第2話
健康的に日焼けした褐色の肌、動くたびにキラキラと光を放つ金色の髪。普段からジェイドという美形に見慣れ、子供のくせに審美眼に優れたにもはっきりとわかるほど、見た人を魅了する容貌。ジェイドと同じくらいと思われるおじさお兄さん(ジェイドは何かの拍子におじさんと呼ばれたりすると、背筋が凍るような笑顔で「何か言いましたか?」とうそぶく)が、リビングのソファで眠りこけている。
「だ、誰これ・・・」
度肝を抜かれてしまった、というのが正しい。だってまさか自分の家に、まったく知らない人が家主よりも堂々と昼寝をしているのだ。はランドセルを背負ったままそれを降ろすことすら思いつかず、呆然と立ちすくんでしまう。小学1年生に、この状況を打開しろというほうが無理な話だ。
「(ど、どうしよう・・・・やっぱ、ケイサツに110番・・アレ119番だっけ? まぁどっちでもいいや、電話したほうがいいかな。でもどろぼうには見えないし、ってゆーかこんなどろぼういたらイヤだ。困ったなぁ、あと10分でドラゴンボールの再放送はじまっちゃうんだけど、クリリンがどうなるのかすげぇ気になるんだけど! どうしよ、この人起きないかなぁ、てかむしろ帰ってくれないかなぁ・・ジェイドにはナイショにしておくからさ)」
これで結構余裕な小学1年生がぐるぐる考えているうち、の願いが神に届いたのかそれとも死神に見つかったのか、金髪の兄ちゃんがゆったりとその目を開けた。瞳の色は澄んだ夏空のような青。子供は大概にして美醜に関して素直で、酷く愚かだ。吸い寄せられるように、の視線は彼に縫いとめられ拙い思考は停止する。唖然とする黒曜石と、寝惚け眼な空が交わった。
「・・・もしかして、お前が“”か?」
「そ、そうだけど・・・・アンタ誰、てか何でオレの名前知ってんの?」
ここへきて、流石に警戒心が甦ってきた。ぎょっとしたようには一歩、後ろへ下がる。
「知ってるも何も・・お前だろう? 俺のジェイドを攫って行っちまったのは」
「お兄さん、ジェイドの友だち・・?」
「ま、そんなところだ。それより・・・・」
「な、なんだよ」
すっくと立ち上がった金髪の兄ちゃんは、じろじろとを頭のてっぺんからつま先まで検分するように見回した。居心地の悪い視線に晒されて、は思い切り表情を歪める。
「おぉっと、そんな顔するなって。折角の可愛い顔が台無しだろう?」
「・・・・・・は?」
「12・・いや、あと10年! 10年経ったら迎えに来るからなー? イイ女に「それくらいにしておかないと、未成年者強制猥褻および略取・誘拐、住居侵入罪に強要・恐喝・侮辱罪、加えてセクシャル・ハラスメントでブタ箱送りにしてさしあげますよー?」
“未成年者強制猥褻および・・(中略)・・ブタ箱送りにしてさしあげますよー?”までを一気に、息継ぎなしで言い切った白皙はににっこりと微笑み、次いで金髪の兄ちゃんに深みと凄みを増した笑みを向けた。
「ジェイド! おかえり、今日早いのな」
「ええ、の危機ですから」
私の後ろに下がっていなさい、という保護者の笑顔には素直にうなずく。からジェイドの表情が確認できなくなった瞬間、部屋の温度が1,2℃低下した。
「それで? 一体何をしていたんです、ピオニー」
「何って、お前のチャンとやらを見に来たに決まってるだろう」
「そんなこと決まってなどいません、油売ってないでさっさと帰りなさい」
「ちぇーっ、ジェイドったらつれなぁい」
「気色悪いです、の情操教育によくないので消えなさい」
「嫌だね。俺は今日、と遊ぶために来たんだ。可愛くないジェイドの言う事なんか聞けないな」
「貴方みたいなのがに近づいたら、が妊娠します。骨の一本、塵あくたも残さずに失せなさい」
「・・・それが先輩に対する口の聞き方か?」
「おや、女タラシで有名な年寄りなら目の前にいますがね」
「・・・このロリコンが」
「何か仰いましたか?」
自分の言葉遣いや口調がこんな風なのはきっと、あの二人の影響に違いない。相手の抱く弱みや小さな罪悪感を針の先で突くかのような正確さで抉り出す。相手に退路を残しつつ、けれど最終的にこちらの進めたい方向に相手を素知らぬ顔で誘導する話術。はそれをジェイドと、そして今や会社社長となったピオニーから譲り受けた。
「おはようございます、。今日もいいお天気ですわね」
「あ、おはよーナタリア。なんかさ、最近急に寒くなったと思わねぇ?」
「もう11月ですもの、仕方ありませんわ」
蜂蜜色の巻き毛を揺らし、ナタリアが笑う。の隣にもう座るスペースはない。視線で「代わろうか?」と伝えると、彼女は優雅に微笑んでの膝に自身の荷物をちょこんとのせた。後輩の荷物を抱えなおし、も口元を緩める。にとって、この後輩が持つ素直であるがゆえの遠慮のなさは好ましい。
「そういえば、は結局、第一志望どこにしたのです?」
「んー、深淵大の農学部にしようかと」
「まぁ、ジェイドやガイと同じところなのですわね」
「なんか結果的にそうなった・・って言っても、センターの出来次第になるんだろうけどさー」
「・・が仰ると、少し嫌味に聞こえましてよ」
「・・そう?」
くぁ・・、と欠伸を漏らしたにくすりと笑んだナタリアが、頬に手をあてて大袈裟に溜息をつく。
「それじゃあわたくしも、この高校生活は遊んでばかりというわけにもいきませんのね」
「・・何、ナタリアってば俺のこと追いかけて来てくれんの?」
「当たり前でしてよ。すぐに追いついて見せますわ、覚悟なさって?」
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