱り付けることにも、放り出すことにも慣れている。はジェイドに甘やかされることに(最近引き気味ではあるものの)慣れているが、ストレートな嫌味に晒されることも切り捨てられることにも慣れている。ジェイドはに頭があることも足があることも勿論知っていて、は自身の頭を使うこととそして、自分の足で立たなければならないことを知っているのだ。
だから彼らの関係は時に冷たく他人の目に映る。どうしてここで突き放す、というところでジェイドはを突っぱねるし、なんでここで無理をする、というところではジェイドを頼らない。だが気付いてしまえばそれこそが互いが互いに甘えている証拠で。


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